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効率厨のTAダンジョン

「あ、えっと、は、はじめまして、れ、レイです」


「ちーっす。エクレアでっす! 今日は飛び入りでよろしくです!」






 午後、昼食を食べようとしたら両親共に外出していたというトラップにはまった結果、約束の時間ぎりぎりになってしまった俺を待っていたのは4人の男女であった。

 男性陣はユウとシンなんだが、女性陣は誰だ? 一人はレイさんでもう一人は友達とか?


 で、名乗る間もなく冒頭のように挨拶されてしまった。


「はじめまして、ナナです。よろしくお願いします」


 とりあえず挨拶は返しておく。


 しかしレイさんだけじゃなかったのかとシンのほうを向くと、小さく首を振られた。どうやら彼も知らなかったらしい。

 本当ならば男三人が揃ったところで『ファイン』までレイさんを迎えに行く算段であった。


「で、どこまで話した?」


「ダンジョン行くってところまで。あとエクレアさんがレイさんのリアルでの友達ってのを聞いたくらい」


「まぁ、なんにせよPTで話そうか。そっちPT作っちゃってます? でしたら一回抜けちゃってください」


 俺は二人に呼びかけると案の定PTを組んでいたらしく、エクレアさんがレイさんに教える形でPTを解除した。

 二人が顔を上げたところを見計らって申請を飛ばす。


≪エクレア 様がPTに加わりました。≫

≪レイ 様がPTに加わりました。≫


『じゃあ、こっからはPTで話そうか』


 女性陣二人のデータを見る。


 レイ/1Lv 治

 エクレア/8Lv 盗


 治は≪クレリック≫、盗は≪シーフ≫を指す。公開されるのは名前とレベル(これは隠せる)とメイン職業だけだ。サブ職業は公開されない。


 ≪クレリック≫は俺もサブに持っている回復スキルやバフスキルに特化した魔法職だ。PTに一人はいると安定感が違う。ちなみに高レベルに強力な攻撃スキルが存在するため、ソレをメインにおいた攻撃職として振舞うスキル構成も存在する。


 ≪シーフ≫は分類としては非戦闘職に当たる。罠の探知や解除といった探索系のスキルはもちろん、姿を消してからの不意打ちや敵をすり抜けるような特殊な移動スキルを持っている。非戦闘系といってもまったく戦えないワケではなく、それどころかPVPメインの対人戦向きな組み方まである職だ。スキル構成でその在り方が大きく変わる。






『じゃあ、簡単に説明しますね。まず、行こうと思っているダンジョンはタイムアタックダンジョンの「デザートヘル」です。この町の南を歩いて15分くらいのところにあります』


 そこまで言うとレイさんが手を挙げた。


『あの、私まだ始めたばかりで・・・・・・』


『ええ、聞いてますよ。大丈夫ですよ。ダンジョンといいましたけど、どちらかというとアトラクションに近いです』


 俺は彼女を安心させるようにそういった。


『「デザートヘル」は敵の全滅させるタイムを競うタイプのダンジョンです。といってもただ戦うのではなく、マップに出来る穴に敵を叩き込む感じなります。ゴルフとかゲートボールとかビリヤードみたいな感じです』


『全部で5ステージあって、それぞれで穴の位置が違います。最初は外周全部、次は中央、3つめは四方に一つずつ、4つめは水玉みたいに全体にまばらに、最後は穴は4つめと同じですがボスが発生します』


『ちなみに穴に落ちると即死します。次のステージで復活できますけどね。ですのでたとえ落ちて即死しても復活地点で復活を選ばないで待っていてください』


『あとこのダンジョンのボスは倒せない上にぶつかると吹っ飛ばされるので、うまく逃げてください。他のステージと同じ雑魚が取り巻きとしてでてくるので、それを同じように穴に落とせば終了です』


『目標タイムは15分切り、できれば10分切りすると豪華景品が出ます。以上でなにか質問は?』


 ここでシンが手を挙げる。


『弓でも大丈夫? なにか近接武器のほうがいい?』


『ここの敵はボス以外攻撃が当たると威力に関係なく当たった方向の反対側へ2.5メートル吹っ飛ばされる。シンなら弓で連続で吹っ飛ばすのを狙えるだろうし、近接は近接で爽快感あるし手数も増えるしでどっちでもいいよ』


