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炎の魔術師と神の使徒  作者: 揚羽常時
傲慢の塔(プライドタワー)編
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ツンデリッター再臨08


 午前の講義も終わり現在は昼休み。


 照ノは、おにぎりとサンドウィッチを購買で買って、屋上に身を移していた。


 当然『天翔』の魔術によるものだ。


 それから、おしゃぶり代わりに加えているキセルの火皿に、刻みタバコを詰めると、魔術で指先に炎を灯しタバコに火を点ける。


 キセルから主流煙をスーッと吸って、煙をフーッと吐く。


「快楽よ快楽」


 タバコを味わいながら皮肉気に笑う。


「もう! パパ!」


 背中に三対六枚の翼を背負ったトリス。


 その横で宙に浮いているアリス。


 二人は禁足地の屋上に無理矢理押し入っていた。


 それは照ノも同罪なのだが。


「何でやしょ?」


「意味がわからない」


 と照ノ。


 トリスとアリスが屋上に降り立つ。


「未成年がタバコなんか吸っちゃ駄目ですよ!」


「小生既に二千歳を超えてやす」


「学生の立場があるでしょう?」


「校長には承諾を得てやすが?」


「うぐ……」


 言葉に詰まるトリスだった。


「師匠は禁煙しないんですか?」


「別に必要を感じやせんなぁ……」


 本音だ。


 概燃がいねんを持つ照ノにとって、タバコの害なぞ算出するのも馬鹿らしい。


「アヘン戦争を仕掛けた一神教圏の人間に言われやしても」


 フーッと煙を吐く照ノ。


「それとこれとは違いますよぅ」


「へぇ」


 簡潔に。


「パパはタバコを止めるべきです!」


「それを決めるのはトリス嬢ではありやせんな」


「うぐ」


 文字通り痛い所をつかれた表情だった。


「ハードボイルドにはタバコが不可欠でやんす」


 照ノは新たな刻みタバコをキセルの火皿に詰めると、ボッと指先に炎を灯してタバコに火を点ける。


 スーッとタバコを吸って紫煙を吐く。


一現ひとうつつ……」


 アリスがポツリと言う。


「然りでやんすなぁ」


 照ノはタバコを吸いながら、空いた右手から炎を出してみせた。


 炎は大蛇のようにその身を伸ばしてくねらせて、屋上を取り囲んだかと思うと、


「…………」


 パチンと照ノが指を鳴らしたことに応対して、フツリと消え去った。


 そしてフーッと煙を吐く。


「御覧の通りでやんした」


 マジックトリガーも引かずに、超常現象を引き起こす。


 というより天常照ノ自体が現象の様なものだ。


 そんなこととわかっていても、


「ふえ」


「ふふ」


 トリスは驚愕せざるを得なかったし、アリスは苦笑せざるを得なかった。


 トリスを指差してその指先に炎を灯す。


「さて、何か用でやしたか?」


 空中に鏡文字を記す照ノ。


 当然、鉛筆でもペンでもインクでもなく空中に文字を綴っているのは炎だ。


 炎文字とでも言うべき空中の情報体で尋ねる照ノに、


「特に意図したわけじゃないんですけど……」


 トリスはややうんざりと、


「周りがうるさくてね」


 アリスは皮肉気にそう言った。


 照ノはスクロールでもするかのように手を振って炎の文字を消すと、


「しょうがありやせん」


 と説得に移る。


「何せトリス嬢もアリス嬢も学園の双璧でやすから」


「私ってそんなに可愛いの?」


「それはアリスも思いますね」


「でなけりゃ告白なんて受けないはずでやんすが……」


「う」


「ぐ」


「うぐぅ」


 照ノは特に感情を込めずにそう言って、吸い終わったタバコの残骸をコンと振って火皿から床に落とす。


 新しい刻みタバコを火皿に詰め込むと二次変換……つまり情報として持っている炎のソレを現象へと変換する。


 照ノの指先に脈絡の無い炎が生まれると、それは火皿に灯されタバコに火が点く。


「喫煙者には便利ですね」


 苦笑しながらアリス。


「まぁ」


 照ノはそこでタバコを吸って吐くという間をおいて、


「本来ならばこれが魔術にじへんかんの正しい使い方でやんす」


 そう言う。


「攻撃魔術ばかり躍起になって覚えようとする輩には理解出来やせんでしょうがね」


「それについては同意」


「だね」


 トリスとアリスも頷いた。


 トリスの降霊もアリスの神勁も攻撃的ではあるが、これについては業の問題であって魔術特性モードに強烈に引かれていることが前提だ。


 そも、そうでなければ今のトリスやアリスは有り得ない。


「最近花火を具現する魔術を覚えようかと思案中でやんす」


「家庭花火?」


「いえ、打ち上げ花火を……でやす」


「出来るのかい師匠?」


「まぁ可不可を問えば可でやんすが」


「じゃあ何時でも花火が見られるってことですか!?」


「まだ現覚の問題がありやすから時間はかかりやすがね」


「パパッと出来ないのかい?」


「新しい二次変換の開発がどれほどのものかはアリス嬢も知っていやすでしょう? 何より『神勁しんけい』を覚えている嬢なら」


 挑発的な照ノ。


 対して苦笑するアリス。


「そうですね。その通りです」


 元より照ノを、


「師匠」


 と呼んでいるアリスである。


 それは、


「魔術の師匠」


 のことであり照ノを全面的に信頼しているが故の言葉だ。


 照ノはアリスの事情を鑑みて神勁の魔術を教えた。


 それはアリスの自負と自信に繋がり、自らの手で運命を切り開く術となった。


 魔なる術。


 即ち魔術にじへんかんである。


 照ノは煙をくゆらせスーッと吸いこんでフーッと吐く。


「ま、トリス嬢の事情も理解していやすし、アリス嬢のソレも理解はしていやすがね」


「それを言うなら師匠のせいでしょう?」


「然りでやんす」


 タバコを吸いながら苦笑する照ノ。


「パパは何にも動じないよね」


「世の中には慌てたり叫んだりするに足りるようなことは何もないという言葉も有りやすし」


「古典的ではあるがそれは既に裏切られているだろう?」


「それも然りでやんすな」


 タバコを吸いながら照ノはくっくと笑う。


「話を戻しましょう」


 そんなクリスの言に、


「どこまで?」


 首を傾げる。


「学生がタバコを吸っちゃいけないということです」


「だから教師にも承諾を取っていると……」


「それでも周りに対する説得があります!」


「小生がタバコを吸うのはこの屋上だけでやんす」


 肩をすくめる照ノ。


「なれば誰に見つかるはずもないでやしょう?」


「そういうことじゃなくてですね……」


「小生二千歳を超えていやす。この程度の自己判断は解決済みだと思いやすが?」


「うぅ……」


 反論の言葉を失うトリスだった。


 吸った煙をフーッと吐く照ノ。


 視線は上空へ。


 即ち天を仰いで。


 当然吐き出された主流煙も空に向けられ……そして撹拌した。


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