効率厨のイベントダンジョン
ゲーム内の温度は一定だ。
だがしかし、視覚からの情報による影響は大きい。
故に照りつける太陽は気持ち熱く感じるわけだ。
ましてや一時間ほど車内でじっとしていればなおさらだ。
乗合馬車に屋根はないが、逆に言えば日差しをさえぎるものもないというわけだ。
「はぁ、やっとついたか」
そしてアップデートから日が空いたとはいえ、ここまでの道は十分以上に混んでいた。
「セントラル」から「サウスロンド」を経由し更に南へ。
合計時間1時間、乗り換えの待ち時間を含めると2時間弱でようやっと目的地についた。
「ここがアップデートで追加された『セブンポート』ね。いや、しかし人多いな」
浜辺と港を持つこのゲーム7つ目の街マップ『セブンポート』、現在はイベントの関係もあって大変な賑わいを見せていた。
「これちゃんと泳げるのか? イモ洗い状態とか嫌すぎるんだが・・・・・・」
とりあえず着いたら泳ごうと思っていたけど予定変更だな、こりゃ。
俺は事前にチェックしていたクエストNPCを探すことにした。
最も、そっちもこの人混みだとすんなりとはいかないであろうが。
案の状、すんなりとはいかなかった。
サブクエや釣り体験クエなんかはすんなりと終わったのだが、肝心のメインとなる期間限定クエストの受注ができないでいた。
ちなみに釣りは俺からすればなかなかにおもしろかった。バス釣りとかとにかく引きの感覚を楽しみたい人にはお勧めできる。ただ、獲物が一度表示されるだけですぐにインベントリに入ってしまうのは残念かもしれない。
さてあとは限定クエストだけなんだが、NPC前は激混みだ。
それでもしっかり並んでいるあたりはさすが日本人だなと思う。
「はーい、押さないくださいねー。通行の邪魔になりますからここは空けてくださーい」
そんな中、イベント整理のボランティアみたいなことをやっているプレイヤーの声が響く。
非常に聞き覚えのある声であった。
「なにやってるんですか、ダガーさん」
通路確保のために橋渡しをしていのは前ギルドで仲のよかった†黒星龍†さんだ。
「ん? あれ? ああ、おお! お久しぶり!」
声をかけると彼はニカっと笑って手を振ってくれた。顔だけ見ると好青年なのだが、着ている服がいただけない。彼が着ているのはピンクの半被のようなもので、背中にでかでかと『心眼ちゃん命』と書かれていた。
彼が所属するギルド『心眼ちゃん親衛隊』の正装だったと思う。
「あー、ひょっとしてギルド活動中ですか?」
「そういうこと! 俺も色々聞きたいことがあるんだけど、また後日ってことで!」
なるほど、そりゃ混むわけだ。今回のメインイベントNPCの担当は心眼ちゃんらしい。
心眼ちゃんとは日本が誇る3つのスパコン使用成長型超AIの一つだ。
AI関係の発展は5年前だかに大きな転機を迎えた。スパコンを使用することで擬似的に無限に学習する超AIの可能性が示唆されたためだ。
そして2年前だかに日本でも超AIが誕生した。それが心眼だ。
ただぶっちゃけ現状でさえも赤ん坊にものを教え込むくらいの意味合いしか行うことが出来ていない。知識としてインプットするのと学習させるのでは雲泥の差があるとかで、現在は高校か大学生レベルの知識量を誇るくらいになっている――らしい。
実用的な運用ができるようになるにはまだ10年ほどの時間が必要というのが専門家の意見であった。
当然一般人はそれがなんなのかを知らない人がほとんどで、「オーバーランド・オンライン」で試験的に超AIにNPCの役割を与えてみるという試みも運営や専門家は湧いたが、一般プレイヤーにとっては「心眼? なにそれ?」レベルの話であった。
実装した時も当初の受け答えは他のNPCと大差なく、超AI(笑)と言われる始末であった。
だがしかし、どこにでも馬鹿というべきか天才というべきか紙一重なヤツはいるものだ。
とあるプレイヤーが心眼ちゃんが担当するNPCを口説き始めたのだ。
一応かわいい系のNPCであったが、まさかそんなことをするやつはいないと思われていたのであろう。マニュアルにない言動に対応できず、あまつさえ最後は街を周る一日デートまで漕ぎ着けることに成功してしまったのであった。