 他に質問はないようだ。だがみんなの顔は思案顔だ。初めてのダンジョンとあって不安があるのであろう。


『レベル20になるまでは何回でも挑戦できるダンジョンだ。とりあえずいってみましょうか』


 案ずるより生むが安し。

 あとは一度やってみてから考えればいい。

 フォーメーションとかボスの囮役とか本気でやるならいろいろ決めたほうがいいのだろうが、ほとんど初対面の人と組んでそれは難しいだろう。

 今日の目的はいかにレイさんを、あとついでにエクレアさんを楽しませるかだ。

 道中の話題を考えながら俺は南門へと歩き出した。






 道中はそれなりに盛り上がった。というかシンとレイさんが話している横で、エクレアさんが俺たちをただひたすら相手にしてくれたというのが近い。

 一応こっちからも話題を振ってはみたけれど、答えてくれるだけという感じ。人見知りが激しいのだろうか?


『へえ、以外だなぁ。シンくんがカニ食べられないなんて』


『アレルギーは仕方ないですよ。ちなみに種類的にエビもですよ?』


『そうなの!? あんなにおいしいのに!』


『でもシンのヤツ見るのは好きなんだぜ。ほら、中学の修学旅行でいった水族館! なんでみんなでイルカショー見てるときに俺らはカニの水槽前だったんだよ』


『あれは時間間違えたお前が悪いだろ。次のショーは見れたし、他回るときも空いててよかっただろ』


 エクレアさんとはシンの話で盛り上がる。レイさんからもいろいろ聞いてるらしい。

 そんな時、レイさんが妙なことを聞いてきた。


『あの、リアルでの知り合いなんですよね? シンくんとはどれくらいの付き合いなんですか?』


『? あれ? シンから聞いてない? 一応中学からの付き合いだけど』


『え、そうなんですか!? すみません。ぜんぜん聞いたことなかったもので』


 マジか。地味に傷つくんだが。


『レイちゃん、ちゃんと話ているよ。いつも話すゲーム好きなヤツ。名前も外見も違うからわかりにくいけど』


 あ、そういうことね。


『え?』


『あーと、一応いうと中身男だからね? アバター変えてるだけで』


 エクレアさんは声を殺して笑っている。

 ああ、うん。微妙によそよそしかったのはそういう訳ね。


『こういうゲームだからね。外見を変えにくいとはいえ、まったく変えられない訳じゃないからね』


『えっと、声も?』


『うん、フィルターで変えてるだけ。普通にしゃべってる分にはわかりにくいけど、鷹揚が出る部分とかは結構違和感がなかった?』


 俺の質問に首を振るレイさん。マジで気づかなかったのか・・・・・・。


『す、すいません、気づかなくて!』


 ペコペコと謝るレイさんに俺は手で制止をかける。


『そうそう、ナナちゃんは好きでネカマプレイをしているみたいだし、気づかないほうがよかったんじゃない?』


『いやいや、そんなつもりはないですよ』


 エクレアさんの茶々に断固とした否定を突きつける。


『姫プレイとか? 女装に興味があるとか? 前のキャラでなにかやらかした?』


『最初のははずれ。次のは半分当たり。最後は当たりですね』


 俺がそういうとシンとユウがちょっと距離をとったように思えた。おまえらな。


『正確に女性専用装備が装備したかったんですよ。ダンジョンを攻略するならそっちのほうがよいと踏んだので』


『ダンジョン?』


『ランダムダンジョンです。それの踏破が俺の最終目標なんですよ。で、このキャラはそれように調整してるんです』


『それで女性専用装備?』


『このゲームには男性専用装備と女性専用装備があって、男性は武器が、女性は防具が多いんです。それで武器は魔法使うことでカバーすることにしたんです。それなら防具が多い女性キャラのほうがお得でしょ?』


『それだけで女装?』


『キャラはキャラで自分じゃないと割り切ってるので。あとはβのときに変に有名になりすぎたのと、コネでこのアバターが手に入ったのが大きいです』


『え、有名人だったの?』


『βのときは「カズ」ってキャラでプレイしてました。それでダンジョンで「猫耳」見つけたせいで一躍時の人になっちゃったんですよ』


 有名になったもう一つ理由があるんだけどそっちは恥ずかしいので伏せる。


『へぇー』


『あんまり言いふらさないようお願いします』


 ピンとこないのは仕方がない。βやってた人間はその件とそのあとのお祭り騒ぎを知っている人が大半だろう。

 一応釘を刺しておく。エクレアさん、口が軽そうだからなぁ。


『それ、俺らも初耳なんだが』


『いちいち言うことじゃないだろう』


 恥ずかしいほうがバレるのは勘弁だ。

 シンが俺のほうをみてニヤニヤしている。ありゃ他に何かあるって勘付いてるな。相変わらず鋭い。






 そんなことを話しながら歩くこと15分くらい。ダンジョンの入り口が見えてきた。

 入り口前には人待ちか休憩中か、結構な人だかりができていた。

 割とストレートに不躾な視線を感じるが、そこは女性が多いし仕方がないかな。

 待望のVRRPGでオンラインとなれば世間の注目はそれ相応だ。ゲームにおける男女比は運営発表で7:3といったところである。MMOとしては女性の数は多いほうだろう。現にこの場にも女性の姿がちらほら見られる。

