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炎の魔術師と神の使徒  作者: 揚羽常時
傲慢の塔(プライドタワー)編
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そは堕天する人の業02


「では特に天至派を邪魔する理由にはなるまい? 僕的に見ても至ろうとしている天はキリスト教の天国ではなく神道の高天原なのだろう?」


「我々神威装置の正式名称を忘れましたか?」


 教会協会神威布教広報特務組織所属異教殲滅本義会設武装士団。


 異教の殲滅を本義とする武装士団。


 そしてそれを具現化するのが威力使徒。


 である以上、


「天国以外の天を認めることは有り得ない」


 とクリスは云うのだった。


「面倒な性格でやんす」


 照ノは紫煙をフーッと吐く。


 そもそもにして、照ノがいる時点で、高天原の存在は確立されたも同然だ。


 ある種の生き証人である。


 ラッセル現象の理論もあるため絶対ではないが。


「つまり異教徒ですから此処で殺しても良いということですね?」


 既にジル目掛けて具現させた仮想聖釘を、照ノに構え直すクリスだったが、


「カーメンツンデレでやんすなぁ」


 照ノは特に意識せずに喫煙する。


「パパを殺そうとするママは嫌いだな」


 ボソリと、トリスが呟く。


 エメラルドの瞳は、責めるようにクリスを見ていた。


「神威装置にはありえない言葉ですね」


「わかっていますけど。でもパパはパパですし」


「わはは」


 快活に照ノが笑った。


「笑い事ですか……」


 クリスは微妙な表情だ。


「まぁパパであればこそ……だね」


 アリスは毎度の如く皮肉気だ。


 六十年強も生きれば擦れる……と云うものである。


「ツンデレ機動ツンデリオンはまだデレの境地に至っていないと」


 仮想聖釘。


 扇子で弾く照ノ。


 パンと広げた扇子には「三魂百迄」と書かれていた。


 その扇子をヒラヒラと扇ぐ照ノ。


「誰がツンデリオンです誰が!」


「そういう素直になれない所が高ポイントでやんす」


「変態!」


「最初は喧嘩友達から始まり恋に至るのがお約束でやんすよ」


「でもパパはママと六十年強一緒に居て、デレを引き起こして無いんじゃないんですか?」


「むぅ」


 言葉を封じ込められる照ノだった。


 珍しいケースだ。


「私じゃ駄目ですか?」


 トリスが爆弾発言。


「トリス!?」


 クリスが慌てた。


「主に仕える威力使徒が何を言いますの!」


「だって六十年近くもママを想って願いの叶えられないパパが可哀想で……」


「おおう」


 呻いたのは照ノ。


「小生は可哀想だったんでやんすね」


 今更気づく辺り、照ノも大概天然だ。


「ちなみにクリス嬢は本当にそうでやんすか?」


「あ、当たり前です! 誰があんたなんかに! 地球が引っくり返ってもありえないです!」


 と言いつつ顔を真っ赤にする辺りがクリスニズム。


 ツンデリッターの業である。


「いい加減目を覚まさない?」


 血をチューとストローで吸いながら、ジルが呆れたように言う。


「全知は不確定性原理が。全能は大岩のパラドックスが。それぞれ否定してるよ?」


「あなたとて威力使徒でしょう?」


「ソレとは関係なしに、クリスにうんざりしてる」


「何に?」


「僕もトリスもアリスも、照ノを憎からず想ってる。でも当の照ノは、クリスに夢中だ。その座にあぐらをかいて、ツンデレしている辺りに、傲慢を感じざるを得ないね」


 ほとんど皮肉だ。


「だね」


 アリスも同調した。


「ママはパパの好意に甘えてると思います」


 トリスも乗っかった。


「ぐぅ……!」


「照ノが嫌いなら嫌いと言ってあげれば?」


「それは……!」


「出来ないってことは心情を暴露したも同然だよ?」


「私は威力使徒です!」


「全知全能は敗れているだろう?」


「それでも信仰に疑いを持つなぞ有り得ません」


「なら照ノを突き放してよ。僕たちが慰めるから」


「それは……!」


「それは?」


「あぅぅ……」


「結局照ノの好意を受け取りながら、高慢ちきに振る舞うことで、照ノと信仰心を両立させようとするズルい人間だってことだよ?」


「そんなことはありません」


「本当に照ノが嫌いなの?」


「ぐぅ……」


「ほら。ね?」


「そういうところがズルいね」


 ジルとアリスが追い詰める。


 そこに、


「待った」


 ちょっと待ったコールをかけたのは当の照ノだった。


「何さ?」


「何だい?」


「そう追い詰める必要も無いでやんしょ? 小生は現状に文句を言いやせん」


「照ノほどの達観を僕たちはまだ獲得していないんだよ」


「右に同じく」


 ジルとアリスは抗弁する。


「こういうのはワインと同じでやんす」


「その心は?」


「封を開けるまでの期間が長ければ長いほど熟成しやす」


「でも六十年もデレてないんですよ?」


 トリスが言う。


「小生にとっては六十年なんて数える年数にも入りやせんしなぁ」


 キセルでタバコを吸いながら、鳥の巣頭をガシガシと掻く照ノ。


「クリス嬢の気持ちは十全に伝わっていやすよ。その上でツンデリックを認識しているんでやんす」


「優しいねパパは」


「優しいな師匠は」


「優しいね照ノは」


「なんで私が照ノに惚れてる前提で話が進んでいるんです!」


「クリス嬢。愛していやす」


「~~~~っ!」


 真っ赤になるクリス。


「ほら、ね?」


 照ノは他のヒロインを流し目で見る。


「だからツンデレは止められないでやんす」


 仮想聖釘が飛んだのは言うまでもない。


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