ヴァンパイアカプリッチオ03
夜。
今夜も今夜とて、魑魅魍魎が百鬼夜行。
それとは別に、剣に寄らぬ戦いが行なわれていた。
「あううぅぅぅ……」
場所はプライドタワー……その周辺。
プライドタワーを中心に、六つのポイントを繋げば、正六角形を構成する……そのポイントの一角。
陣地取りと云う平和裏な戦いが為されていた。
他の五つのポイントは一進一退の攻防。
敵対する勢力の魔術錠を解いては、自身の魔術錠でポイントを掌握。
そのいたちごっこ。
しかし、トリスが解呪に臨んでいる魔術錠だけは、陣地取りのルールが布かれてから「天の御座に至らん」とする勢力が、開始当初からずっと占有していた。
理由はいたって簡単。
トリスの解こうとしている魔術錠を、仕掛けたのが照ノであるからだ。
さすがに二千歳も越えていれば、色々なことを知っているもので、自身の魔術特性も相まって特殊な魔術錠の陣布に成功している。
かみ砕いて言えば、
「照ノの魔術錠は開錠が難しすぎる」
で済んでしまう話ではあるのだが。
宇宙エレベータ……プライドタワーを用いた二種類の魔術実験の施行が相反しているため、どちらかに選ばねばならない渡世の義理として、因果ではあるが、照ノは義理の娘と敵対していた。
もっとも、そんなことに躊躇いを覚えるほどの繊細や優しさや気配りを、持ち合わせていないのが照ニズムなのだが。
「パパ!」
「何でやしょ?」
「ヒント!」
「努力することでやんすね」
「それはヒントではありません!」
「諦めない気持ちが何より解決に直結するんでやすよ」
照ノは、一升瓶に直接口を付けて、酒を飲んでいた。
先述したが今は夜。
月見酒だ。
「とりあえず照ノを痛めつけて照ノ自身に解呪してもらうというのはどうでしょう?」
現役復帰したクリスが、そう提案した。
月光と同じ黄金の髪。
月夜に輝くサファイアの様な瞳。
奇跡のような美少女だが、その狂っているとさえ云える信仰に対する情熱は、オーラの如く、闇夜においても存在を照らしていた。
「一応、直接的敵対は禁止されてますよママ?」
それがこの六つのポイント……六芒星を構築する六頂点の陣地取りの原則である。
「バレなければいいんですよ。それに照ノなら死にませんし」
「ツンデリッターらしい言い様でやんす」
照ノは苦笑した。
仮想聖釘が飛ぶ。
ヒョイと避ける照ノ。
そして一升瓶を傾ける。
ゴクリゴクリと喉を潤すアルコール。
焼酎である。
「男を痛めつけるんですの? なんならわたくしがやりましょうか? わたくしならこちらに来たばかりでルールを知らなかったで済みますし」
一応のところ、命を助けられたはずのソルが、提案した。
「ふむ。名案ね」
いっそ清々しく非合法を口にするクリスだった。
「私はパパを傷つけてほしくないです」
「大丈夫ですわ。殺しはしませんから」
「そういう問題……かなぁ?」
ちなみに照ノは、
「…………」
全てを聞きながら月見酒。
特に脅威を覚えていないため警戒の必要さえないが。
「ところで何の因果でソルはクリスと敵対したのかな?」
これはアリス。
「それは僕も聞きたかったり」
ジルが追従する。
「腹ペコのところに血の香りがしたのでその元を辿って行ったら教会に辿り着いたんです。キッチンの冷蔵庫に冷やされた輸血パックが有ったのでご馳走になっていたらお姉様と鉢合わせしたのですわ」
「吸血鬼って大変だね」
アリスが苦笑した。
「全くだ」
ジルは感慨深げだ。
「お姉様になる気は無いんですが……」
クリスは困ったように、こめかみを押さえた。
「いいですわよ吸血鬼。カーミラの眷属なら日光を避ける必要もありませんし、死なない程度に吸血すれば眷属を増やすことも有りませんし。後は快楽に身を任せるだけで永遠を過ごせますわ」
「それを堕落と云うんです」
そもそもにして使徒が吸血鬼化を望んでは、本末転倒に他ならないのだが。
「照ノハーレムをわたくしが奪いたいくらいですわ」
クリス。
トリス。
アリス。
ジル。
各々が各々で照ノに好意を持っている。
一人はそれを認めようとしてはいないとしても。
「いやぁ」
照れる照ノ。
「美少女ばっかりいるここはエデンですわ。皆わたくしの眷属にしたいくらい」
「出来るものなら、ね」
アリスが皮肉っぽく言った。
可能か不可能かで言えば、おそらく不可能だろう。
ソル……ソルベ=ブラックモアは強い。
それは確かだ。
セカンドヴァンパイアとしての威力は、戦術兵器に等しい。
それは皆々が周知している事実だ。
が、相手が悪すぎた。
炎の魔術師たる照ノは、火を天敵とする吸血鬼には最悪の相性だ。
それは一神教に傾倒しているクリスとトリスにも言える。
神代の疑似経絡を展開し、神勁を扱うアリスは万能で、戦力差の比較も馬鹿らしい。
唯一、同じセカンドヴァンパイアのジルが拮抗するだろうが、消耗戦になるのは目に見えている。