 このダンジョンの性質上女性が集まりやすいせいなのだろうが、同様にそういった女性狙いの男もそれなりに集まっているようだ。


 まぁ、さすがに男連れに声をかける馬鹿はいないだろう。


 ダンジョン入り口、周辺の岩場に対してそこだけ奇妙な状態になっている。まるでお菓子の家のようにビスケットやクリームで装飾されたような門がそこにはあった。


『ああ、デザートってそっちね』


『砂地獄じゃなくてよかったです』


 ああ、そうかそっちの意味にも取れるのか。楽しみというよりは妙に不安がっていたのはそのせいもあるのか。


『入場料とか取られそうな作りだな』


『まんま遊園地のアトラクションだね』


『死ぬ可能性のあるアトラクションだけどね。とりあえず全員そこの像でセーブしておいてね。まず大丈夫だとは思うけど全滅すると面倒だから』


 俺は門を見ているみんなにそういうと、脇にある女神像をターゲットした。でてきたウィンドウのYESを押し、セーブを完了しておく。これでたとえ死んでミスって復帰してもここからになるので安心だ。


『んじゃま、行きますか』


 全員がセーブをしたのを確認して、俺たちはダンジョンの中へと入っていった。







 中は薄暗く、かろうじて奥の明かりが見えている。壁はケーキの切り口のようになっていて、等間隔にロリポップキャンディが刺さっている。

 俺たちが歩いていくと、それに合わせて壁のキャンディが光を放っていく。


『いきなりラスボス前?』


『奥の部屋からずっと変わらないから間違っちゃいない』


 やがて奥の部屋にたどりつく。棒キャンディとチョコレート菓子で出来た橋を渡り、中央から飛び降りてマドレーヌの上に落ちる。底は巨大な丸いビスケットが何層にも重なった形の円柱となっており、外周から除けば切り出されたゼリーのが敷き詰められている。やわらかそうに見えるが落ちれば即死だ。どちらかというとガラスの塊とかそんな風に思ったほうがいいかもしれない。


 俺に続いてユウやシンはあっさりと降りてきたが、レイさんはそうはいかなかったようだ。シンが受け止めるといってようやく飛び降りてきた。むしろそっちのほうが危ないと思うんだがなぁ、爆発しろ!


 エクレアさんも降りてくると、橋が折りたたまれて入り口の穴を塞ぐ。

 それと同時に目の前に数字が現れ、カウントダウンが始まった。


『ゼロになったらモンスターが降ってくるのでそれを片っ端から外へふっ飛ばせばOKです! とりあえず最初のステージは適当に散って当たりましょう!』


 俺は召喚でスケルトンを呼び出すと、それを中央へと移動させ、自動攻撃モードに切り替えた。スケルトンを操作するよりも俺自身が動いたほうが手っ取り早いのだが、そうなるとスケルトンを操作する余裕がない。とりあえず最初のステージなら外へと吹き飛ばしてくれればいいので中央へと配置したわけだ。


 ちなみに降ってくるモンスターの数はPTメンバー×10体。よって50体のモンスターが1ステージごとに降ってくる。最初はいいのだが、後半は結構厳しいぞ。


 やがてカウントがゼロになると、大量のモンスターが降ってきた。


『ぷ、プリン!?』


『やだ、かわいい!』


 降ってきたモンスターはカラメルを上にした目と眉のついたプリンであった。攻撃して吹っ飛ばすと目が「><」の字なる。


 俺は杖の両端を使い、振り回すように敵を吹き飛ばしていく。本当はさらに遠距離攻撃で追撃できれば楽なのだが≪マジックボルト≫は必中の代わりに当たり方を選ぶことが出来ない。基本まっすぐ飛ぶのだ、下からえぐるように飛んだり、左右に弧を描いたりすることもあるのでそうなったときのロスが大きく、今回は使わないようにしている。