これに湧いたのが掲示板だ。なにしろ頑張って口説けば一日デートができるとあって彼女の元には連日男達が殺到する事態になってしまった。
さすがに運営というか心眼の開発側もこれはまずいと心眼に男のあしらい方を学習させるであったが時すでに遅く、というよりむしろ逆効果で、デートに誘うことは無理でも普通の男女の受け答えができるということが広くひろまってしまった。
いつしか彼女(?)は本来の「シンガン」ではなく「ココロメちゃん」と呼ばれるようになり、あげく親衛隊ギルドが結成されるまでに至っていた。
この結果を受け彼女の常設は見送られたが、これまでも限定イベントのいくつかは彼女が担当するようになっていた。
どうやら今回のイベントNPCにも彼女が配備されているようだ。
「とっととイベントクエだけ受けさせてほしい・・・・・・」
「しゃあないって。それに今回は心眼ちゃんじゃないニューフェイスの登場だしね!」
「え?」
「どうやら今回、担当しているのは心機ちゃんらしいね」
「えーと、姉妹個体でしたっけ? 心眼の基礎データコピったやつですよね」
「あくまで元にしただけだよ。実際別個体だってはっきりわかるくらい違うよ!」
「へー、そりゃまた」
楽しみなのかめんどくさいのか自分でもよくわからない。
現状うんざりしていることは確かなのだが。
俺はダガーさんの指示に従い続く列を進んでいった。
なんとか一時間以内にたどり着いた。
「次の方どうぞー」
ダガーさんと同じギルドの人が先導してくれる。
その先にはいかにも南国の子って感じの女の子NPCが立っていた。
『おかしいなぁー。どこいっちゃったんだろう?』
演技バリバリといった感じだ。なるほど確かに心眼ちゃんとは違うみたいだ。
「真珠ですね。わかります。探してきますので持ってきたらお礼ください」
『あ、はい』
受け答えも慣れてない感じだな。
こうしてみると心眼ちゃんの受け答えのすごさが改めてわかる。
「じゃ」
『えと、頑張ってください』
最後にきっちり激励できるあたり、彼女も人気がでそうだな。
俺の淡白な受け答えに戸惑う彼女を残し、俺はその場を後にした。
さて、海だ。
面積の関係からイモ洗い状態ではないとはいえ、市営プールくらいの人口密度はありそうだ。
クエストだが、形見の真珠をさがせというものだ。
そしてそれはなぜかここら辺で採れる真珠貝というアイテムを使うことで一定確率で入手することができる。
真珠貝の入手方法は浜辺の採取ポイントを探す、海の中の採取ポイントを探す。そしてイベントダンジョンのモンスターおよびボスドロップとなっている。
浜辺のポイントは少なく、全部に張り付きがいた。なので俺は海のポイントを探すことにした。
海底のランダムなポイントに出現するらしいのだが、はてさてどんなものかな。
何かを期待する周りの目がうっとおしい。
無視して装備を切り換える。あらかじめ購入しておいた水着装備だ。
シンプルな白いビキニに姿を変えると、おぉ! っという歓声が上がる。
無視して俺はそのまま海へと潜った。
現実と違い、ゲーム内では服に重さはない。たとえ関節に干渉するデザインの装備であろうとも裸と変わらないくらいに動かすことができる。これは水の中でも変わらないらしい。
つまりいつもの装備でも、たとえがっちがちの金属鎧であろうも普通に泳げたりする。
それでも俺は水着を装備したのは単に装備による潜水補正を頼るためだ。
一応泳げるとはいえ、潜って貝を探すなどそのままではとても出来そうになかったのだ。
そして潜ってみればその考えが正しかったのがわかる。
浮いてくる体を沈めるのは大変であった。普通に泳ぐのとは勝手が違う。
手間取り無くなる空気を気にしつつ海底を見つめる。ゴーグルが無くても目が痛くならないのが救いだ。
海底に近づいたところで、遠くに見えるところに光が見えた。あれだ。
一度息継ぎのために浮上する。せめてシュノーケルぐらい装備でほしかった。
「ぷは、はぁ、はぁ」
太陽がまぶしい。
海というよりはプールのように感じるのは塩気を感じられないからだろうか?
