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効率厨と野良PT再び

 起きて朝食を食べる。

 シンからメールが来ていた。

 大丈夫? と聞いてきたので大丈夫と返しておいた。


 その後ログインしてみると当然というべきか、すごいことになっていた。

 受信メールが100を超えている。なんだこれ。

 宛名を見て分別すると、身内からが5通、昨日の連中からが2通、そしてそのほかがいっぱい。


 とりあえず身内からのを開いて確認していく。

 まずはシンからのだが、これはリアルで来たものと変わらないのでパス。

 次にエクレアさんからのだ。昨日の件についての謝罪とどうしよう? といった趣旨の内容であった。「大丈夫だから気にしなくていい」と返しておいた。

 ミーコさんと「祝い」さんからも着ていた。こっちはいざとなったら力を貸すから言えといったような趣旨だ。心配するようなことが書いてない辺り信頼されていると思いたい。

 最後にこれはβのギルメンの一人で、仲がよかった†黒星龍†さんからだ。内容は「動画ヤバスwwwwww」の一言であった。彼はオープンからは解禁された動画配信なんかを行っていたはずなので宣伝してくれたのかもしれない。

 案の定有象無象の中に彼のリスナーを思しきメールが混じっていたので、「宣伝ありwwwwww」と返信しておいた。


 さて、問題は次だ。

 二通のメールは昨日組んだ三人のうちで二人からのものであった。

 一人は≪アルケミスト≫のコウジからだ。こっちは単純に昨日の件での謝罪であった。謝罪、それもあくまで昨日の件であり、それ以外余計なことが書かれていないあたり動画の件も含めてこっちの意図を汲んでくれたのであろう。すなわちこれでお互いに水に流しましょうと。

 もう一人レオンから来たものには謝罪と同時に動画の削除を求める要請がなされていた。それでも一応謝っているし、動画自体ももう役目は終わっているので削除もやぶさかではない。


