酒場での仕事の依頼
この幼少編はホラー感いっぱいです。
平らな屋根が並び、霧が立ち込める。石造りの道路に装飾されたランタンのような街灯の古めかしい雰囲気のロンドンの一角。
瑣末なバーの扉が、カランカランと音を立てて開く。
中に入って来た灰色のスーツに丸眼鏡の長身の怪しい雰囲気を漂わせた男が、中を見回して探している男を見つけ、その隣であるカウンター席に座る。
「何にいたしますか?」
「バーボン」
「かしこまりました」
横の男は酒を、くぃっと煽ってカタンと音を立ててカウンターに置いて横を見る。
「時間通りだな、Mr.」
「で、何の用だ?」
男は、すっと一枚の写真を右手の指で押さえカウンターに置き、手を交差させてMr.の方に滑らす。
Mr.は、写真を見る。映っているのは光輝く白――銀の髪の女性。
「これは?」
「銀狼だ」
「本当か?」
「ああ」
一言だけの返答だったが信じられなくて、つい聞き返した。
ワーウルフ、ウェアウルフ、狼男、人狼は数多くの名を持つが、ワーもウェアも男という意味だ。それは、猫女はいるが猫男を聞かないように、狼女と聞かないだけあって、人狼は女性が圧倒的に少ないからだ。
しかも人狼の中でも、最も力が強いとされる銀の色も希少なのだ。
「捕まえればいいのか?」
「ああ、彼女の捕獲に協力してほしい。彼女は最悪、殺しても構わない」
「はぁ!?何言ってんだ?」
「その写真は吸血鬼達の住処付近で取られたものだ。撮影した者の話しだと、捉まったような様子はなく、保護という様子でもなかったようだ。それどころか、親しげに話をしていたと聞いた」
「裏切り行為か……!」
「そう言う事だ。その手伝いを頼みたい」
「……ふん、わかった。その依頼、受けてやるよ」
カタン。
「どうぞ」
「ああ」
Mr.は、くぃっと一息に飲み干すと札をカウンターに置くと立ち上がって去っていた。
「くくく……」
Mr.と話しをしていた袖なしのシャツを着た筋肉資質の男は笑う。
銀狼の女には使い道が多い。捕まった銀狼の女を、どう扱うか考えると楽しくてしょうがない。
その笑顔は、まるで狼が笑っているようにも見える。
「マスター、もう1杯」
「はい、わかりました」
男は出された酒を、ゆっくりと飲むのだった。