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double blood  作者: 優緋
中学編 当たり前の日常を捨て
8/13

夏合宿

 キキー。

 小さな音を立てて、バスが山の中のペンションの駐車場に泊まる。

「着いた~!」

 わくわくしながら降りる満に続いて切花はバスを降りる。

 中学最後の夏休み、学校で参加希望者達が集めての星座観察のための2泊3日の合宿がある。

 夜の住人である満は、夜遅くまで友達と起きて過ごす時間がある事に喜んで当然のようにすぐに飛びつき、参加希望を出した。

 半分とはいえ人狼の満を野放しにはできず、当然、満の監視者のため、切花も同行することになった。

 着いてそうそう、既に満の口元が緩んでいる。

(ん~……)

 緩んだ顔を見るのは珍しくて、それが嬉しくて、自分も頬が緩みそうになるが、それではいけない。

 1年以上付き合って、今は仲が良くなってきてしまって、大切にしたいという思いと、冷静に監視しなければならないという思いの間で正直、付き合い方に困っている。

「なぁ、早く行こうぜ!」

 満に急かされて、切花はすぐについて行った。


 ペンションの中の班ごと割り当てられた4人部屋に入ると、切花は着替え等が入った肩掛けのスポーツバッグを置く。

 この後は、暫く自由時間があって、その後、夕食の支度。夕食は各々の班で作る。作るのはカレーと無難な物だが、班に満という大食いで肉大好きな半分だけの人狼がいるため、肉をたっぷり入れる。

 その満は荷物を置いてすぐに傍の林を散策しに行った。普通の人より獣に近い満にとっては自然に触れられるのは、普通の人よりも嬉しいのだろう。

「切花は、これからどうする?」

「えっと、暫く、部屋でゆっくり休ませてもらおうかなって」

「そ?じゃ、あたし達は下にいるね」

 満に続いて残りの2人が出て行く。それを確かめると、スポーツバッグの中の呪具を取り出して、広げて札の枚数を確認して、整備する。

 いつ、いかなる時でも、不測の事態に備えるべきだ。そう教わってきたし、それが正しいと思う。だから、何も備えない満は信じられなかった。

 だから、最悪逃げればいいじゃんという、その、のほほんとした考えを理解できていない。

(あのバカは危機感が、足りなすぎなんだ)


「う~ん、気持ちいい」

 満は伸び伸びとして林の中の小道を歩く。標高が高いから涼しいし、風が気持ちいい。

 何よりも都会のように臭くない。花のも、木々も良い香りがする。夜になったら、きっともっと楽しい。それを考えただけで、凄い楽しい。

 ただ、ここは既に敷地を離れて人のいない場所だ。歩いてちょっと散歩程度でこれる場所ではない。

 満は人狼の身体能力を活かして簡単にこんな場所を見つけた。人がいなくて開放的になっているため、今は狼の耳と尻尾が出ている。

「あ?何か、嫌な匂いがするな」

 微かな匂いを感じて眉根を寄せる。これは匂いよりも、むしろ感覚に近い。

(あっちか……)

 臭いのした方を満は見る。そこにあるのは隣の山だ。

(……関わりたくないなぁ)

 危ない事は対岸でやっていて欲しい。満は、そう願うのだった。

 だが、その願いはすぐに砕かれることになる。


 コンコン。

「はい」

 返事をしたら扉を開かれる。立っていたのは切り揃えられた黒髪を尻尾のように後ろで一括りにした出るところが出て、大人の女性な雰囲気の担任の教師だ。

「錦、お客さんだ」

「?こんな場所に」

 地元じゃないのに人が訪ねてくるのか不思議に思ったが、後から入ってきた筋肉質な体格の相手を見て、すぐに納得した。

 微かに仄暗い雰囲気が漂っている。これは、自分が慣れ親しんだ呪術に関係する人物特有の雰囲気。なら、この人は呪術師連合の関係者だ。

「わかりました」

 すぅっと目を細める。呪術師の顔になる。返答も迷いはなく、僅かに冷たさが漂う。

「入って」

「ああ」

「それじゃあ、あたしはこれで」

 教師が後ろ髪を残して、去っていくと扉がしまった。


「それで、何の用なのですか?」

 教師が部屋を離れて行った頃を見計らって、訪ねる。この話は一般人には聞かせられない。

「ああ、実は、大禍津が出た」

 剣は事情を辛そうに説明をする。

「えっ!こんな所にですか?」

 大禍津――B級怪異存在だ。即ち、会えば死が確約される程の相手。それを聞いて、つい聞き返してしまう。

「ああ」

「どうして、そんな者がここに?」

「ミイラ捕りがミイラになっちまったんだ。もともと小さな事件がこの付近で頻発していて、その調査に来た。特に危険はないはずの調査だった。だが、その1人が邪妖を封じている石碑を傷つけてしまった」

「何て事を」

「新人だったんだ。だから脅威に対する認識が甘かった」

「それで、蘇ったのね」

「ああ、今の俺達には、その邪妖を倒すのは難しい。そこで、偶然この近くに来ていた錦様にも念のために来て欲しいんだ」

「わかりました。では、準備をしますので少々お時間をください」

「わかった。それじゃ、俺は下で待っている」


 満は、夕食の支度が始まる少し前にペンションに戻ってきた。

 部屋に戻るために、中に入って階段を上ろうとして、嫌な臭いを嗅いだ。壁に寄り掛かっている屈強な場にそぐわない男からだ。

 横を通る時、一瞬だけ、その男に目線をやった。

 トントントン……。

 階段を上りながら理由を考えた。


(あの娘……)

 入ってきた満を見て、何度も悪鬼邪妖の討伐に参加している剣は、すぐに人とは違うと本能的に感じる。

(おいおい……そんなのと一緒にいていいのかよ)

 そう思ったが、切花が化物の監視者だと思いだす。ならば、あれが監視対象なのだろうと、あたりをつけた。

 敵ではないと思いつつも、ついつい警戒しながら2階に消えるまで剣は目で追ってしまっていた。


 コンコン、ガチャ。

 ノックをして、声もかけずに扉を開けられる音。

「なぁ、切花。下に嫌な臭いのするのがいるんだけど?」

 切花は声のする扉の方へ振り向く。

「剣さんの事ね。実は彼に頼みごとをされてしまったの」

 満は目線を落として、並べられた大量の呪具を見る。

(こんなに持ってきてたのか)

 量もそうだが、これだけ隠し持ってこれた事実に呆れてしまう。

 伏魔師がこれだけの物を準備するなら、調査の手伝いではない。

「(これだけの道具を準備するなら)……討伐か?」

「うん」

「……で行くのか?」

「よくわかったわね」

「林の中、歩いてる時に嫌な臭いを嗅いだからな」

「そう、じゃあ、こっちの事は任せてもいい?先生に適当に言い訳をしておいて?」

「いいけどさ、できるだけ早く戻れよ?」

「うん、わかってる」

 よっと荷物を担ぐと切花は、部屋を出て行った。

 途中まで乗り物を使うとは思うが、悪鬼邪妖と戦うのだ、1日はかかるだろう。

(きっと今日は帰ってこないなぁ)

 仕方がないとはいえ、1番一緒に星を見たい人がいなくて残念だった。

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