 床の広さは半径100mの円形といったところ。結構な広さであるため駆けずり回ることになる。

 呼吸や心拍数は現実と連動させるため一種のリミッターが付いており、公開されないステータスにスタミナが存在するといわれている。

 それでもステータスの恩恵かはわからないが、現実よりもはるかに持久力はあるといえる。モヤシな俺でさえ5分くらい全力疾走しても息が上がるだけだ。さすがにそれ以上となると息切れしてしまうが。


 結局5分ほどですべてが片付いた。ユウなんかは後半剣を使わずにひたすら蹴り飛ばしていた。

 すべてが叩き落されると、中央にに赤い柱たった。


『その光ってるところ、穴が開くから離れてね』


 そう注意を送っておく。


 次の瞬間小さく地響きが起こり、床であったビスケットが砕ける。外周をも埋める形で現れたのは巨大なバームクーヘンだ。

 中央部分は穴となり、底には大量の金平糖が敷き詰められている。


 さぁ、第二ラウンドだ。






『どぅおりぃやぁああああ』


『レイちゃん、そっち回り込んで!』


『うん!』


 第二ラウンドになると勝手がわかってきたのか動き方も変わっていった。

 俺、ユウ、エクレアさんで外周から追い込み、シンとレイさんで穴に落としていく。そういう図式が出来上がっていった。


『まってー! そっち行かないでー!』


 この敵はノンアクティブで、通常時は動きがランダムに設定されている。しかし一度攻撃を受けると一定距離にいるプレイヤーから逃げるという行動ルーチンが組まれており、初撃で穴に入れられないと余計な手間がかかることが多い。穴は絶対に回避するので誘導して落とすということも出来ない。


 俺はエクレアさんのフォローのためにスケルトンを回り込ませた。


 召喚生物にもプレイヤーと同様の効果がある。それを利用して第二ラウンドに入ってから最初は、スケルトンを攻撃させずに外周でぐるぐる走らせた。最初は意図がわからなかったほかのみんなも、スケルトンが外周へ回ってしまったプリンを箒で掃くかのごとくかき集めていく様を見ればすぐに理解した。

 ある程度片付いてからはプリンが多く残っているところの外周へと回し、プリンが内側へと逃げてきたところを吹き飛ばしていった。


 結局全部片付くまで三分ほど、ここまではまぁこんなものだろう。問題は次のラウンドだ。


 再び赤い光が振ってくる。今度は東西南北の四箇所、しかしその穴はさっきまでのとは比べ物にならないほど小さい。直径で1mほどか。


『げっ、マジかよ』


 床であったバームクーヘンが崩れ、下からチョコレートがかかった棒菓子が突き出てくる。しかもその高さが均一ではない。そのため床が波打ってしまっている。


『うわぁ』


『こ、これはダメな気が』


 弱気になるみんなを元気付けるためにも作戦を伝える。


『シンとレイさん、ユウとエクレアさんで組んで! ひとりが一撃で穴に落とせる位置に陣取って、もう一人はそこまで敵を誘導するんだ!』


 俺はスケルトンを使ってそれを一人でやるわけだ。


 敵が降ってくる。さぁ、始めるか。







 何匹かを飛ばして位置を調整すると、俺はそこに陣取った。

 体のほうは視線以外をショートカットに任せる。スケルトンの操作に注力するためだ。

 ショートカットのマクロでスケルトンを動かして攻撃させ、逃げてきた敵をこれまたショートカットにある本体による攻撃で穴へと落としていく。

 VRでありながら体をまったく動かさないこの感じ、ほかのテレビゲームのようにコントローラーでキャラを操作する感覚だ。

 だが、俺にとってはこれのほうが効率がいい。無駄に動こうとするほうが体が付いていかないからだ。つくづく運動に向いてないな、俺。


 穴は四箇所だがペアは3つしかない。残ったところは俺が先に片付けてあたる予定であった。

 そのためにも、こっちの担当は手早く終わらせなければならない。


 案の定他は悪戦苦闘中だ。


 正直このラウンドがこのダンジョン最大の難関だと思っている。ここをいかに縮めるかが、タイム短縮の鍵だ。


 左端を片付けたスケルトンを送還すると、再度スケルトンを召喚した。

 前のラウンドでも何度かやった行為で、これは移動時間の短縮のためだ。再召喚したスケルトンを今度は右側へと向かわせる。


 右側はある程度片付けたら隣の穴へと移動する。さて、どこが一番早く片付けられるかな?






