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☆☆☆☆☆☆☆――7
それは、莉奈に膝枕してもらった日の『明日』で、健児にタイムワープしていることを打ち明けた『二日後』で、そして、莉奈と初デートをした日の『三日後』。
つまり、俺がタイムワープをするきっかけとなった八月七日、莉奈との交際七日目の日のことだった。
「何、話って?」
その日、俺は莉奈に大事な話があると言われ、昨日――八月六日に引き続きまた莉奈のアパートを訪れていた。
俺の問いかけに、初めは「う、うん……」とどこか歯切れが悪そうに返してきていたが。
やがて、その瞬間は訪れた。
「実は、私の家族って両親の仕事の都合上、私以外アメリカに住んでいてね。……私もこの夏休みを最後に、アメリカの大学に留学……するんだ」
その言葉を聞いた、刹那。
俺は何を思うよりも、どんな反応をするよりも、この言葉を発していた。
「――何で!!!」
タイヤの凄まじい破裂音のような俺の怒声に、莉奈は体を大きく震わせた。
「何でだよ! 莉奈は俺と一緒にいたくないのかよ!」
「私だって一緒にいたいよ! だから夏休み中に渡米する予定を夏休みの終わりまで遅らせてもらったし――」
「でも結局俺と離れることを選んだんだ! なんだよ……せっかく恋人になれたと思ったのに、こんなの……こんなのないだろ!!」
分かってた。留学という大きなことが、付き合うずっとずっと前から決められていいて今さら変更の余地がないくらい。
それでも、それでも俺は叫ばずにはいられず、感情は止まることなく。
「もう……もういいよ。アメリカでも何でも行っちまえ!!!!」
「あっ、あや――」
莉奈の声を最後まで聞かずに、俺は乱暴に玄関のドアを開閉して、アパートの外へと飛び出した。
後ろを振り向くことなく走ること数分、俺は自分の大人げなさに頭を抱えた。とても大学生とは思えない、感情的な行動をしてしまったと、過ちを嘆いた。
しかし、だからと言ってすぐにアパートへと引き返す勇気もなく、俺はそのままうちに帰ることにした。明日にでも謝ればいいかなんて考えながら。
その『明日』が、来ることはなかった。
家に帰ってすぐテレビをつけると、ローカルチャンネルのニュースに莉奈の写真と名前が映っていたのだ――『速報:踏切で女子大生が電車と接触し死亡』という見出しとともに。
ほんの数十秒の内容だった。見出しのまんま、俺が部屋を出てすぐの時間帯に莉奈が人通りの少ない踏切内で走行中の電車にはねられて即死したことと、事件性は低いという警察の見解を告げるとすぐに次のニュースへシフトした。
それはあまりにも突然で、飲み込むのには時間を要した。
ただテレビの前で立ち尽くしていると、やがてじわじわと少しずつ俺の中にしみ込み始め、
「……俺の、せいだ」
出て行った俺を追って……探している途中に……莉奈は……。
「……あ……あぁ」
わああああああああああああああああああああああああ、あああああああああああああああああああああああああああ、ああああああああああああああああああああ、ああああああああああああああああ、ああああああああああああああ!!!
……それから、どれだけ泣き叫んだ後だっただろうか。
「……戻してくれ」
辛さのあまり次第に意識が薄くなっていく中、俺は虚空の彼方を見つめながら呟くように言った。
「隣に莉奈がいない未来に、『明日』に進んで行くんじゃなく、莉奈がいる『昨日』に戻していってくれ――」
「――莉奈がいるうちに俺との繋がりを絶って、俺のせいで死ぬ運命から解放してあげたいんだ」