まぁあの塩素臭さも無いわけなのだが。
周りを見れば遠巻きにこっちを見ている人がいる。
出来るだけ人気がないところを選んでみたが、割とすぐに移動することになりそうだ。
俺は息を大きく吸い込むと、再び海へと潜っていった。
それから一時間ほど。
俺が採ることが出来た真珠貝の数は9個で全部はずれの普通の真珠であった。
ぶっちゃけ効率が悪い。悪すぎる。
周りにプレイヤーが多いのもあって一発で見つけて回収しないと横取りされることが多かった。
「ダンジョンにするかな」
イベントダンジョンは一周30分ほどで平均20個ほど真珠貝が取れる。
ダンジョン自体はいわゆるインスタントダンジョンというやつで、入るPTごとに生成されるため順番待ちとかもない。
問題は野良でクリアできるかという点と一日3回しか挑戦できない点なのだが、まぁ最悪ボス前でリタイアしても8個くらいは取れるし、とりあえず3回分全部周ってみるか。
泳ぎについての評価は保留だな。人がもっと少なければフリーダムに泳げて楽しいかもしれない。
まぁイベント中はずっとこうだろうけどな。
ここにいても埒が明かないと判断した俺は早々に装備を戻すと、海を後にした。
ダンジョン前は人でごった返していた。
「レベル20PTヒーラー募集中です!」
「レベル30あと一人誰でもー!」
「レベル12ヒーラーです。PTありませんかー?」
野良PTについてはPT専用メニュー画面から募集して集まるのが普通だ。
しかしそれだとアナウンスされたりはしないので、こういったイベントなどで人が集まっているときは声を上げたほうが手っ取り早い。
「レベル15火力あと一人!」
ただ、当然というか必然というかそれだととてもやかましいことが多く、聞き逃してしまうことも多い。
「レベル10壁かヒーラーだれかいませんかー?」
喧騒の中、自分に合ったPTを探す。
俺のビルドはかなり特殊で基本ソロでダンジョンを潜ることに特化しているためPTだと役割が微妙だったりする。
一応壁かメレーアタッカーにはなれるはずなのだが。
ちなみに募集は基本レベル5刻みだ。レベル10といったらレベル6~14募集といった感じである。よって俺はレベル10かレベル15のPTに入ることができる。
ただレベル10のほうだと途中で上がってしまうと面倒なことになりかねないので、できればレベル15のPTに入りたかった。
「レベル15壁かヒーラー募集中です!」
合ってはいるのだが躊躇してしまう。ヒーラーなしの可能性が高く、求めているのは本職の壁だろう。
「レベル15誰でもー」
「お願いします!」
即反応する。
誰でもの募集なら大丈夫だろう。
飛んで来た申請にOKを出す。
『よろしくー』
『よろしくです』
『よろしくお願いします。あ、私はネクロでメレーアタッカー扱いでお願いします』
ネクロとはネクロマンサー、つまり≪サモナー≫でアンデット系の召喚をとるビルドのことだ。割と色々出来るビルドなのだが、このレベルだと召喚できるのはスケルトンだけだし、殴るくらいしか能が無い。
『わかりました』「レベル15壁か火力募集ちゅうです!」
まだ二人だったらしく、あと一人を募集する。
そして程なく全員が集まった。
「あ、足元注意で。次モンスターです」
募集をかけていたリーダーが注意を促す。
それに俺達は頷きで答える。
事前にダンジョンについては情報を集めていた。
ダンジョンは途中一箇所を除けば基本的に一本道だ。モンスターと戦う部屋は全部水没しており、最初は1センチにも満たないがボス部屋の一つ前に至っては太ももくらいまで水に浸かることになる。
いや最初の部屋も決して侮れない。床が石材なせいか気をつけないと滑ってしまうのだ。
「最初俺が突っ込んで後ろを向かせますので、それから背中叩く感じで」
「ヘイトはどうします? 俺≪ウォークライ≫ありますよ?」
「いや、分散したほうがいい。ナナさんに向いた時と緊急時以外は使わない方向で」
「了解」
「あ、いや、私に向いても大丈夫なのでHP半分割るまでは気にしなくていいですよ」
