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炎の魔術師と神の使徒  作者: 揚羽常時
竜の呪(ドラゴンズカース)編
147/148

命短し恋せよ乙女26


 結界が解かれる。


 場所は御流様みながれさまの滝のほとり。


 ベル、疾剣斎、威力使徒は、纏めて無力化した。


「――――――――」


 ぐあ、と水のアギトが開かれる。


 御流様……ミズチだ。


「腹が減った」


「でしょうや」


 飯テロだ。


「食わせろ」


「どうしやす?」


「わらわは構わんぞ?」


「僕は照ノ兄様の意見を尊重します」


「で、やすか」


 要するに照ノの口先にかかっているわけだ。


 くわえたキセルから煙を吸う。


 思考してから、吐き出した。


「では一つ条件を」


「なんぞや?」


「此度の御流様の祭。そこで真駒の家の人間を生け贄にしないこと。これを遵守してくださるのならば、こちらが別の贄を与えやしょう」


「そんなことでいいのか」


「後日の贄については、まぁ適当に宜しく」


 無責任極まりない照ノの言だった。


 ドラゴニュートの頭部を掴み、滝に向かって放り投げる。


 滝を神体とするミズチが、アギトを開いて、ベルを飲み込んだ。


「なるほど。美味し。真駒の血統より余程だな」


「そらまぁ」


 龍人。


 ドラゴニュート。


 生け贄にするには竜の因子を持つ真駒の人間より、龍そのものであるベルの方が親和性に於いて高いのは納得できる話だ。


「では当代の贄はコレで宜しいか?」


「うむ。協力感謝する」


 ミズチは栄養を呑み込み、体内に贄を取り入れると、滝の流れの中に戻っていった。


「めでたし?」


「さてどうでやしょ?」


 結果論だけで語れば、確かにと言えるかもしれなかった。


    *


「……………………」


「……………………」


 ジト目のクリスとアリス。


 照ノは平然と納豆を練っていた。


 真駒の屋敷……その朝食中でのこと。


 ちなみに事情については話していない。


 今でも照ノと玉藻とアルトは、エリスを御流様へ人身御供にする……と信じ疑っていなかった。


 興味を引く案件でもなかった。


 別に伝えても良いのだが、ヒールもヒールで心地よい。


 納豆と米を食べる。


 朝食は焼き鮭定食だ。


「エリスを殺すんですか?」


「さてや」


 御流様の祭りも近い。


 エリスは鮭をほぐして、食べていた。


 警察には身柄を捉えたと報告し、エリスの行方不明事件は収束した。


 これを機に、一部の政治家の暴走と、文化破壊の工作が露見し、ご当地の観光開発案件は白紙と相成った。


 真駒の家には追い風だろう。


 緑豊かな自らの故郷を汚されたくはないだろうから。


 反対派の声はなりを潜め、その構成要素であった政治家複数人が裏金の件で警察に逮捕されることになる。


 こういうところでも照ノと玉藻は強い。


    *


 祭りが始まった。


 避暑の最後の日だ。


 エリスが和服を着て、紅を付ける。


 太鼓の音。


 祝福の声。


 騒ぐ住人と、開く花火。


 神輿に座り、エリスが手を振ると、村人は嬉しそうに手を振りかえした。


 一種のアイドルだろう。


 出店も出ており、


「うまうま」


 照ノは焼き鳥を食べ、ビールを飲んでいた。


「うぅ」


 アリスが不安げだ。


「そんなものですか」


 ジルはいつも通り。


「照ノ兄様は意地悪です」


 アルトは照ノに寄り添った。


 金髪が揺れる。


「大公も同罪でやんすよ」


「でしたね」


 アルトはクスリと笑った。


 とても愛らしい笑顔。


「けれどようございました。久方ぶりに天常照ノ兄様の深奥を見られて」


「然程でもありやせんがね」


「竜の呪……というのも因果な物ですね」


「でやすから繁栄と衰退を司るんでやしょ」


 それも納得できる話だった。


 そして神輿が運ばれる。


 綺麗に磨かれたエリスを乗せて。


 目指すはミズチ……御流様の処まで。


「本当にこれでいいのかなー……」


 アリスがぼやき、クリスが歯を食いしばる。


「世の中の何と残酷な事よ」


 ビールをグイと飲む。


「大公は軽蔑しやすか?」


「兄様が言ったじゃないですか。僕たちは同罪ですよ。真駒の家も、この土地の住人も。皆々全てが罪を背負う」


「竜の呪」


「ある意味で僕でも良かったんですけどね」


「死なないでやしょ」


「あ」


 結局の様子……そんな感じで。


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