『よっし、これでラストー!』


 最後の一匹をエクレアさんが叩き落して終了だ。

 最後までのこったのはユウとエクレアさんのペアだった。やはりどうしても近接のみだと敵が散ってしまう。

 俺とシンで回り込むようにして抑えてなんとかといったところであった。


『くっそ、先挑発だったか』


『やめとけ、今の段階じゃ役に立たないぞ』


 ≪パラディン≫はレベル5スキルの中に≪プロボック≫という挑発スキル――要するに敵に対して敵愾心=ヘイトを稼げるスキルを覚えられる。

 しかし現状、シンや俺が最大で攻撃したところでユウが全力で殴り続ければターゲットが剥がれることはない。

 レベル15か20になる頃にはほしいが、それまではスタン効果まである≪シールドバッシュ≫で戦ったほうが懸命であろう。



 そんな言い合いをしていると、次のステージ準備のための赤い柱が立つ。

 今度は特定の場所ではなく、床全体のあちこちに穴が開くためだ。床のほうが穴よりも面積が同じか少ないくらいで、しかもいやらしいことに等間隔じゃない上に一回一回ランダムという鬼畜仕様である。


『次と最後のステージは穴が同じだから落ちないようにお願いね! こっからは敵の攻撃に当たると弾き飛ばされるから注意して!』


 そういってスケルトンを自動攻撃するよう切り替える。次のステージはぶっちゃけ手数勝負なのだ。狙って落とすよりも適当に攻撃を当てて、勝手に落ちることを願うほうが早い。


 波打っていた床が均され、光っていたところが抜け落ちる。底のほうにはマグマのようにチョコレートが煮立っている。

 チョコレート菓子はチョコレートの部分が溶けてひとつの板に変わった。

 そして敵が降ってくるのだが、さっきまでのプリンとはちょっとだけ姿が異なった。頭にクリームが絞られ、さくらんぼが乗っている。名前もプリンではなくプティングになっている。


『『かわいい!』』


 女性陣に好評なようで何よりだ。

 だが見た目に反してこいつは結構凶悪なんだけどね。



 最初と同じく全員が散って対応する。


 俺はたまにスケルトンの様子を見ながら≪マジックボルト≫で対応する。

 ユウやエクレアさんはプティングの突進をひょいひょい避けているが、この足場でアレをやるのは俺では無理だ。


 シンとレイさんはうまく連携しており、シンが遠距離攻撃、レイさんが突進のカウンターに徹している。おそらくシンが指示してやってるんだろうけどさすがだ。


『≪サモン・スケルトン≫』


 自動攻撃させているスケルトンはどうしてもたまに攻撃を食らって落ちるので、それだけはフォローしてやる。

 場合によってはもう一つのスキルも使う予定であったが、出番はなかった。


『うし、終わり!』


 前のステージよりもはるかに早く終わる。

 そして次がボスとなるわけだが、これは事前に作戦を伝えているので大丈夫だろう。





 ビーというアラームと共にあたりが一瞬赤く染まる。

 そして中央に巨大なプリンとカットフルーツが降って来た。

 プリンアラモード、それがこのダンジョンのボスの名前だ。


『ユウ! シン!』


『おうよ! ≪グランドクロス≫!』


『≪ブレイクスルー≫!』


 あらかじめ言って温存させてきた必殺スキルが放たれる!


≪ボス討伐成功!≫

≪デザートヘル をクリアしました≫

≪クリアタイム 23:42:05≫

≪報酬 デザートチケット×2 デザート・ツーハンドソード を手に入れました≫


 うし、終了である。


『え?』


『あれ?』


 床がイチゴでトッピングされたケーキに変わる。

 最初に降りてきた橋が再び降りてくる。これでダンジョンの入り口から出ればOKだ。


『おおう、マジで一撃なのか』


『正確には二撃ね』


 事前に説明されていた男性陣と比べて女性陣は納得がいかないようだ。


『ここのボスは必殺スキルが特効になっててね。まぁ他のステージで使わせないための策なんだろうけど』


 ちなみに使わないとこのレベルでは無理ゲー。あえてやっているのが動画サイトで30分越えで投稿されていたと思う。


『まぁタイムアタックだからこんななのかな、道中考えると。っていうか15分切るってかなりキツくない?』


『このパーティー、範囲攻撃に乏しいからね。それでも15分は切れると思うよ』


 エクレアさんの問いかけにそう答えながら俺は橋を昇っていく。


『ちなみに、終わってから5分過ぎると底が抜けて強制死に戻りさせられるよ』


『それを先に言え!』


 ユウに続くように全員があわてて昇っていった。

 こうして初のタイムアタックダンジョンは終了したのであった。

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