「え? ああ、そうですか」
俺のビルドはあまり無いタイプだから把握しづらいかな。
まぁ、この状況自体が特殊なので深く考える必要もないだろう。
≪パラディン≫、≪パラディン≫、≪パラディン≫、≪サモナー≫なんてPT構成特殊すぎだろう。
最後に入ってきた人は普通の盾っぽいのだが、最初の二人が曲者だった。
リーダーは盾と火力の万能型。そしてもう一人はダメージコントロールメインの型であった。どちらもあまり見ない型で、俺自身彼らがどの程度戦えるのか想像できない。
「まぁとりあえずやってみてから考えましょう」
最初の部屋の敵は2体の半魚人だ。そこまで強くはないという話なので実験台としてはちょうどいいだろう。
「じゃあ、いきますよ!」
そういってリーダーが突っ込む。
続くように俺らも突っ込む。
横をとおりぬけようとしたリーダーが滑って転ぶところをスライディングに代えた。そしてそのまま通り抜けて立ち上がる。運動神経いいな、おい。
二体とも背中をしっかりと向けてくれたので、その背中めがけて俺達が襲い掛かる。
「「≪クロススラッシュ≫!!」」
それぞれにスキルの攻撃が決まる。そして俺がそれに続いた。
「食らえ!」
スケルトンと俺でそれぞれに縦切りを叩き込んだ。
敵のHPはかろうじてまだ残っている。そしてモンスターたちは俺達のほうへと振り返った。
「こっちだ!」
そこをリーダーが突いて終わらせる。
もう一体のほうは後ろに待機させていたスケルトンからの弓矢の一撃で倒れ伏した。
そう、盆前にぎりぎりで俺の≪サモン・スケルトン≫はレベル2へと成長していた。結果一度に呼べるスケルトンの数が二体に増えていた。
さらに≪スケルトンの強化≫もレベルアップしており、召喚できるスケルトンに通常の剣装備のものに弓装備のものが追加されていた。まぁランダムなのでこれはよしあしだが、望む結果がでるまで繰り返せばいいだけだしな。
「楽勝! このままでいけるな」
「いいけど、さっきのずっこけはなんだよ?」
「ばっか、スライディングだよ。スライディング」
「ぜってーちげーだろ!」
軽口をたたきながら前へと進む。
思った以上に戦えたな。これならいけるかもしれない。
そう思っていた時期が俺にもありました。
「無理! これ無理! ちょっといったん撤収で!」
問題が起きたのは三つ目のモンスター部屋であった。
ここの敵はさっきと同じ半魚人が6体なのだが、今までとは装備が大きく異なっていた。
3体が槍装備、そしてもう3体が弓装備であった。
そう、このPT遠距離火力が乏しいのだ。
俺の魔法とスケルトンの弓はあるが、それをわかっているのかきっちり遠距離攻撃しているやつを集中砲火してきやがる。
「どうする?」
「とりあえず弓スケを二体にして一体囮で使いましょう。釣ったところを集中攻撃で一体ずつ倒しましょう。最悪一体でも倒したら撤収を繰り返せばいい」
「それだな。弓だけなら突っ込めばいいし、槍を一体ずつ倒していくことにしよう」
「OK」
「ですね」
そういうことになった。
手間取ったが、作戦自体はうまくいった。
「おし、完了」
最後の弓持ちをリーダーが倒して終了だ。
「んでここが例の潜る場所か」
ここから次のフロアまでは壁際の深くなっているところを潜って壁を越えなければならない。
「んじゃ俺が先やってみるわ」
そう言うやいなやリーダーは躊躇せずに飛び込んだ。そういうところ無頓着なのか勇気があるのか判断しづらい人だな。
「うは、はぁ、けっこう深いなこれ、水着必須かも」
しばらくして上がってきたリーダーがそういう。
そしてすぐに装備を水着に切り替えた。
二人も水着に切り替える。
視線が俺に集まる。
俺は観念して装備を水着に切り替えた。そこ小さくグッドのサイン送りあってんじゃねぇよ。
そこからは特に問題なく俺達はボス部屋の前までたどり着いたのであった。
潜水? ぜんぜんまったくたいしたことなかったよ。
ボスフロア前、青白い炎で照らされた室内に祭壇が見えた。
