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炎の魔術師と神の使徒  作者: 揚羽常時
暁の星(モーニングスター)編
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九尾の狐と吸血鬼04


「ふおー……古い屋敷ですー」


 アリスが驚愕したようにそう言った。


「あ……あ……あ……」


 クリスは言葉もないようだった。


「さて……では降りやんしょ」


 一升瓶を持ってリムジンを降りる照ノ。


 照ノ達の降りた場所は東京の深い山々の、その奥に建てられたとても古い屋敷だった。


 外から見ても、既にして……人が住んでいるとは思われないオーラを発している。


 とにかく寂れている。


 外周を取り巻く壁は、蔦がはい、瓦が崩れている。


 木製の玄関は大きいながらも、ボロボロに崩れており、芥川龍之介の羅生門を想起させた。


 照ノ達を降ろしたリムジンが、再度発進する。


 しかし山の奥のボロい屋敷に取り残された照ノは、そんなリムジンの行く末など気にもせず、


「では行くでやんすよ」


 巨大な木製の、ボロボロの玄関をノックした。


 それから、


「お晩でやんす」


 と言ってギイッと木製の扉を開く。


 ヒョコッとアリスが扉の向こうを見る。


 そこには寂れたボロボロの屋敷があるだけだった。


「あのー、お兄ちゃんー……」


「なんでやしょ?」


「誰も住んでいなさそうなお屋敷ですけどー」


「外から見たらそうでやんしょね」


「外からー?」


「入ればわかりやんす」


 照ノは一升瓶を持っていない方の手で、アリスの手を握ると、古い門を抜けた。


 瞬間、世界が一変した。


 曇りだった空が曇りない晴天となる。


 快晴の空の下、照ノとアリスと、それからクリスは、


「「「「「いらっしゃいませお客様!」」」」」


 大げさな歓待を受けた。


 着物を着た女性の大群が門を抜けた先に待機して、左右に並んで道を作っていた。


「へー?」


 とっさのことに首を傾げるアリス。


 それはそうだろう。


 外から見る分には古ぼけた屋敷でしかなかったのに、門をくぐれば豪華な御殿が建っていて、使用人が大挙して出迎えてくれたのだ。


「お兄ちゃんー、これー、どういう理屈ですかー?」


「結界でやんすよ」


「結界ー?」


「そう。結界でやんす。通常の宇宙から四次元方向に少しだけずれた世界でやすな。この世界は《殺生》……または玉藻御殿と言いやして……玉藻御前と呼ばれる女性の創った結界の中なんでやんす。結界には術者に応じてそれぞれ異界の法則が適応されるんでやすけど、この殺生と呼ばれる結界の特性としては、結界内の生命の生殺与奪の権利を術者が握ることができるという点にありやす。気をつけやさい。玉藻御前に睨まれたら簡単に殺されやすぜ」


 そう言う照ノに、玉藻御殿の使用人の一人が近づいてきて言った。


「天常照ノ様……お荷物をお預かりします」


 そう言って手を差し出してくる。


「これはどうもでやんす」


 そう言って照ノは使用人にやしおりの酒の一升瓶を渡す。


「ふえー、外から見たら寂れた屋敷だったのにー、入った瞬間大きくて立派な御殿になってしまいましたー……」


 綻びなどあろうはずもない立派な屋敷……御殿を前にして素直に感心しているのだろうアリスがそう言った。


 クリスが照ノの紅の羽織を掴んで言った。


「どういうことですこれは!」


「どうもこうも……こういうことでやんす」


 他に答えようもなく照ノはそう言う。


「あの玉藻御前に会うなんて聞いていませんよ!」


「あれ? 知ってやすか? 玉藻の事を……」


「それはそうでしょうとも……! インド、中国、日本の三カ国を震撼させえた最大最強の妖怪、白面金毛九尾の狐! その破壊領域は世界でもトップクラスの鬼ではないですか!」


