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炎の魔術師と神の使徒  作者: 揚羽常時
竜の呪(ドラゴンズカース)編
94/148

エレクトロキネシス16


「――――――――」


 闇夜の中。


 さらに深い闇を纏う鬼。


 吸血鬼でこそ無いも、その厄介さはかなり上位に位置する。


 追おうとするより早く、颶風が吹き荒れた。


 突発的に彼を吹き飛ばす。


「照ノ!」


 クリスが叫んだ。


 悲鳴に近いが、本人は認めたくないところだろう。攻性的に一瞬で意識をすり替える……この技術は威力使徒ならではだ。


 間半髪で仮想聖釘を具現する。


 アリスは神勁しんけいを巡らせ、エリスはパチリと電流火花を鳴らした。


 次に現われたのは、洪水だ。


 まるでダムが決壊したかの如き濁流が、かしまし娘を襲う。


 高所を取ろうにも手段がない。


 アリスが進んだ。


 神勁。


 世界調律。


 濁流に触れた瞬間、水は全て氷に成り果てた。


「うわお」


 師匠であるはずの照ノが、驚く始末。天翔で、体勢を整え、地面に着地する。ソレだけのことが何処か麗しい。


「これは?」


「藤原氏の仕業でやんすな」


「ふじわら」


 クリスが知らないのも無理はない。


 藤原はともあれ、四鬼はさすがにマイナー過ぎる。


「真逆とは思うたが、やはりきさんか。私の命運も此処までと」


 人の声がした。


 それも理性的な。


天常照ノ(あまつてるの)


 フルネームで呼んだのは、若い大和人。


 好印象の青年だった。


「?」


 困惑する照ノ。


 ――どうやら向こう方は、照ノを知っているらしい。


 とまで察し、照ノの再認には引っかからない……無論、無理なからぬ事ではあって、普通に照ノの背景は調べれば分かる。


 炎の庭の中。


 三柱の鬼が、青年の周りを固めていた。


「加護の装束。仮想聖釘。神威装置か。無粋な」


 今度は、月夜から、少年の声が聞こえる。


 変声前のソレだ。


「まさかこんな客を相手取るとはな。世界の執拗さにも呆れ果てるばかりだ」


「せめて顔を見せやせんか?」


 照ノはタバコに火を点けて、紫煙を吸う。


 フーッと吐いて、言葉を続ける。


「それとも隠れておきたい理由がありやす? 神威装置が動くことは知っていらっしゃのでやしょう? 今更になって臆しやしたか?」


「安い挑発だ」


 夜空から、少年の声が降り注いだ。


 背中にはコウモリの翼を背負っている。


 吸血鬼。


 それも第三真祖だ。


「ルドルフ殿」


 青年が少年に声を掛ける。


「お気を付けて。目の前の歌舞伎者は、あるいは威力使徒より厄介ですよ」


「失礼な言い草を」


 とはいえ事実の一側面ではある。


「無力に震え不遜に恐るる子らにこそどうか奇跡を。開かれる武器庫は闘争のためにかと、かくあらず。ただ矮小なるこの身に主の栄光をだけ欲するなれば、祈り捧ぐように魔女を滅すること覚えたり」


 クリスは、躊躇いもしなかった。


 アクセスキーを作りだし、空間に鍵を突き刺す。


 虚空に現われた剣の柄を握り、空間の透明性から引き摺り出した。


 十メートルを超える刀身。


英雄級ヒーローズ』と呼ばれる聖遺物。


 竜殺しの神剣。


 アスカロンだ。


「セカンドヴァンパイア。聖ゲオルギウスの御名に於いて、聖殺します」


「アスカロン――!」


 ヴァンパイア……ルドルフが絶句した。


 まさか鍵持ちの威力使徒とは思わなかったのだろう。


 だが言ってしまえば、過小評価のツケだ。


「殺す!」


 殺意爛々と。


「このワーカホリックさえ無ければ、いい女でやすのに」


「手出し無用に願います」


「言われずとも……その余裕はありやせんよ」


 照ノは皮肉気に笑った。


 藤原の四鬼。


 とても加減できる相手ではない。


「射!」


 超質量のアスカロンを、教鞭の様に振るって、クリスは吸血鬼に襲いかかった。


 それらを風景として捉え、


「藤原も地に落ちやしたな」


「なに。第二の人生という奴だ」


 ククッと、青年は笑う。


 皮肉気な口の端には、吸血の牙が。


 吸血鬼化の証だ。


「小生を知っているようで?」


「ええ、お目に掛かったことが」


 意外と照ノは顔が広い。


 教会協会ですら、意見を無視できない存在だ。


「どうも。此方は藤原遠野と申す者。ま、忘れてくださって結構ですけどね」


 穏やかに笑う。


「ふじわらの……とおの……」


 ――どこかで聞いた名だ。


 それが照ノの印象だった。


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