そは堕天する人の業15
「わらわの八本の尾でも駄目となると……のう?」
「心中察するでやんす」
ちなみに最後の一本は流星の魔術を司る尾っぽだ。
つまり持ちうる限りの能力を解放して、なお決定打に欠けると認識させられたのだ。
とはいえ悲観することもない。
風と水の魔術は効いたのだ。
それらを軸に戦場を支配すれば、互角以上に戦える。
「……沙ァ!」
沸き立つ戦意を押さえきれず玉藻御前は笑った。
まさに強敵と呼ぶにふさわしい相手。
暇潰しの格好の的。
地球そのものに深刻なダメージを与えうる脅威と云う意味では……玉藻御前も此度のメタルゴーレムも五十歩百歩だ。
中略。
圧倒的破壊で周囲を蹂躙せしめた玉藻御前とメタルゴーレムは、互い以外を認識していなかった。
プライドタワーは天罰魔術で蒸発したとしても、その周囲にあった摩天楼群までもが粉砕され、焼失され、風化され、溶解され、地獄絵図と化していた。
既に人の生きていられる環境では無い。
アルトアイゼンの使徒たちも玉藻御前とメタルゴーレムの死闘(主に玉藻御前の行使する二次変換によるものだが)に巻き込まれて全滅していた。
「まだまだじゃあ!」
「――――!」
激突する双方。
その片方の……尾てい骨から伸びる金色輝く尾っぽの一本をグイと引っ張る照ノ。
流星を使った単位時間でのトップスピードからの急制動。
「何をする天常!」
「これ以上は不毛。十分遊んだでやんしょ? そろそろねぐらに帰んやさい」
「天常でアレを処理できるのかや?」
「そう言っていやす」
メタルゴーレムから超大直径のビームが放たれる。
が、それは照ノと玉藻御前を傷つけること能わず。
照ノは単位時間修復で難を逃れ、玉藻御前は生まれついた神性の防御力が功を奏した。
「しかして天常。きさんのモードは火であろう? あのメタルゴーレムとは相性が悪いぞな」
「やり方は色々ありやすよ。伊達に人類の全魔術特性を網羅しているわけではありやせん」
「ほう?」
挑戦的かつ挑発的に、玉藻御前が目を細める。
自身と拮抗する神代のメタルゴーレムを、苦も無く倒してのけると豪語したのだから訝しがらない方がどうかしている。
「何の魔術を行使する気じゃ?」
「クトゥルフ神話」
「クトゥグアか。それで埒が開くかのう」
「整理しやしょう。此度の宇宙エレベータ……プライドタワーで行なわれるべき魔術儀式は二つ。天至と天罰。そして趨勢は天罰によりメタルゴーレムを起動させやした」
「じゃのう」
「つまりあのメタルゴーレムは旧約聖書のモードで動いているでやんす」
「じゃのう」
「地球の神……唯一神の力の一端でやんす」
「じゃのう」
「ならば唯一神に対抗できる神性が必要となりやす」
「ルシファーか?」
「敗北者を真似てもしょうがないでやしょう」
「天津甕星がソレを言うか……」
「耳が痛いでやんす。閑話休題。そんなわけで地球の現支配者に対抗するならば地球の旧支配者の力を借りるのが一番自然でやんす」
「わからん話じゃないがのう……具体的に何をするんじゃ?」
「恒星召喚」
しごくさっぱりと、照ノは有り得ないことをのたまった。
「ん?」
あまりの突拍子もない言葉に、心と体を硬直させた玉藻御前を無視して呟く。
「改めよ、旧支配者の、因果律、時空の遮る、檻より出ずれん」
右手で指鉄砲を作って夜空を指差す。
そして二次変換。
「フォーマルハウト」
呪文自体は淡々としたものだが、如何せん内容が破格を極めた。
照ノの指鉄砲の指した先。
照ノの頭上の遥か上。
大気圏よりさらに上。
衛星軌道よりまだまだ上。
宇宙空間に恒星が生まれた。
地球の元々の支配者の神性の一角。
クトゥグアの住まうとされる恒星。
ロイヤルスターとも呼ばれる神性の一番星。
アポテオーシスリミッター無視で具現したのだ。
それをどうするかなぞ考えるのも馬鹿らしい。
地面に叩きつける……ではない。
そも、そんなレベルでは済まない。
むしろ質量として劣っている地球が、フォーマルハウトに飲みこまれる形だ。
なお旧支配者の神性は健在。
現支配者の眷属にしてみれば、そりの合わない属性であることに、一分の余地も無い。
である以上、天の熱塊は、そのまま唯一神の神性に対する脅威とイコールで結べる。
あくまで結界内の出来事とはいえ、メタルゴーレムはフォーマルハウトに取り込まれて、地球を道連れに滅んだのだった。




