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閑話 盆と帰省とアップデート

滅茶苦茶遅れてしまい、申し訳ない。

 今年の夏はゲーム漬けの日々ではあったが・・・・・・失礼今年の夏『も』ゲーム付けの日々ではあったが、さすがに家族行事というものもある。

 かくして俺は現在父親の実家に帰省中である。


「うぉりゃぁああああ!!!」


「あああああああ!!!」


 そして今年もまた従兄弟の子たちを肩に担いで振り回していた。

 姉の方はだいぶ落ち着いてきているのだが、弟はやんちゃなままだ。


 さすがに5連続は目が回る。


「シゲ兄さん代わって」


「はっはっはっ、やなこった」


 そういって昼間なのにビールを飲んでいるのは従兄弟の重春さんだ。

 自分の姉の子なんだからもうちょっと働いてくれ。いやそもそも仕事が忙しすぎて子供しか着ていない春香さんが問題といえば問題なのだが。

 俺達は今日ついたばかりだが、シゲ兄さんは先週から子供達を連れてこっちに来ていたそうだ。

 今日もすでに一度海へと行っていたらしく、日焼けした肌がまぶしい。

 俺達のほうは今年はスケジュールがだいぶキツく、泳げるのは明後日だけだ。まぁ俺はそこまで泳ぎたい訳ではないし、むしろ明日の釣りの予定とかの方が楽しみではある。


「もう一回! もう一回!」


「待て! 少し休ませろ!」


 なんとかゲームに気を引けないかと頑張ってみる。

 姉のほうは持ってきたロボゲーで釣れたのだが、弟には難しすぎたらしく、すぐに放り投げてしまった。俺のゲーム機が!


「よし、じゃあアレだ! 神経衰弱で勝負だ! 7並べでもいいぞ!」


「7並べがいい!」


 あ、姉が連れてしまった。藪蛇だったかも・・・・・・。


「7並べなら俺もやろう」


 シゲ兄さんまで・・・・・・。


「・・・・・・シゲ兄さんが負けたらシゲ兄さんが回してくださいね」


「おいおいそれじゃあ、勝ったら俺も回してもらうぞ?」


「ぐ、いやそれでもやってもらいます! 勝負!」


 結果? 俺がシゲ兄さんにジャイアントスイングされた。







「ありがとね。カズ君、この子達の面倒を見てくれて」


 叔母さんたちが買い物から帰ってくる頃には俺は完全にダウンしていた。

 いやぶっちゃけ全員ダウンしていた。

 弟君は寝てるし、シゲ兄さんは酒入れて回ったからかグロッキーといった感じであった。

 お姉ちゃんだけは俺のロボゲーを離さずやっていたが。


「いえいえ、大丈夫ですよ」


「すぐに夕食だから、ほらあんたのリクエストの刺身も買ってきたから楽しみにしていなさい」


 刺身!

