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忘れられた存在

作者: noeru

初の短編です。うーん。大目にみてね

俺はなにものだろう

もうずいぶん前に忘れてしまった


暗闇だった

ずっとずっと

凍えるような寒さと、内側から沸き立つ熱に晒されたことがあったように記憶している

けれど、そこがどこだったのか

思い出せない



ただひとつだけわかるのは今俺は“朽ち果て”ようとしている

それだけがわかっていた

身体中に感覚はなくて、ただ待つ

終わり行くその時を


時だけが過ぎた




「っ……。」

強烈な身を焼き尽くさんばかりの


「光……」

なんて久しぶりだろう……

ずるずるっ……と鈍い音を立てて

俺はすべてを思い出した


あの日……


***

「これでよし」

声で目が……覚めた

ここはどこだ?

高いところにいることがわかった

そして

寒い……はじめは快適に感じていたのにじわじわと冷気が俺の体を凍えさせていく

なんなんだ?ここは

思っていた

すると、一人の子供?にしては大きい、しかし大人というにはあどけない

そいつは

「はーあっちぃ」

呟いた


は?なにを言っている?寒い……ここは寒い

俺の体は薄っぺらいビニール一枚纏っているだけで寒くて凍えてるのになんなんだ?

「あ、これでいいや」


は?え?

そいつは俺を軽々と持ち上げた。そして

ああ、温かい……


じわりとそいつの温もりが伝わり、凍えていた体が解れていくのを感じて

「……ほっとする……」

思わず声をあげた

けれど、その声は温もりの主には届かなかったようで

そいつは俺を連れて行く

どこにいくんだろうか……

迷いはあったが今は温もりの方が嬉しくて、しばらく身を委ねていた


とん……と下ろされた


「温めますか?」

ん?なにを温めるんだ?

俺は首を傾げた


「っ!!な、なにをっ」

俺の叫びは届かずに、女は俺を閉じ込めて

「っ!熱いっ」

カッと照らされた光、体の奥を無理矢理沸き立たせる熱に俺は叫んで、意識を手放した


「……ぐあああああっ」

強烈な痛み

意識は強制的に目覚めさせられた

引きちぎられた腕、足

「あああ……」


また、意識を手放した


「ん……」

「よう、目が……覚めたか?」

「え?あ……お前は?」

「俺か?俺はお前のすぐあとにここへ来た」

「……ここは?」

辺りを見回すと暗く、少しじめじめとしていた

「お前……ひどくやられてるな……」

そいつをみると、そいつは肩から下がなかったが、それでも足と反対の腕はあった

「お前……名前は?」

俺は腰から上だけの体でそいつに話しかけた

「あ、ああ俺か?俺の名は……」

「……へぇ。俺は……だ」

それから、そいつと話ながら時を過ごした

話相手がいるってのはありがたいもので、少しずつ少しずつ体が腐り、あの世へと向かおうとしているのに

不思議と孤独や絶望はなくて

次第に

「なあ、もう少し……近くに」

「……ああ、そうだな……」

寄り添うようになっていた


二人きり、他にはなにもない暗闇

朝なのか昼なのかわからない

でも、

「お前がいてくれたら……それだけでいい」

「ああ、俺もだ……」

互いに伝わる温もりに癒されていた


なのに


「っおい」

眠り込むことが増えてきた。最初は「寝ろ」なんて言えていたのに

目覚めないのでは、そんな恐怖感に捕らわれていた頃だった


「……悪いな……どうやら俺のが先に」

うっすらと開けた目が、俺を見上げていて……

「っ!ま、待てっ」

どうしようもなく不安で、必死で

「……泣くな。お前が泣くと……」

「っ……」

泣いていることに気づかされた。でも俺には拭う腕はなくて

「……泣くな。大好きだよ……」

ヤツの残された左手が、俺の涙を拭った

「いやだっ!」

触れた瞬間、想いは堰を切ったように溢れて

「逝かないで……」


生まれてはじめての口づけをした


「……ごめん……な……」

見つめあったその目に一筋の涙が伝い

「生まれ変わってもまた……出会えるよ」

「……っ」

微笑み、そして……


「っ……ハンバーガーっっっっ!」

思いきり名を呼んだ

「先に……逝く……おにぎ……り」


あ、そう……だ



***

「ちょっ、お前……」

「は?」

「これなに?」

「あ……」

「はぁ、本当に信じられない!食べ掛けとかかばん中放置とか!!」


そうだ、俺の名は……おにぎり


よかった……思い出せた……

これで、俺もあいつのもとへ逝ける……



中学生のスポーツバッグの片隅で忘れられた存在……





すみませんでした。偶然見た息子の鞄のなかに彼らはいた(笑)

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