 問題のもう一人、カインの謝罪があるのならば。


 俺はなにも掲示板の件を謝ってほしいとは言わない。十中八九彼であろうとも証拠はないのだ。

 二人については昨日のうちから謝罪も受けたし、俺の中では許していたのだ。

 だが昨日途中抜けしたカインはまだ許せていない。そもそもあいつだけはまだ俺に謝ってすらいないのだ。


 俺はその趣旨を書き込んで二人に返信した。






「ふう」


 俺はそれだけ済ませて残りのメールは全部まとめて削除することにした。勧誘か苦情が大半だし読む気がしない。

 それだけ済ませてメールボックスを閉じて時間を確認する。


 今日は午後から友人二人と合流して狩りをする手筈になっている。

 故に午前中はフリーだ。


 俺は今日も今日とてサブ上げのために子供NPCが集まる一角へと向かった。


「さすがすぎるわ」


「おや、おはようございます」


 そんな俺を待っていたのはミーコさんであった。

 すぐに飛んできたPT申請を俺は受ける。


『この状態でもやるの?』


『ええ、大丈夫ですよ。大して気にしませんし。それに今日中に10まであげたいんですよ』


『それで犯人からの謝罪は?』


『共犯二名からは改めて、主犯からは音沙汰なしですね』


『めんどくさい・・・・・・』


 それについては同感だ。しかし言っても始まらない。


『二人には伝えてあるのでそれで何とかなるでしょう。というかならなくてもいいですしね』


『相変わらずそういうところドライだね』


『生意気なガキってだけですよ』


『口では絶対に勝てないって再認識したよ』


 そんな得体のない会話をする。

 俺はマクロを起動してジャグリングを始めた。


「おい、あれ」「ああ」


 平日の昼間だというのに割りと足を止める人は多い。


『人気だねぇ。大丈夫?』


『きっとミーコさん目当てですよ』


『はっはっは、冗談は顔だけにしなよ、キミぃ』


 笑顔が怖い。

 もちろんお互いに冗談だがミーコさんくらいなら十分ありえるだろう。本人は貧相な体型を気にしているが、男なんて顔さえよければ体はあとからついてくるのだ。

 当然こんなことは本人どころか女性の前では決して口には出せないが。


「すみません、よければ一緒にPTやりませんか?」


 そんなことをしていても声をかけてくるやつはいる。目が笑っているな。

 声をかけてきたのは一人の男だった。中学か高校であろう。後ろにPTであろう男女が見える。彼も含めて4人といったところか。


「悪いけど、サブ上げしながら友人としゃべっているので」


「そこをなんとか! 是非噂の姫の実力を直で見たいと思いまして!」


 芝居がかった口調でそう続ける。

 勇者だな。

 周りがざわつき、同じPTの女性が男の裾を引いている。


「PTメンバーの職とレベルを教えてください」


「え? あ、俺が≪ファイター≫のレベル12、で、あとは≪パラディン≫のレベル12と≪ソーサラー≫のレベル11、それと≪クレリック≫のレベル10がいる」


「わかりました。いいですよ。昼までですが」


『いいの?』


『いいPT構成じゃないですか』


『あぁ、うん』


「じゃあ、PT解除するのでちょっと待ってくださいね」


『というわけでちょっと狩ってきます』


『はぁ。まぁいいか。じゃ、頑張ってねナナっち』


『はい。ミーコさんも元気で。心配かけてすみませんでした。エクレアさんのこともよろしくです』


『はいはーい』


 そういって俺はPTを解除した。

 手を振って去っていくミーコさんを見送り、改めて声をかけてきた男に振り返る。


「お待たせしました。よろしくお願いします」


「よ、よろしくです」


 こうして俺のこのキャラ二回目の野良PTが始まった。






『来るぞ! リュウ頼んだ!』


『おう! いくぜ≪ウォークライ≫!』


 場所は昨日と同じ「宵闇の森」のダンジョン。開始15分ほどですでに半分を通過していた。


 俺は後方の沸きと左右からの奇襲に備えていた。

 前方では≪パラディン≫のリュウが敵を引き付けている。使っているスキルは≪バーサーカー≫の≪ウォークライ≫というスキルで、これはヘイトをコストに自身を強化するスキルである。本来ならば。

 しかし、壁職であるリュウにとってはヘイトを稼げて自身も強化できるまさに一石二鳥なスキルとなっている。

 パラディンの弱点である対多数へのタゲ取りと火力不足による剥がれを防ぐよいビルドだと思った。


『よっし、いくぞ! ≪サイド・ストライク≫!』


『おう! ≪ウォークライ≫!』


 ≪ファイター≫であるキリが放った横一線が敵を薙ぐ、そしてすかさず≪ウォークライ≫を重ねてタゲが移るのを阻止していた。


 と、そうしているうちに奇襲だ。

 召喚しているスケルトンを左の向けて壁とする。


『ナナさんそのまま! ≪マジック・ミサイル≫』


 ≪ソーサラー≫のユキさんが両手を挙げる。5つの光の杭が出現し、次々とモンスターに突き刺さった。

 3発で死んでいるのにオーバーキルもいいところだ。

 ≪ソーサラー≫はどうしても範囲攻撃に乏しいため、今回は脇に沸いたモンスターの処理を担当してもらっている。5発ってことはレベル3まですでに上げているのだから、その威力は押して知るべし。その上頻度もそこまでではないためMPも十分温存できている。


『全員一回止まって! ≪ブレス≫!』


 ≪クレリック≫のナッツさん(正確にはマカデミアンナッツさん)が全員を止め、切れかけたバフを掛けなおす。


 俺はマップを確認した。程なくボス部屋である。







『ボスは俺とナナさんで壁やりましょう。キリは横からな』


『わかってるよ』


『やっと本気をだせるよ』


『≪ブレス≫! よしOKだよ』


 全員でうなずき合ってからボス部屋へと突入した。

 そこにいたのは全長5mを超える大型の亜人。このダンジョンのボス「トロール・ボス」だ。


「GGAAAAAAA!!!」


 雄たけびをあげてその巨腕で丸太のような棍棒を振り上げる。


『こっちだ! ≪プロボック≫!』


 リュウの挑発が飛び、ボスの視線がリュウへと向けられた。

 それを見てキリが動く。左サイドへと回るとタゲを取らない程度に攻撃を開始する。


『≪ウォークライ≫! でぇ! ≪クロススラッシュ≫!』


 これでリュウにタゲが固定されたであろう。

 俺はスケルトンへと指示を飛ばし、正面から攻撃を開始した。


『≪ハウリング≫! ≪マジック・ミサイル≫!』


 ユキさんも怒涛の魔法攻撃を加え始める。


 俺はボスの動きをよく見て逐次指示をだす。

 攻撃自体の指示は少なめだ。それよりも注意するべきは敵からの攻撃だからだ。

 ボスが棍棒を振り下ろす。縦振りだな!


 俺はすぐにスケルトンにバックステップを繰り出させる。

 リュウも避けることにしたらしく、横に跳んだ。


 そしてすぐに棍棒を振り上げ、今度は――今度も縦か!


