TA後日談 堂島信二の場合
僕が二人と出会ったのは中学一年の頃であった。
といっても、最初は別の小学校だったということもあってほとんど接点は無かった。
当時の僕はレイちゃんと離れ離れになってしまったこともあって、ずいぶんと塞ぎこんでいた。
事件が起きたのは一月も経たないうちであった。
二人が深夜ゲームセンターで遊んでいたところを補導されたのだ。
当時の担任は厳しい人で、クラス全員の前で二人を説教した。
クラス中がいい迷惑と思っていたのだが、僕にはクラス委員長としてさらに多くの言葉をもらった。
やりたくもない委員長を推薦でやらされたうえでのこの仕打ち、うんざりしたことをよく覚えている。
彼らはしかし、その後一月もしないで3回も補導されることになった。
はっきり言おう。当時の担任ができた人じゃなかったら、彼らは停学もしくは最悪は退学となり僕との接点もなくなっていたであろう。
彼らと担任との間でどんな話がされたのかは知らない。
今ならば想像はつくが、それがわかるのはずいぶんと後の話になる。
その後彼らが補導されることはなくなったが、彼らが不良としてクラスメイトから距離をとられるきっかけとなるには十分な出来事であった。
迷惑を被ることになったのは僕であった。
チーム分け、グループ分け、さまざまな学校行事で孤立する彼らに僕が付く事になるのはそう時間がかかるものではなかった。
当時レイちゃんから別れ話を切り出され、周りみんなが面倒で一人になりたかった僕にはそれは渡りに船となった。
話してみれば彼らは別段悪い人ではなく、僕とも普通に接してくれていた。
この段階では僕はしかし別に彼らと親しいわけではなかった。このとき壁を作っていたのは僕のほうだったと思う。
この壁が取り払われるのは夏休みに入る前のある日、クラス委員会の都合で遅くに教室に戻ったときに二人の内緒話を聞いてしまったときだ。
『だからとっとと誘えよ、ユウ! あのガンシュー、まだ斉藤さんがクリアしてないのは確認済みだ。今なら絶対乗ってくるって!」
『だけどよぉ、カズ・・・・・・』
『だけどじゃねぇよ! 斉藤さんの腕じゃ、あと3日もすればクリアしちまうんだぞ! そうしたら、それっきり飽きて別ゲー行ってしまうかもしれないんだぞ!』
『それはわかってるんだが、いざ誘うとなるとなぁ・・・・・・』
『うっせぇ! こちとら補導までされて、先生たちにも迷惑かけて練習したんだろ! これで誘わなかったら俺がおまえを殴るぞ!』
『くそ、わかったよ! ・・・・・・「やぁ、斉藤さん。これやってるの? よかったら一緒にプレイしない? 俺一回クリアしているし」だな』
『おう、とちるなよ』
斉藤さん? 隣のクラスの斉藤美紀さんのことか?