 母さんの声に俺は飛び起きる。

 こっちの刺身はマジでうまい。帰ったら向こうの刺身が食べたくなくなるレベルなのだ。


「おととい俺が釣ったアジもあっただろ。アレも出してやりなさい」


「アレはフライにするわ。刺身にするには小さすぎるわ」


 叔父さんもう先に釣りをやっていたのか。明日も朝釣りに出かけるらしく、俺も誘われていた。


「刺身は夜だけどね。昼はソーメンだからね。ちょっとだけ出してあげるからそれで我慢しなさい」


「はいよ」


 ちょっとでもいい。魚だ。魚をよこせ。

 そんなアホなことを思った。






 昼食を食べてからはゆっくりする。今日は予定がなし。

 シゲ兄さん達はまた泳ぎに行った。誘われたがさすがに疲れているので断った。


 親父達と高校野球を見ながら適当に話をする。

 話題として俺の進路について色々といわれたが、やりたいようにやらせろというのが相変わらずの結論であった。

 じいちゃんばあちゃんも元気そうでなによりだ。


 適当に話が途切れたところで奥へと引っ込み、昼寝に入る。

 距離的な問題で今日は6時起きだったしな。

 そして明日は5時起きだ。

 最近は不健康な生活サイクルそのままであったが、こっちにいる間くらいは健康的でいようと思う。

 そんなことを考えながら眠りについた。


 起きると時刻は16時過ぎ、日がまだ強くて時計を見ないと時間がわからなかった。


 台所へ行き麦茶をもらう。


「あら起きたんだ。おなか空かない? 夕食まではもうすこしあるよ」


 18時くらいだろう。


「大丈夫だよ。おばあちゃん」


「そう。居間のお菓子は食べていいからね」


「うん」


 もう一杯麦茶をもらって部屋へと引っ込む。


 携帯を取り出し、ネットへと繋ぐ。

 開くのは「オーバーワールド・オンライン」の公式ホームページだ。


「さて、で、結局アップデートはなんなんだ?」


 盆前の今日、定期メンテの終了後に新規大型アップデートが行われることが発表されていた。

 ただ、その内容が直前までわからなかった。


 公式ホームページを開く。

 するとそこは夏一色であった。


 白かったバックが青く染まり、フレームがグリーンとなっている。

 そして何よりでかでかとバナーで「大型アップデート第一弾! 水神降臨」の文字と画像が目に付いた。


 これはもしかして・・・・・・。


 内容部分を開いてみれば、そこには予想通り水の実装についての記述があった。

 水の再現とお試しで入れる海、そして水をギミックとしたイベントダンジョンとイベントクエストが新たに導入されたことについて書かれていた。

 夏といってももう盆だ。イベント自体は9月の第四週までやってくれるようだ。俺も早く行きたいところだ。

 そしてそれと同時に≪釣り師≫が登場し、≪料理人≫の製造でも使える材料の魚が多数実装されたようだ。


 今度は外部掲示板のページを開き、案の定祭りとなっているため過去ログからざっくり情報をさらう。

 どうやらイベントの景品は非売品ポーションと夏っぽいアバターのようだ。

 景品数から言ってアバターだけなら一週間もあれば揃えられそうで安心した。ポーションの方は今までにない回復量のものではあるが、現状そこまで重要でもない。売れれば後々であれば高値が付きそうだったが、帰属するタイプらしいのでその心配もなさそうだ。


 イベントダンジョンについての情報も漁る。

 どうにも水によるギミックがメインとなるあまり、結構ハードなダンジョンとなっているようだ。10m近いところからの飛び込みや2mほど潜って穴をくぐって向こう側へ出るなんていったものあり、水が苦手な人には結構厳しい造りとなっているようだ。

 唯一ダンジョン終了後のウォータースライダーによる脱出だけは絶賛ばかりであった。

 ボスのポセイドンについては、PT内の最高レベルの人に強さが準拠するらしいオーソドックスなボスとのことだ。唯一足場が水のせいで悪くなっていることだけが懸念材料らしい。使ってくる即死攻撃もそのせいで相当余裕があるのに当たることがあるそうだ。ここら辺は話だけだとわかりにくいので後で動画でも見よう。


 スキルに関する情報も飛び交っている。

 特に話題となっているのは≪アドヴェンチャラー≫の≪潜水≫のスキルと≪ウィザード≫の≪ダイヤモンドダスト≫についてだ。

 前者については前から水が実装されれば化けると言われていたスキルで、実際の効果ではレベル1でも倍ほども違うという話であった。ただ、現状それを有効活用できるまでには至っていない。海フィールドもまだそこまで広くも深くもないらしく、今後に期待だそうだ。


 後者のほうは結構深刻だ。

 ≪ウィザード≫の≪ダイヤモンドダスト≫は凍結のバッドステータスを与えることが可能なスキルで、範囲へのダメージとその足止め効果から割りと多くのプレイヤーに使われているスキルだ。

 今回の実装で水場が凍るようになり、思わぬ不具合がおきているそうだ。

 今回のイベントダンジョンはもちろん、レベル15の『忘れられた鍾乳洞』やレベル30の『偽装湿地』といったいくつかの場所で使用すれば足場が凍ってしまい、まともに動けなくなってしまうそうだ。

 ただ、これについてはうまく使えば新しい足場を作れるのではと色々画策している人も多いようだ。

 とりあえずついていた動画リンクで見た釣ったモンスターを転ばせるのはなかなかおもしろい使い方だと思った。釣ってきた本人も滑っているので爆笑ものではあったが。


 ≪釣り師≫については本物とはやはり違うとの意見が多い。餌はインベントリをクリックするだけだし、つれた獲物もすぐにインベントリに行くのが微妙とのことだ。逆にゲーム感覚でやりやすくていいという意見もある。

 現状竿は耐久値以外の特徴がなく、餌も狙う獲物によって異なるくらいの差でしかないが、せめて釣りゲーム並みに選択肢を増やしてほしいとの要望をみんなで出しているようだ。

