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炎の魔術師と神の使徒  作者: 揚羽常時
竜の呪(ドラゴンズカース)編
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命短し恋せよ乙女16


「御流様滅ぼすべし」


 カーストが無くとも、少数による多数の支配は人間社会では通念だ。


 結果給料を貰えば働かざるを得ない。


「それにしても!」


 相性が悪い事……この上ない。


「チィ!」


 仮想聖釘の具現。


 投擲。


 フィジカルの要素なのに、聖釘は弾速で奔った。


 殆ど暴力も同然だ。


 その傍で、


「良くやりやす」


「残念無念」と書かれた扇子を広げて仰ぎながら、じっくりとタバコを味わっている照ノであった。


 御流様を祭る禁足地。


 本来ならエリス以外は入ってはならない神域だ。


「――――――――」


 ルアッとミズチが吠える。


 水の糸が斬撃と為ってクリスを襲う。


 容易に躱しのける。


 ソレだけでも人外に踏み込んでいる……その証左であろうし……ぶっちゃけた話、威力使徒なぞそんなものだ。


 少なくとも照ノの安穏として思考の中では……と概念を付与で出来る範囲で。


 まず以て威力使徒には勝ち目が無い敵だ。


 御流様みながれさま


 ミズチ。


 先述の如く、エレメンツの魔導災害。


 水の属性を持ち、水で身体を形成している流動体が、此度の敵だ。


「立て板に水」


 という諺がある。


 クリスとミズチの相性をコレほど現わしている言葉はない。


 あるいは、


「柳に風」


「糠に釘」


「暖簾に腕押し」


 要するところ、


「仮想聖釘が意味を為さない」


 ミズチはそんな神秘だった。


 元より、威力使徒の敵は異教徒。


 この本質は変わらない。


 時に悪魔憑きや吸血鬼も滅ぼすが、それにしても『肉体』が在る。


 受肉体。


 所謂、魔術的でありながら生物の構造を持つモンスターをそう呼ぶ。


 照ノや玉藻……あるいはジルもか。


 彼らがソレに当たる。


 酸素を吸い、食事をし、酸化反応で熱量を得、生命活動となす。


 もちろんソレだけで済まない辺りがモンスターのモンスター所以だが、心臓を潰されたり脳を破壊されたりすれば死に到る(はずという理論自体は存在する)のが受肉体の限界だ。


 ただ今回の敵は違う。


 肉体が既に水だ。


 仮想聖釘を幾ら叩きつけても、水面を手で叩くような物。


 つまり波紋を呼ぶだけで、水から血が流れる事が無い。


 仮想聖釘はそもそも対魔術師戦用の装備だ。


 あらゆる魔術防御を無視して貫く聖なる釘。


 元々の聖釘とは意味が違うため『仮想聖釘』と呼ばれているが、一般的には防御不可となされているアーティファクト。


 それは対処不能の一撃で、出血を呼ぶ事で魔導災害を沈黙させる一手。


 あらゆる意味で魔術師にとっての不条理だが、此度は違う。


 御流様。


 ミズチ。


 単なる水の集合体だ。


 刺されても、パシャッと水体が撥ねるだけ。


 そもそも生命の定義から外れ、水が自立意識を持っているという……ある意味で清々しいまでの物理法則無視の知性。


 エレメンツ。


 現象体と呼ばれる精霊の一種だ。


 受肉体とは別の理論で動く。


 教会協会にもソレ専門の二次変換は在る。


 肉体を持たない現象体は、一神教の支配域にも存在する。


 元々「エレメンツ」も欧州で名付けられた言の葉だ。


 ただ今回は例外中の例外。


 悪霊なら聖言で退散させられる。


 悪魔ならエクソシストの出番だろう。


 だが御流様は別だ。


 日本の河川信仰の産物。


 西洋の悪霊とは存在根源が異なる。


 祈りも悪魔払いも通用せず、まして水で出来た身体は、あらゆるフィジカルを無下にする。


「照ノ!」


「何でやしょ?」


「手伝いなさい」


「御流様をでやすか?」


 分かっていて皮肉を云う辺りが度し難い。


「殺しますよ!」


「でやすかぁ」


 別に照ノはどうとも思っていなかった。


 威力使徒と御流様の相性の悪さは概算できている。


 あえて手出ししていないのは、


「クリスに御流様を妥当叶わず」


 を知っているからだ。


 無論、同じ神として御流様を滅ぼす事なぞ出来はしまい。


 心情的にはミズチ寄りだ。


 照ノにとっては既述の如く。


「とりあえず引いてはどうでやすか? 今の装備では殺しきれないでやしょ?」


「それは……!」


「今すぐ滅ぼせとでも? 性急な結果を協会は望んでいやすか?」


「ぐ……」


 仮想聖釘も意味を為さず、祈りの言葉も無意味と来る。


 たしかに決定打に欠けていた。


「ジーザス・クライスト」


 照ノが十字を切った。


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