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TA後日談 橘麗華の場合

 私がそのゲームの話を聞いたのは二月の終わりであった。


 期末テストを終え、ようやっと解禁された彼氏との電話の中での話だ。


『だからさ。このゲームでなら現実と変わらない感じで会えると思うんだ!』


 そう力説するのは私の彼氏である堂島信二だった。


 私たちが出会って付き合い始めたのはずいぶんと前のことだ。

 そしてそれと同じくらい私たちは遠距離恋愛を続けていた。


 正直何度もくじけそうになった。

 会えるのは年二回がせいぜい。そのうえ家の親はそういったことに厳しく、電話やメールでのやり取りも制限されることが多かった。


 そんな私をしかし彼は見捨てなかった。

 彼の電話やメールに励まされたことは数え切れない。


 私は自分に自信がない。

 背も低ければ、体型も幼い。友人たちと一緒に映画を見に行って一人だけ子供料金にされそうになるくらいに。

 そんな私が果たして彼の隣にいていいのだろうか?

 それでも、そんな私でも彼は好きといってくれる。


 すごい人だと思う。

 友人に話をしても滅茶苦茶うらやましがられるか嘘だと思われることのどちらかしかないくらいだ。


 だから私は努力することにしたのだ。

 彼の彼女であるために。


 目下の目的は同じ大学に通うこと。

 高校の時はどちらの親も一人暮らしを許さなかったのでかなわなかったが、大学では一緒の学校へ通うことができる。

 いや、それどころか彼はもう同棲するための準備を進めているんだとか。さすがにこれはまだ私にしか言ってないけど。


 だけどもそれよりも早く、出会える頻度を上げることが出来るかもしれないという。


『今はβテスト中で、それをやっているカズに聞くと、ほとんど現実と変わらないらしい。もちろん制限はあるし、現実にないものも多いけどね』


 日本初のVRMMO『オーバーランド・オンライン』、そこでは生身のデータをスキャンしたアバターを使ってゲームをプレイすることができるらしい。

 その結果、現実で会うこととほとんど同じ感じで会うことができるらしい。


『僕のほうは推薦取れれば問題ないってことで承諾を得たよ。レイちゃんも頑張って両親を説得してほしい。ゲームだしゲーム機自体も結構高いのがネックなんだけど、直接会うよりはぜんぜん安いしね!』


 ゲーム機か。

 私の両親はそっちの関係はとてもうるさい。

 私に推薦は無理なので、模試でA評価とか結構な無茶をする必要がありそうだ。


『ユウのやつもサイトーさんがやってるって知ってなんとか手に入れようとしているみたい! すぐには無理だけど夏までにはやりたいと思ってる。まだ未実装らしいけど、そのころには海で泳ぐこともできそうだし』


 海か、行ったことないなぁ。

 水着とかどうしよう。

 ああ、いや、ゲームの中でなのだからゲーム内でなんとかなるのか。


 うん、ゲームでなら移動時間とかも関係ないしね。

 一時間くらい海で泳いでから現実で勉強とか、けっこうどころでなくいいかもしれない。

 無論、やりすぎれば一気に成績が下がりそう。ゲーム機は両親に管理してもらおう。


 やる気がでてきた。

 まずはどうやって両親を説得するかだ。

 やっぱり模試かなぁ。






 そして現在、私は『オーバーランド・オンライン』をプレイできている。

 毎日一時間の条件こそ達成できなかったものの週二日3時間はこの世界で彼と過ごすことができる。


 彼の友人に会うことが出来たのも大きい。

 長期休暇はいつも彼が私のところへ遊びに来ていた。だから話を聞いたり写真を見たことはあるけれど、直接会うのは初めてであった。

 いや、ゲームの中なんだけどね。


 サッカーで全国までいったり、馬鹿やったり、彼女である斉藤さんのためにやっぱり馬鹿をやったりしている長谷部勇人さん。


 長谷部さんと一緒に馬鹿やったり、斉藤さんとくっつけるためにやっぱり馬鹿をやったりしているゲーム好きな境和樹さん。


 長谷部さんは見た目どおりのさっぱりした人のようだ。一見するとがさつとも取られそうだけど、所々で私とシンくんをフォローしてくれていた。

 エクレアさん、というか咲ちゃんがちらちら見ていたけれど、彼女いるんだよね、彼。


 境さんのほうは最初アバターが違っていたせいで誰かわからなかった。おかげでとても恥ずかしい思いをしてしまった。

 言動から冷たいような印象を受けるのだけれどもそんなことはないだろう。なにしろ今日私のために最も骨を折ってくれたのは他ならない彼なのだろうから。

 あとから友人の咲ちゃんに聞いたところ、こういったゲームで低レベルと高レベルが一緒に遊ぶのはとても難しいのだそうだ。シンくんからもちゃんとお礼をいうように言われたくらいだ。






