表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎の魔術師と神の使徒  作者: 揚羽常時
竜の呪(ドラゴンズカース)編
78/148

プロローグ「照ノとエリス」

時系列的には「暁の星編」のその後です。


「ひ……は……は……」


 真駒エリスは走っていた。


 元より、運動は得意でない。


 されど、今回に限って云えば、精神が肉体を支配し、足を止めることを、しなかった。


 むしろ、させなかった。


「何処よ此処!」


 赤い月に漆黒の夜空。


 星はなく、人もおらず。


 一人で、エリスは、誰も居ない不気味な夜を、横断していた。


「――――――――」


 不吉な唸り声が聞こえる。


 まるで破滅と悪徳と人外をブレンドしたような……不吉極まる……ソレは咆吼であったのだった。


「ひ――」


 背筋を悪寒が支配する。


 エリスは学生だ。


 一般人と少し違うが、重なる部分が多いだろう。


 信心深い家に育ったため、神秘主義には理解はあるも、それにしても今夜のことは、あまりに無惨だ。


 赤鬼。


 角を生やし、皮膚のない露出した筋肉肌。


「――――――――」


 虚ろな瞳は何を見ているのか?


 とても理性は期待できない。


 そもそもコミュニケーションがとれるのか。


「何なのよぅ」


 体力も限界だ。


 呪われた身では、たしかに不安な毎日ではあった。


 されども「鬼に襲われる」は、覚悟の範疇を余裕で飛び越えている。


 セルゲイ・ブブカもビックリだ。


「――――――――」


 粘性の高い涎が、赤鬼の口から零れた。


 食べられる。


 本当にそうなのかは、検証の必要はあれど、現実とは乖離した意識の部分が、確信していた。


 南無三。






 ――殺される。






 それは確かだ。


「なるほどで」


 そこに第三者の声が響いた。


 エリスでも、赤鬼でも無い声。


 どこから現われたのか?


 それすら明瞭ではない。


 男だが……少年だ。


 また奇抜だった。


 金田一耕助を思わせるボサボサの鳥の巣頭。


 服装は喪服で、ジャケットの代わりに紅の羽織を纏っている。


 成人には見えないのに、宇羅キセルをくわえ、しかも火が付いており、ゆらゆらとタバコの煙が立ちのぼっている。


 真駒エリスは、その少年を知っていた。


「おやま、被害者さんで」


 いつの間にか、自分の背後に立っていた……知り合いは、こちらをあまり認識もしていないらしい。


 被害者Aとでも言ったところか。


 問題は、その黒眼が、挑戦的な光を帯びているところだ。


「鬼にも鬼の事情はありやしょうが……」


 紫煙を吐く。


「成敗されるが定めならば、まこと真摯に受け止めて欲しいでやんす」


 ――何を言っているのか?


 エリスには分からなかった。


 まるで、


「今から鬼を退治する」


 かのように聞こえたのだ。


 聞こえたも何も、少年は、そのつもりだ。


「とざい、とーざい」


 少年の手から、ボッと炎が点った。


「え?」


 エリスが困惑する。


「灼火」


 炎は膨張し、赤鬼に襲いかかる。


 曼珠沙華の意匠をあしらった、紅の羽織がはためく。


 炎の奔流が、鬼を襲う。


 粘着性があるかのように、消えず、燃やし、鬼を焼き付くさんと、燃え続ける。


「――――――――」


 獣の遠吠えが聞こえた。


 鬼の口からだ。


「鬼よ鬼よ。蒙昧から覚めよ」


 パチンとフィンガースナップ。


 澄み切った音が、灼火をさらに増大させた。


「ルォォォォ!」


 悲鳴があがる。


「灼火灼熱」


 さらに炎の勢いが広まる。


 鬼は、瞬く間に酸化し、劣化し、炭クズとなって、消え失せる。


 同時に、結界が途切れた。


 それを、音で、エリスは知った。


 車のエンジン音やクラクション……人のざわめきと、風の声。


 月は赤色から黄金に戻っており、既に一人では有り得なかった。


「さて御少女」


 鬼を焼き滅ぼした少年が、エリスを見やった。


「今宵のことは、ここで黙秘ということで」


 人差し指を唇に当てて、軽やかなウィンク。


 そしてフツリと、少年は消えた。


「え……と……」


 実感と記憶の齟齬が、エリスを困惑させる。


 赤鬼が本当にいたのか。


 自分は少年に助けられたのか。


 それとも全てが悪い夢だったのか。


「……………………」


 どうにもこうにもとの様子だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