 一応引いたときの感覚はなかなかに真に迫っているらしく、しくじればちゃんとバレる。

 道具が高かったり、場所が無かったり、時間が無い人でも手軽に楽しめるので、総括するとこれはこれでありだという意見が多く結構好評なようだ。

 俺も一度やってみようかな。もっとも俺は現実でやるときはサビキ釣りばかりなのだが。


 あとは天候による影響についても知りたかった。

 「オーバーランド・オンライン」では一応昼夜や天候の変化が存在する。しかしオプションを弄ればいつだって快晴の昼間にすることが出来る。

 前までは雨が降っても濡れることすらない映像でしかなかったが、今回のアップデートで水が導入されればそこから何か変化が起こるかもしれない。

 あいにくと今日、ゲーム内は快晴らしくその効果を見ることはできない。

 もしも雨も凍らせることができるなら、不都合もあるが色々おもしろいことができそうだと盛んに意見が交わされていた。






「カズ、ごはんよー!」


 一通り見終わったところで声がかかった。

 気づけば二時間くらいネットをしていたことになる。もったいない話だ。


「はーい」


 立ち上がり体を伸ばす。

 シゲ兄達も帰ってきたのか居間が騒がしくなっている。


「刺身か」


 期待に胸を膨らませて居間へと向かった。







「カズはあれやってんだろ? 結局どんな感じなのよ?」


 刺身はおいしかったです。

 夕食後はシゲ兄さんと雑談だ。基本俺とシゲ兄さんの話題が被ることはないのだが、そこら辺はシゲ兄さんがうまく対処してくれる。さすがだ。

 まぁ今回はいい具合に話題があるわけなんだが。

 無論「オーバーランド・オンライン」の話だ。


「おもしろいですよ? 最初ゲーム部分は期待してなかったんですが、思いのほかしっかり出来ていると思います」


 国産のネットゲームの当たり確立は非常に低い。

 このゲームも売りがVRである以上、そのゲーム性についてはあまり期待されていなかった。とりあえず箱庭をVRで走り回れる程度のことができれば多分それだけでも十分以上に売れたと思う。


 だがしかし、蓋を開けてみればゲームとしても絶賛されるレベルとなっていた。

 開発会社の合併と他社との共同開発のダブルコンボは国がバックについたとはいえ、よく成功させたものだと関心する。


「水はダメなんだっけ? それあれば俺もやるんだが」


「そっちはアップデートできましたよ。俺もまだやってないのでアレですが、とりあえず泳ぐのと釣りはできるようになってます」


「マジか!? やべえな、買っちまおうかな」


 そんな俺達の話を又聞きした叔父さんが聞いてくる。


「釣りができるって本当かい?」


「ええ、ただ本物とはやはり勝手が違うようですよ。引き自体は楽しめるそうですが」


「ううむ、一回試してみたいなぁ」


「さすがに持ってきてはいませんよ」


 叔父さんは残念そうだ。

 機材は重いし、初回は一時間ほど生体データ採取にかかるためどうせもってきても俺しかやらないだろうと思ってもってこなかったのだ。

 こんなことならもってくればよかったかな。


 一応ネットカフェのようなところで備えているところも出始めているが、絶対に初回登録のために一時間ほど何もしないで寝ているだけの時間がかかるため不評だ。

 それでも少ない台数を予約待ちなんてしているところも多いらしい。

 生体データは個人情報の観点から持ち出し出来ないようにロックされている。これについては国からの方針で機材の開発会社が禁じているのでなかなかに難しい。

 しかしすでにそのロックをかいくぐる方法とやらが闇で出回っているらしく、生体データの悪用に関する噂も耳にする。


「一日だけなら無償でできますし、ネットで近くに備えのあるネカフェを探してください。予約も確認するといいですよ」


「俺は買おうかな。オンラインゲームに金払うのはアレだが、そのうちスポーツ特化なソフトは出るだろうし、それまでのつなぎにしてもいいしな」


「・・・・・・釣り特化って出ると思う?」


「微妙! 動物の動きに関する研究は結構やられているけど魚は微妙!」


 へぇ、そうなのか。

 っていうか、そういえばシゲ兄さんって学校で海洋学やってるんだっけ。

 本人海が好きなだけで、そういうことさっぱりだからなぁ。魚とか叔父さんのほうが絶対詳しいし。


「医療関係で趣味の再現は一通りするようになりそうですが、釣りだと先は長そうです」


「・・・そうか。あ、いや、とりあえず試してはみるかな」


「ええ、ゲーム自体も面白いとは思うので、やってみてください」


 実際叔父さんくらいの年齢の人はそれなりにいる。VRがフィクションに登場したのはずっと前だしね。ファン層は以外に広いと俺は思う。

 前に親父とゲームについて話をしていたら突然爆笑したのでどうしたのかと思ったら、話にできてきた人のキャラ名が昔のVRが登場する小説のキャラのものだったのが原因だと判明したりもした。

