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double blood  作者: 優緋
幼少編 吸血鬼の夜会
5/13

血の晩餐会

 ガチャ。

 扉を開く。

 そこには、信じたくない光景があった。

 中には吸血鬼の2人が血だまりの上で争っている姿。

 その後ろに月を背景にワンピースを着て、笑っている少女。

 ざっ。

 ただならぬ少女の雰囲気に気付き、警戒しながら部屋に踏み入れる。

 かたかたという小さな音が聞こえて、横目で音の方を確認すると、子供が部屋の角で小さく、丸くなっ震えていた。

 ギッ。

 歯を食いしばって少女に殺気を放つ。

 ピクッとその殺気に反応して、殺気を向けた吸血鬼を向く。

(まずい)

 そう本能が告げる、少女の体が動いた。

 少女は後ろに飛んで、バリンと音を立て、窓を割って外に出た。

 ガラスの破片が舞い、同時に血を巻き込んだ赤い風が、襲う。

 部屋の中にいた吸血鬼は皆、顔を覆った。


 赤い風が晴れると、そこには誰もいなかった。そこには窓の横にあるカーテンが揺れていた。 部屋の中にいるよりは散歩でもした方が、気が紛れるため外に出る事にした。

 バルセは、夜会の会場を誰にも見つからないように抜け、石を積み上げて造られた古びた廃墟のような城の城門を潜り、暗い草原へ出て来た。

「ちぇ、つまんないの」

 そうぼやいて、地面を蹴る。

 空を見上げると、まぁるい月が見下ろしていた。

 すると急に影が差して何かが上を通り過ぎた。

 それは、ザッと草を踏む音を立てて、少年から離れた場所に着地した。それは着地の際に折り曲げた体をゆっくりと伸ばした。

 それは、腰に届くほど長い銀の髪をした少女のシルエットだった。

 シルエットの頭には狼の耳、体の四肢にも毛が生えていて、尻尾がある。人ではない。

 きらきらと輝くその少女はとても綺麗だった。

 見惚れて、ぼ~っとしている間に、こっちに気がついて少女は去ろうとした。

「ま、待って」

 その声に少女は足を止めて少年の方を向く。

「なぁに?」

 少女は不思議そうに首を傾げる。

(あ、あ~、どうしよう。なんて答えればいいんだろう?)

 少しでも長く、ここにいて欲しくて、咄嗟に声をかけたから、何を尋ねればいいかなんて考えてなかった。

「えっと、そうだ名前教えて」

「あたしは――」

『――ォォオン』

 咄嗟に思いついた事を尋ねられて、少女は答えかけたが、その時、遠吠えが聞こえて言葉を止めた。

「あたし急ぐから、じゃあね」

 そう言うと向きを変えて、ジャンプした。その姿を白銀の毛並みの狼に変わり、去って行った。

「あっ……」

 振り向いた彼女は、泣いていた気がした。

 その少女に少年は、ただただ彼女に見惚れるばかりで泣いていた理由も聞けず、彼女が去った後もその場で立ちつくしていた。


「あの、この事をどうします?」

「あ、ああ、とにかく主に報告して、それから指示を仰ぎます」

 右後ろにいた新人の召使いが、窓を見たまま茫然と聞かれて、答える方も窓を見たまま、茫然としていたが 問われて我に返って答えた。

 長年この城に仕えてきた自分が困るのだ、新人の召使いが困るのも当然だ。

「わかりました。……それで私は何をすればいいですか?」

「そう……ですね。では、部屋の掃除をお願いします」

「わかりました」

 召使いの2人が、そんなやり取りをする。

「あなたは、夜会に戻ってください。この事については後ほど報告をいたします」

「わかった。では、私は、これで失礼する」

「では、後ほど」

 召使いの返事を聞いて、夜会に出ていた吸血鬼は会場に戻っていった。


「あの、すみません」

 夜会の会場で召使いが、会話をしていた吸血鬼に声をかける。

「さっきの事だな」

「はい。高位の吸血鬼である貴方のお話も主が聞きたいと言っております。夜会が終わるまでは、手が離せないとの事なので、夜会が終わってもお帰りにならず、お待ちください」

「わかった」

 今まで、さっきの事が気になって夜会での会話に身が入らなかった。まぁ、それでも、後で詳しい事がわかると思えば、多少はマシだ。

 吸血鬼は、また、会話に戻っていった。


 夜会が終わり、召使い達が片づけをしている。

 目の前をパタパタと使用人達が何度もいったりきたり。そして、それも終わる。

 ット。

 黒一色の上下の服の背の低い影のような青年――供夜きょうやが足を止めて、こっちを見る。

「お前か、バルドウィンが呼んでる」

 やる気のなさそうな赤い目だけど、その目で見られて言われると逆らえない。

 こんこん。

「入れ」

 ノックをするとすぐに答えが返ってきた。言われたとおり中に入ると、夜会で起きた惨劇の関係者が集まっていた。

 そこで起こった事を説明しただけだ。まるでまだ知らない、パズルの破片があるみたいに詳しい事は何もわからなかった。


 2~3日たって、事件の事は落ち着いた。

 カチャ。

 バルセが扉を開ける。

「どうした、バルセード」

「あ、はい。あの父様。実は――」

 バルセが、おずおずと尋ねるように今日の出来事を話だした。

「銀狼の事を何か知っているのか!」

父が怖い顔をして椅子から立ち上がり、両肩を掴んで銀狼の事を何か知っているのか、知っている事があるのなら言えと問い詰めるように聞いてきた。

「今日の事は誰にも言うな、絶対だ」

 聞き終えると冷たい目で見られて、そう言われた。

「は、はい」

 怖くて、それだけでしか言えなかった。

 人狼という種族の事は、後で知った。

 他に吸血鬼にも聞かれたけれど、草原であった事を話したら少女に何か良くない事が起こりそうで、知らない、噂で聞いただけだよ、とはじめて嘘をついた。

 その後、彼女は少年の住む夜の国からいなくなったと言う話を聞いた。

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