宴の終焉
ガチャ。
扉を開く。
そこには、信じたくない光景があった。
中には吸血鬼の2人が血だまりの上で争っている姿。
その後ろに月を背景にワンピースを着て、笑っている少女。
ざっ。
ただならぬ少女の雰囲気に気付き、警戒しながら部屋に踏み入れる。
かたかたという小さな音が聞こえて、横目で音の方を確認すると、子供が部屋の角で小さく、丸くなっ震えていた。
ギッ。
歯を食いしばって少女に殺気を放つ。
ピクッとその殺気に反応して、殺気を向けた吸血鬼を向く。
(まずい)
そう本能が告げる、少女の体が動いた。
少女は後ろに飛んで、バリンと音を立て、窓を割って外に出た。
ガラスの破片が舞い、同時に血を巻き込んだ赤い風が、襲う。
部屋の中にいた吸血鬼は皆、顔を覆った。
赤い風が晴れると、そこには誰もいなかった。そこには窓の横にあるカーテンが揺れていた。 部屋の中にいるよりは散歩でもした方が、気が紛れるため外に出る事にした。
バルセは、夜会の会場を誰にも見つからないように抜け、石を積み上げて造られた古びた廃墟のような城の城門を潜り、暗い草原へ出て来た。
「ちぇ、つまんないの」
そうぼやいて、地面を蹴る。
空を見上げると、まぁるい月が見下ろしていた。
すると急に影が差して何かが上を通り過ぎた。
それは、ザッと草を踏む音を立てて、少年から離れた場所に着地した。それは着地の際に折り曲げた体をゆっくりと伸ばした。
それは、腰に届くほど長い銀の髪をした少女のシルエットだった。
シルエットの頭には狼の耳、体の四肢にも毛が生えていて、尻尾がある。人ではない。
きらきらと輝くその少女はとても綺麗だった。
見惚れて、ぼ~っとしている間に、こっちに気がついて少女は去ろうとした。
「ま、待って」
その声に少女は足を止めて少年の方を向く。
「なぁに?」
少女は不思議そうに首を傾げる。
(あ、あ~、どうしよう。なんて答えればいいんだろう?)
少しでも長く、ここにいて欲しくて、咄嗟に声をかけたから、何を尋ねればいいかなんて考えてなかった。
「えっと、そうだ名前教えて」
「あたしは――」
『――ォォオン』
咄嗟に思いついた事を尋ねられて、少女は答えかけたが、その時、遠吠えが聞こえて言葉を止めた。
「あたし急ぐから、じゃあね」
そう言うと向きを変えて、ジャンプした。その姿を白銀の毛並みの狼に変わり、去って行った。
「あっ……」
振り向いた彼女は、泣いていた気がした。
その少女に少年は、ただただ彼女に見惚れるばかりで泣いていた理由も聞けず、彼女が去った後もその場で立ちつくしていた。
「あの、この事をどうします?」
「あ、ああ、とにかく主に報告して、それから指示を仰ぎます」
右後ろにいた新人の召使いが、窓を見たまま茫然と聞かれて、答える方も窓を見たまま、茫然としていたが 問われて我に返って答えた。
長年この城に仕えてきた自分が困るのだ、新人の召使いが困るのも当然だ。
「わかりました。……それで私は何をすればいいですか?」
「そう……ですね。では、部屋の掃除をお願いします」
「わかりました」
召使いの2人が、そんなやり取りをする。
「あなたは、夜会に戻ってください。この事については後ほど報告をいたします」
「わかった。では、私は、これで失礼する」
「では、後ほど」
召使いの返事を聞いて、夜会に出ていた吸血鬼は会場に戻っていった。
「あの、すみません」
夜会の会場で召使いが、会話をしていた吸血鬼に声をかける。
「さっきの事だな」
「はい。高位の吸血鬼である貴方のお話も主が聞きたいと言っております。夜会が終わるまでは、手が離せないとの事なので、夜会が終わってもお帰りにならず、お待ちください」
「わかった」
今まで、さっきの事が気になって夜会での会話に身が入らなかった。まぁ、それでも、後で詳しい事がわかると思えば、多少はマシだ。