そこからこのダンジョンのボス、ポセイドンが現れるはずだ。
「うっし、そろそろ行くぞ」
ボス前に一息入れて状況を整える。
ボスについても話合ったが、結局のところ全員で近づいて殴るのが最善という結論に至った。
ボスの即死攻撃である水流を足元に出す攻撃は至近のものよりも離れているものを対象とする可能性が高い。弓スケにはまた囮となってもらおう。
あとは水流によるノックバック攻撃に注意し、すばやくリカバリーするのが勝利の鍵だ。
全員が立ち上がる。
さぁ、ボス戦だ。
『我が眠りを妨げるものは誰だ!』
お決まりとも言ってよいボスの台詞が大音量で部屋に木霊する。
俺はスケルトン二体をできるだけ離して配置し、自身もボスの懐へと飛び込んだ。
「いくぜぇー!!」
「おおおぅ!!」
「「≪ファイナルストライク≫!!!」」
開幕早々それようの武器に持ち替えていた二人の≪ファイナルストライク≫が決まる。
二人は装備変更で本来の武器へと持ち替え、そしてそれをそのまま地面へと突き刺す。
「「≪グランドクロス≫!!」」
光の柱がボスを挟むように突き刺さった。
『がぁああああ!!』
ボスの悲鳴が響き渡る。
二人の二種類の必殺スキルによってボスのHPは3割ほど削れることとなった。
さぁてここからが本番だ。
ボスの槍攻撃は盾でうまく避けているようだ。なぎ払いじゃなくて単体狙いなのが救いだ。
『食らうがよい!』
台詞と共に、スケルトンの一体の足元に波紋が立つ。来たか。
俺は懸命にスケルトンを逃がそうと操作するのだが、やはり波に誘引効果があるのかうまく効果範囲外に逃がせない。
5秒後に立った水柱がスケルトンの一体をバラバラにしてしまった。
「≪サモン・スケルトン≫」
クールタイムの関係ですぐに呼び出すのが正解だろう。一体残っていたので現れたのは一体だけだ。
剣装備だがかまわず離す。うまく囮になってくれ。
『ええい、邪魔だ!』
今度は波か。
正面270度に放たれる波は発生も早くとても避けられないな。足元が水場出なければジャンプでいけなくもなさそうなんだがな。いや無理か。
離れてしまったので急いで食らい付きに戻る。
その間に≪ヒール≫が飛んで来てHPは全快だ。
「タフすぎてめんどくせぇええ!!」
「タリいいいい!!!」
延々殴ってようやく終わりが見えてきた。
その間に5体のスケルトンがお亡くなりになっている。いやまぁ最初から亡くなってはいるんだけどね。
『おのれぇええ!! ニンゲンよ、憶えておけよ! ワシは何度でもお前たちの前に立ちふさがろうぞ!!』
最後にそんな捨て台詞を残してボスは倒れた。
「終わったー」
「あー疲れた」
「お疲れ様です」
「お疲れー」
地響きがする中、挨拶を交わす。
水が引くと同時に床が傾いていく。
「じゃあ最後の楽しみを、レディファーストで」
「いやいやいやいや」
床の一部が抜けて水路が出てくる。
これが最後の仕掛け、ウォータースライダーだ。
「いや、別に誰からでもいいからね」
「そうですね」
俺はそう言ってスライダーに腰を下ろした。
「じゃあお先に」
体を滑らせる。
「おおおお!!!」
最初の暗いトンネルを抜けると神殿の外周を回るように走る。
ってか割と丸見えなんだけど安全面大丈夫なのか?
試しに縁へと手を伸ばすと、なんてことはない見えないチューブのようになっているようだ。
「うひぃいいいい!!!」
どういう原理か神殿の一番上へと運ばれ、そこから一気に急降下。
「おおー」
その後はものすごい速さで外へと飛ばされていく。もう遠くに見える神殿がきれいだった。
あれ? どこまでいくんだ?
そのまま勢いを落しつつ森を走り、中の湖に落された。
「おおう」
湖の縁には扉が立っている。ご丁寧にEXITの文字が上に刻まれていた。出口のようだ。
俺は岸から上がり、伸びをする。
いやなかなか楽しいひと時であった。
イベントダンジョン、なかなか悪くなかったな。
とりあえず今日の分残り二回、改めて揃ったら相談だな。
そんなことを俺は考えて俺は扉をくぐるのであった。