 リュウは避けきれないと判断して盾を構える。

 だが俺の判断は違う。


『リュウ、右に跳べ!』


 そういってスケルトンを彼の前に出す。


 そして振り下ろされる棍棒。

 それにあわせて体ごと剣を叩きつけた。


 ガキンという音ともに棍棒が左に逸れる。

 俺の指示通り右へと跳んでいたリュウは回避に成功する。


『≪サモン・スケルトン≫!』


 攻撃の代価として避けることができずに砕け散ったスケルトンの代わりを召喚する。

 クールタイムと討伐予想時間の関係で、おそらくこれの代わりはない。こいつは大事に使わないとな。


『助かった!』


 リュウの声に俺は答えない。

 今度は横振りか。


 このボスは通常時は棍棒の縦振りないしは横振りを2~3回行ってくる。

 縦振りのほうがダメージが高く、盾職がガードしなければ一撃で致命傷まで持っていかれるほどだ。

 横振りのほうはダメージが低い代わりに範囲が広く、吹き飛ばして体勢を崩されやすい。


 避けにくい横振りではあるが、避け方はちゃんと存在する。


 リュウは最初から諦めて盾を構えた。

 俺はスケルトンに三角跳びを指示した。


『うおおおぉ!!!』


 次の瞬間振るわれる横薙ぎに対して、モンスターの巨体を蹴って跳び上がった。

 成功だ。


『すげぇええ!!!』


『あ、と、≪ヒール≫!』


 ぽかんとしていたナッツが慌ててリュウに回復を飛ばす。


 ちなみに今のがこのゲームにおけるボス等が行う横薙ぎの基本的な対処法だったりする。

 スケルトンは軽いという設定なのか、こういったアクロバティックなことが比較的簡単にできる。

 もっとものちのちはこれを俺はユウにやらせるつもりだったりするのだが。


『おい、リュウ!』


『あ、悪り』


 再びリュウがターゲットを固定すると猛攻撃が始まり、程なくボスは討ち取られるのであった。







『お疲れ様でしたー。今日はありがとうございました』


『いえいえこちらこそ』


 あのあとダンジョンを出た俺らは清算を行った。

 ボスレアこそ出なかったものの、ぷちレアは多かったため結構ホクホクであった。


『いやしかしすごかったですね、あのジャンプ!』


『だね!』


『うん、すごかった』


『マジか、俺のほうから見えなかったんだけど』


『動画とっておいたからあとで見せるよ』


『サンキュー』


『あ、ナナさん、動画個人的に見せるだけならいいでしょうか?』


『別にいいですよ』


 そんな感じにボスで見せた三角跳びの話題で盛り上がる。


 時間はまだ10時を回ったところ。一周45分としても昼までまだ余裕がある。


『もう一周しませんか?』


『いいですね!』


『俺もいいぞ』


『いこ、いこ!』


『はい賛成です』


 俺の提案に全員が乗ってきた。

 結局昼までにもう2周することになった。







『いやぁ、今日は楽だったな』


『そっちのPTなら余裕だったでしょう』


『いやいや。やっぱりダンジョンは最低5人はほしい』


 終わってみれば相当に恵まれたPTであった。

 話を聞くと驚いたことに4人で固定PTというわけではなかった。ナッツさんは今日始めてだし、ユキさんはギルドメンバーだけれども今日始めて組んだのだそうだ。


 それであの連携か。

 いや前衛二人が息ぴったりだったからそれで誤解してしまった。


『しっかし、動画でも見たけど、どうやってるの? あれ』


『ただのマクロですよ。≪サモナー≫は大体召喚獣の動きをマクロ化して動かすんです』


『いやいや、他のサモナーを見たこともあるけど、スキル指示するくらいでしたよ?』


『それは高レベルで数もスキルも揃っているからですよ。俺のスケルトン、まだ通常攻撃しかできませんし』


 そのため低レベル時の≪サモナー≫は通常サブ職で他からスキルを引っ張ってくるのが普通だ。俺だって≪ソーサラー≫から≪マジックボルト≫を引っ張ってきている。

 それが解消されるのはレベル15あたりであろう。そこら辺から≪サモナー≫は一気に選択肢が増える。


『そうなんですか? それでもあんな動き方したのを見るのは初めてでしたけど』


『基本スケルトンは使い潰して何ぼですしね。俺はまだレベルが低くてそれができないだけです。それに動きだけならダンスとかいろいろやってる動画もありますよ』


『あー、それ私みたことあるよ。たしかスケルトンのは人数多くておもしろかったよ』


『レベル上がれば複数召喚が可能ですからね。某ミュージカルのコピーは見ごたえがありましたよ』


『俺が見たのは精霊のヤツかな。めっちゃきれいだった』


『変態』


『えええ!?』


 そんな話をして、俺は昼食のためにログアウトするのであたった。


 しかし一つだけ納得できないことがある。

 結局3周してボスレアを一度も引けなかったことだ。確率75%くらいなんだが・・・・・・。

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