「まぁそう身構えるもんじゃないでやすよ。案外気さくで気まぐれな奴でやすから」


 そう言って照ノはアリスと繋いだ手じゃない方の手でクリスの手を握って御殿の中へと入っていく。


 御殿は、噛み砕いて言えば大きな武家屋敷の様子だった。


 木造りの廊下を渡り、使用人の案内に従って御殿の奥へ奥へと進んでいく照ノ達。


「まさかあの殺生の中に入ってしまうとは……。加護の装束で対抗できるでしょうか……」


「まぁまず無理でやんしょ」


 キセルをくわえたままカラカラと笑うという器用な真似をしながら照ノ。


 その後に十分ほど歩いた先の部屋に照ノ達は辿り着く。


「主はこちらでお待ちでございます」


 使用人は、すらっと一室のふすまを開けた。


 開けられた、ふすまの先には、三十畳ほどの広く縦に長い部屋があった。


 その上座には、黒いストレートのロングヘアーで、十二単を着た、絶世の美貌を持った女性がいた。


 その女性の背中には、金色に輝く九本の狐の尻尾が見えていた。


 ゆらゆらと風に漂うススキのように九本の尻尾が揺れ動く。


「よっ。久しぶりでやんすなぁ玉藻」


 照ノはキセルを懐にしまうと、そう玉藻御前に向かって挨拶をした。


「久しぶりとは大げさな……半年ぶりと言ったところかのう天常照ノよ。どうも長生きをすると光陰矢の如くでいかん」


「あいも変わらず元気そうで何よりでやんす」


「こんなところで監視付きで隠居していて元気も何もあるまいよ」


「それはしょうがありやせん。なにせそちの狐火は核爆弾よりも強力でやすからな。監視なしでは上の方々も枕を高くして寝れやせん」


 そう言ってカラカラと笑う照ノ。


「それよりそちらの女子どもは何じゃ?」


「ああ、そうでやんすな。紹介いたしやす。こちらが……」


 と照ノはクリスと握りあっている手を挙げて言う。


「クリス……クリスティナ=アン=カイザーガットマン。神威装置の威力使徒でやんす」


「ほう! あの威力使徒とな!」


 興味深げにそう言う玉藻御前。


「……初めまして玉藻御前。クリスティナ=アン=カイザーガットマンも申します」


 そう言って一礼するクリス。


「うむ。もし機会があれば奇跡倉庫の蔵物……カノン、ヒーローズ、シールズ、アポクリファ……いつかこの身で受けてみたいのう……」


「それは……ちょっと……」


 困ったようにそう呟くクリス。


 そして照ノは今度はアリスと繋いでいる手を挙げる。


「こっちはアリス。ただのアリス。自称ゴーレムでやんす」


「…………」


 今度は無口になる玉藻御前。


「あのー、アリスと申しますー。玉藻前ー」


「ああ、わかったえ」


 切って捨てるようにそう言う玉藻御前。


「それで今日は何用で来訪したのかえ?」


 そう尋ねる玉藻御前に、


「それよりせっかくの酒でやんす。まずは乾杯しやしょう。使用人にやしおりの酒を預けたのでやすがね」


「ほう、やしおりの……! それはまた……どこで見繕ってきたのかえ?」


「とある酒屋で……でやんす。とまれ、その酒はどうしやした?」


「それなら問題ないわえ。今使用人に準備させておる故……」


 そう言って玉藻御前は立ち上がった。


「どこへ行きやす?」


 聞く照ノに、


「せっかくの酒じゃ。眺めの良いところで呑みたかろう。ついてきやれ」


 そう言って上座に近いふすまから廊下に出る玉藻御前。


 それを追う照ノ、アリス、クリス。


 五分ほど大きな屋敷を外回りにうろうろして、それから照ノ達は大きな池と山桜の見える縁側に到達した。


「ふわー、すごい景色ですー」


 開いた口が塞がらないとばかりに驚くアリス。


「ほう。異教の人形にこの良さがわかるのかえ?」


 興味深げに問う玉藻御前に、


「まぁぶっちゃけた話、こういう風に反応するよう作られているだけですが……」


 えへへと照れ笑いをするアリス。


 そして照ノ、アリス、クリス、玉藻御前は縁側に座って池の鯉と散る山桜を見ながら、使用人の歓待を受けた。


 照ノと玉藻御前は盃を渡され、そこにやしおりの酒を注がれる。


 クリスとアリスには玉露が出された。


「「乾杯」」


 照ノと玉藻御前がそう言って杯の酒を飲みほす。


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