 ギルドなんかも他のゲームよりもはるかに趣味人が多く、単純な社会人ギルドはもちろん、ひたすら山に登る登山家達のギルドやフィールドを隈なく旅する旅行愛好家のギルド、果てはNPCをひたすらナンパする擬似恋愛クラブなんていう連中も存在する。



「そういやおまえはやってないのか?」


 叔父さんが親父に話を振る。


「俺はやってないよ。兄さんなら大丈夫だと思うけど、俺はやったら多分ハマって抜けなくなるからね」


 そういってビールをあおる親父。

 いやまったく全然自重できないっていってるのがかっこ悪い。


「ははは、ちげぇねぇ」


 そういって叔父さんもビールをあおる。

 こういうところは兄弟なんだよなぁ。


「やるならやるでリミッターでもつければいいんだけど、それでも仕事に支障がでそうだし、それにそのうち嫌でも仕事関係で関わることになりそうだしね」


 親父は割と老舗なゲーム会社の広報に在籍している。


「やっぱVRでソフトをだすような、そういう話あるわけ?」


「まだ全然だよ。現状は独占で『オーバーランド・オンライン』をやっている感じだからね。アレの開発が一通り終わらない限り、他はどうにもならないか組み込まれるだけだよ」


 特に特許については基礎技術は国が握ることになるらしく、問題はどこまでを基礎とするかの線引きらしい。

 そこら辺が片付かないと根本の技術が使えないため、他社が着手することが出来ないのだ。

 国家プロジェクトじゃなければ立派な独占禁止法違反だろうなぁ。






「はいはい、ゲームの話はそれくらいにしてくださいな」


 風呂上りの子供達を連れて母さんと叔母さんが現れる。

 手に持っているのは花火だ。


「危ないから、お兄ちゃん達といっしょにね」


「うん、早く行こうお兄ちゃん!」


「早く早く!」


 そう言われて俺とシゲ兄さんが引っ張り出される。

 親父がバケツを取りに行き、叔父さんも重い腰を上げた。


「待った! まだ、水がまだだからな。おじちゃんが水持ってくるからそれからな」


 しかしアレだな。ずいぶんと立派な袋の花火なんだが、これ全部やるのか?


「母さん、ライターはどこだったかな?」


「はいはい。ライターはないけどマッチならここにあるよ」


「兄さん、どっかにチャッカマンがあったはずだよ」


「ん? ああ、そうだ! これがあったね」


「おう。ありがとな。しっかしこれちゃんと点くのか? お、点いた。大丈夫だな」


「おじいちゃん、はやくー!」


「ちょっと待ちなさいって」


 弟の暴走を姉が止めている。


「わーったからちょっと待ってろ!」


 子供達二人が袋から思い思いの花火を取り出す。

 お姉ちゃんもちゃっかり取り出していた。でも一本ずつにしておきなさい。この人数でこの量なら誰も取ったりしないって。


 ようやっと水を汲んできた親父がバケツを置き、ささやかな花火大会が始まった。


「こら! 花火を人に向けるな!」


「ちょっと危ないよぉ」


「あはは、ボク次これー」


「両手持ちじゃー」


「ちょっとシゲ! やめなさい!」


「・・・お前なんでそんなに線香花火が好きなんだ?」


 いいじゃないか、線香花火。最後まで落さないと謎の達成間があるし。


「秘儀三本点けじゃー!」


「おまえいい加減にしとけよ!」


 子供達もだが、なんだかんだで大人達も楽しんだと思う。


 この後は風呂入って早めの就寝だ。

 明日の朝は朝釣りがあるから5時起きだ。

 そのあとは墓参りと大叔父のところへ寄ることになっている。

 明後日は一日フリーなので泳ぎに行って、そして明々後日には帰る手筈になっている。

 なかなかに忙しい。


 そんな夏休みの一日。

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