この日から、僕は意識的に彼らの話を拾うようになった。
『で、その「バトルオンスロート」ってゲームについて聞きたいんだが』
『「BOO」か? FPSじゃ今一番熱いゲームだ。一人称視点で銃もったキャラで陣取り合戦かバトルロイヤルするゲームだ。いっとくけど滅茶苦茶ムズいぞ』
『マジで? 斉藤さん、国内ランク87位らしいんだが、それってどれくらいでいけそう?』
『はぁ!? 87位? いや、それは無理だろ。っていうか斉藤さんガチすぎだろ・・・・・・』
『そこをなんとか頼むって!』
『いや無理。俺はFPS好きだけど滅茶苦茶苦手なんだよ。だからそもそも教えられない。むしろ斉藤さんに聞け』
『いや、彼女教えるの下手な上にそれを自覚しているから・・・・・・』
『じゃあ、あきらめろ。おとなしく格ゲーとガンシューと音ゲーに絞ったほうがいい』
『おう、それで今度隣町まで行ってその「ディアボロス3」ってのを買って遊ぶ約束をしたよ』
『・・・・・・。一応言っとくが覚悟しとけよ? それまだ日本語版出てないからな?』
『え?』
聞けば聞くほど、彼らというか長谷部雄二が斉藤美紀さんと仲良くなるためにいろいろと画策していることがわかった。
どうやら彼女はよほどのゲーム好きらしく、そのためのゲームの特訓をしているのだと。
僕の中にあった嫌悪感はなくなり、むしろ自分と同じ悩みを持つ彼に親近感が沸くようになった。
『で、誕生日はどうするんだ?』
『ああ、プレゼントは「ドリフトレーシング」だかの専用コントローラーがいいってさ』
『いや、それたぶん彼女なりのジョークだからな? プレミアついて結構な値段になってるからな、それ』
『え』
『っていうか、普通のプレゼントを贈れよ。悪いことは言わないからゲーム関連はやめておけ。飽きたら売られかねん』
『マジでありそうだからやめてくれ。っていうか普通ってなんだよ。どんなの贈れば喜ぶんだ?』
『言いたくはないが、俺は彼女いない暦=年齢でクラスの女子もよりつかないぞ?』
『うん、知ってる』
『で、そんな俺のアドバイスに一欠片でも信憑性が乗ると思うのか?』
『思わない』
『・・・・・・他をあたりな、坊や』
『だれが坊ややねん! 少なくともお前よりはいくらか大人だ!』
『これが持つものと持たないもの差、か。これで勝ったとおもうなよぉ!』
『誕生日プレゼントなら誕生石のアクセサリーなんていいんじゃない?』
思わず口に出していた。
次の瞬間、二人がクワっとこっちを見た。怖いって。
『イケメンじゃ~。イケメン様がアドヴァイスしてくれましたぞー』
『さすが委員長! ナイスアイディアだぜ! で、それってどこに売ってるものだんだ?』
『僕は駅西のアクセサリーショップで買ったけど』
おもわず気圧されて答えてしまう。だから怖いって。
『「僕は」!? やっぱり噂通りの彼女持ちか、爆ぜろ!』
『なんて説得力だ。これが「※ただしイケメンに限る」か!』
『いや、あのね。君たち・・・・・・』
じりじりとよってくる二人。怖い。
そしてとうとう長谷部に肩をつかまれる。
『そういうことならちょっと相談したいんだが、当日のデートプランでよぉ・・・・・・』
『くそ、このリア充どもが! 爆発しろ!』
その後場所がわかりにくいということで一緒にアクセサリーショップへいったり、デートコースの下見に付き合わされたりした。
それからはずいぶんと仲がよくなったと思う。
僕も自分の恋愛相談をすることが出来て、結果として相当助けられることになった。
そしてそれは今でも変わらない。
約束の時間30分前に到着した僕は、アイテムのメモ帳を開いてそこにある文章データから今日のデートコースをもう一度確認していた。
このデートコースの提案はカズからのもので、このセントラル内のおもしろそうなところを一通り見ることができるコースとなっていた。
昼前に自分で一通り回ったけれど、いい選択をしていると思った。
今日は一日レベル上げはお休みだ。
ユウはリアルでサイトーさんとデートだし、カズは・・・・・・まぁゲームのどっかで何かやっていると思う。
そして僕はゲーム内でレイちゃんとデートだ。
彼女の都合で3時間だけだが、今までを思えば十分である。
今日を終えたら、また来週まで会えないが。それでも年二回しか会えなかった今までと比べれば十分であろう。
『あ、シンくんお待たせ』
『こんにちはレイちゃん。じゃあ、行こうか』
そういって彼女の手を握る。
キスや抱きつく行為はハラスメントで禁止されてしまっているため、握手だけが僕と彼女が触れられる限界である。
『シンくん?』
『ああ、ごめんね』
強く握りすぎた手を緩める。そこから伝わる体温は人間データへの接触による一定の温度としか感じ取れないが、僕はそれを彼女の体温と信じた。
『昨日のダンジョンは――』
『だね。二人とも――』
僕は今、こうして彼女の手を握っていられることを二人に感謝する。
そしてもちろんこのゲームにも。
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