 初のタイムアタックダンジョンを終え、地上へ出た私たちは戦利品を確認していた。


 これは参加賞とでもいうべきもので、デザートチケットというのが2枚、それからデザート装備が一つ手に入っていた。

 ちなみに私が手に入れたのはデザート・パンツであった。なんでパンツ・・・・・・。


『しっかしこれ、もうちょっとグラなんとかならないのかよ』


 そういったのは手に巨大なロリポップキャンディを持ったユウさん。デザート・メイスだそうだ。


『ならない。グラフィック気になるなら製造かインディーさんに変えるくらいしかない』


 ナナさんが持っているのは巨大なソーダアイスバー、デザート・ツーハンドソードだ。


『インディーさん?』


 シン君は飴細工の冠、デザート・クラウン。


『あ、私最初にお世話になったよ。シーフのNPC』


 エクレアちゃんはぐるぐるな丸い棒キャンディー、デザート・ソードだった。


『シーフもそうだけど冒険者でもあるから≪アドヴェンチャラー≫のクエであとから会うことになるよ』


 ちなみに私は装備していない。パンツってズボンのことだと思うんだけど、万が一がありえるからね。


『で、そのインディーさんがなんなのよ?』


『10レベでいけるタイムアタックダンジョンには「インディーさんの練習ダンジョン初級編」ってのもあるんだよ』


『おお、そっちはどんなのなんだ?』


『ある程度は名前から察してくれ。転がる岩に追いかけられながら宝箱取りながら出口を目指すダンジョン』


『『『『うわぁ』』』』


『あれだ、こっちのダンジョンは練習すればなんとかなる感じだろ? 向こうは出来ない人には何レベルになってもできないタイプのアトラクションなんだよ。この中じゃユウくらいじゃない? クリアできそうなの』


 なんかもう一つのタイムアタックダンジョンはとんでもない仕様だったみたい。


『こっちにして正解だったね』


『いや普通に遊ぶ分にはおもしろいんだぞ? βではギルメンで行ったし、俺は一回もクリアできなかったけど』


 へぇー。


『そっちも面白そう! 今度はそっちに行きたいな! 個人的にはクリアできないといわれたのが癪だー!』


 エクレアちゃんは悔しそうだ。

 でも私だって一回も挑戦せずにクリアできないといわれるのはくやしい。


『じゃあ、今度はみんなでそっちのダンジョンいきませんか?』


『レイちゃんがそういうんなら』


 そういわけで今度はそっちのタイムアタックもやることになった。とはいっても私の都合で来週になっちゃうんだけどね。






『レイちゃん、時間大丈夫?』


 あの後、雑談したり何回かダンジョンにリトライしたりしたけれど、私が繋いでいられる時間はもう終わりのようだ。


『あ、うん。ごめんね、シンくん。それじゃあ皆さん、今日はどうもありがとうございました』


 私はそういって頭を下げる。


『お疲れ様! 今度彼女についての相談に乗ってくださいよ!』


『お疲れ様でした。シンにはあとで観光名所なんかも教えておきますんで、一緒に回ってみてください』


『おつかれー! また明日塾でねー!』


 メニューを開き、ログアウトボタンを押す。

 気が付けば私はベッドに横たわっていた。

 起き上がって体を軽く動かす。同じ姿勢でいたせいか、体が強張っていた。


「枕、もうちょっと首のほうに当てるかな。いやいっそ新しい枕を買うべきか」


 机に向かって問題集を開く。

 ついつい彼の顔を思い出してニヤけてしまうのはご愛嬌だ。


 何問かを解いたところで、ノックをして母が部屋へとやってきた。


「それで、ゲームは大丈夫だった? 信二くんにはちゃんと会えた?」


「大丈夫だよ、ママ。シンくんにも会えたし、今日はそのお友達とも遊んだよ」


「そう、それはよかったわね。あとは成績を落とさないように気を付けて遊びなさい」


「はーい。大丈夫だよ、約束はちゃんと守るから」


 これで大学に落ちたら本末転倒だ。そこだけはしっかりしないと。


「それじゃあお菓子ここにおいていくからね。勉強頑張りなさいよ」


「はいママ」


 母が出て行くと、私は気合を入れて問題にとりかかる。

 明日はシンくんと二人でゲーム内の町を周る約束をしている。

 つまりはデートだ。


「ふふふ」


 ついつい笑みがこぼれてしまう。

 だがその前に問題集だ。今日中にこの範囲まではやっておかないと。


 私はお菓子とお茶に手を伸ばしつつ、問題集を片付けていった。

前後編につき土日で二話あげてみる

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