ツンデリッター再臨04
「でも一神教の原理はともかく、そこから発生する慈愛の精神は認めてくれてもいいんじゃないかなって思いますけど」
「十字軍の例もありやすしねぇ……」
「あう」
トリスが悲しそうに目を細める。
「小生としてはクリス嬢やトリス嬢には唯一神から脱してもらいたいんでやすが」
仮想聖釘が飛んでくる。
ヒョイ。
「朝食が出来ましたよ異教徒」
フレンチトーストとベーコンエッグとサラダとフレッシュジュースを照ノの前に置くクリスだった。
「ツン後デレでやすなぁ」
しんみりと言った照ノの言葉に、
「…………」
無言で仮想聖釘を構えるクリス。
「ママ。それ以上、家に穴をあけないでください。照れ隠しでもやりすぎです」
「て、ててて、照れ隠しなんかじゃありません!」
「狼狽えてる狼狽えてる」
照ノは「不可素直」と書かれた扇子を取り出して広げると、口元を隠してくつくつと笑った。
「殺す」
「駄目です」
「止めないでくださいトリス!」
「殺めず……奪わず……謀らず……ですよママ」
「それは敬虔な信徒に適応されるものです! こんな異教徒はグラム八十九円の肉塊に変えても問題ありません!」
「慈悲と慈愛の精神は何処へ行きやした?」
「信徒でもないあなたが戯れ言を……!」
「おや? 世界を創ったのは神でやんしょ?」
照ノは扇子をヒラヒラと扇いで皮肉る。
「神が全知全能だというのならば、フェーストマンが知恵の実を食べたのも、ソドムとゴモラで退廃的文明が発生したのも、ノア一家以外の人間を鏖殺したのも、全ては神の意思。なれば異教徒が発生するのも神の意思ではありやせんか?」
「それは……!」
「それは?」
「……っ」
「神が全知全能だというのならそれは即ちラプラスの悪魔でやんす。なれば異教徒の思考も……その在り方も……その生き様も……全ては神の都合では?」
「死ね!」
「駄目だってママ」
「ソドムとゴモラ。ノアの方舟。バベルの塔。あっさりと大量の虐殺と破壊と破滅を起こす唯一神を信ずるクリス嬢は、何を以て正義を語りやす?」
「…………!」
ギリッとクリスは奥歯を噛みしめる。
「トリス嬢も目を覚ますでやんす。唯一神が本当の意味で全知全能ならば地球なんて云うちっぽけな星の薄皮一枚に生息している矮小な生物なぞ干渉するにも値しない存在でやんすよ?」
「パパは一神教が嫌いなの?」
「慈しみの宗教と云う意味では尊敬していやすよ」
「なら何が問題なのでしょう?」
「愛と徳の信仰自体を否定したりはしやせん。ただ神を信じない異教徒には天罰が下って当然という差別主義に辟易してるだけでやんす。神が全能であるならば異教の存在も必然。ソレを勝手に敵視して否定する厚顔さが気にくわないと……そういうことでやす」
「はぁ」
フレンチトーストを嚥下しながらトリス。
「だいたい全知全能なんて頭の悪い設定……誰が考えたんだか」
「神なんだから全知全能は当然でしょう?」
「では聞きやすがヤハウェは『知らないということを知る』ことは出来やすか?」
「知らないという事を知る……」
「然り」
「全知なんですから知らないことなどないでしょう?」
「ということは……ヤハウェは知らないという情報を知らないことになりやすな。全知じゃないでやんす」
「…………」
沈黙するトリス。
「続けやしょう。ヤハウェは自身が持ち上げることが出来ないほどの超重量の岩を作り出すことは出来るでやしょうか?」
「出来ます」
「ならばその岩を持ち上げられないヤハウェは全能ではないことになりやすな」
「…………」
やはり沈黙するトリスだった。
「つまりなんですか」
トリスは話を纏める。
「全知全能は有り得ないと?」
「然りでやんす」
サラダをシャクリと食べて照ノは頷く。
仮想聖釘が飛ぶ。
ヒョイ。
「でもそれなら私の存在はどう証明します?」
「魔術で説明できるでやしょう?」
トリス=ミカエル=カイザーガットマン。
その天性の素質。
神の奇跡とも言える能力。
それであるが故に、トリスは一神教に傾倒し、神威装置に保護されたのだから。
「納得できません」
厳しい顔つきで照ノを睨むトリスに、
「別に論破する意図はありやせんがね」
飄々と気にした風もなく照ノ。
そこには微塵も絶対神に対する敬意は含まれていなかった。
「ご馳走様でやした」
そして朝食が終わる。




