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炎の魔術師と神の使徒  作者: 揚羽常時
竜の呪(ドラゴンズカース)編
135/148

命短し恋せよ乙女14


「エリス! 何処に行きました!」


 タタンと屋根を蹴って、クリスは街中を這い回る。


 跳び回るが正確か。


 この程度は威力使徒には造作もない。


「ていうか御流様の討伐って……」


 教会協会からの指令だ。


 話を聞くに、この辺の土地神の様子。


 土地の繁栄を保証し、飢餓から救う由緒正しい御神体。


「では何故?」


 クリスはそう神威装置を詰った。


「人を殺すらしい」


 が理由だった。


 皆中では無いにしても一部、的を射る。


「とりあえず殺せ」


 が命令だった。


 とはいえ、土地神は神聖な存在だ。


 神域。


 禁足地とも呼ばれる。


 ――安易に踏み込んでいいのか?


 クリスは不安に駆られた。


 警察もまた動き、真駒エリスを探している。


 そちらと連携していると、


「――――――――」


 視界に照ノを見つけてずっこける。


 照ノはお茶をしていた。


 テラス席で、ありありのチョコレートを飲んでいる。


「何をしているんです!」


 ジャキッと仮想聖釘を構える。


「お茶」


 不貞不貞しさも此処まで来れば国宝級だ。


「エリスの居場所は?」


「知らずや」


 嘘ではない。


 まさかジルに拉致られているとは夢にも思うまい。


 まず以て、吸血鬼が介入する可能性を二人は想起できなかった。


 確かめれば済む話でもある。


 ただジルが隔離を選んだなら、たしかに糾しに意味は無い。


「御流様が人を殺すのは本当ですか?」


「元より水流の化身は、川の氾濫を神格化した物でやんす。その意味で洪水被害が神話伝説で曲解し、結果水難の神が産まれるのは至極当然でやす」


 一般論だが正しくもある。


 真駒の土地の、山から海に流れる川の象徴だ。


 御流様……この土地のミズチは。


「では……」


「討伐しやしたら霊的に河川氾濫の未曾有は避けられやせんな」


 ソレも事実だ。


「でも教会協会は」


「討伐命令でも出やしたか?」


「です……」


 グ、とクリスは呻いた。


「教会協会も何を考えておられるやら」


「本当に御流様は悪じゃないのね」


「さて、小生では判別付きやせんな」


 チョコレートを飲む。


 ザッハトルテをフォークで切ってハムリ。


「となると」


 思案するようなクリス。


 照ノはまことに平然と……茶で一服していた。


「あなたはどんな立場で?」


「政治的には保守寄りでやすな」


「政治?」


「へえ」


 そのために玉藻が派遣されたのだ。


 在る意味で、核よりタチの悪い切り札。


 簡潔に封印刑の身だったものの、政治家の気分次第で巻き込まれる辺りは不幸を嘆いて余りある。


「では神威装置も」


「その一環でやしょうな」


 スッとチョコレートを飲む。


 ほろ苦さが心地よい。


「エリスの居場所は誰が把握しています?」


「どうでやしょ?」


「照ノでも分からない事があるんですか?」


「別の万能神でもありゃしやせんし」


 それも事実だ。


「でも名目も無く神威装置が動きますか?」


「ロビー団体の哀しい性でやんすな」


 その結論はどうかと。


「で、どうしやす?」


「御流様を討伐します」


「敵いやすか?」


「さてどうでしょう」


 あらゆる神敵を鏖殺するクリスとはいえ、さすがに土地神と戦った事はないはずだ。


「止めやしやせんけどね」


 実のところ、照ノは嘘を吐いていた。


 クリスとミズチでは相性が悪すぎる。


 照ノとしては、ここで天然ツンデレガスの鉱脈を失う損益が勝る。


 まだまだクリスには相手をして欲しかった。


「アーゲーとでも言っておきやしょ」


 さらりと述べる。


「あなたが役に立たない事は……よ~~~~~~くわかりました」


「理解を得られたのは結構な事でやす」


 クリスの皮肉が痛痒するのなら照ノは胃潰瘍で二、三回は死んでいる。


「それにしてもどういうことでやしょ? コレと知らないエリス嬢でも在りやせんのに」


 チョコレートを飲み干して、ザッハトルテを消化。


 水で口内をフレッシュした後、照ノは宇羅キセルをくわえてタバコに火を点けた。


「しかしクリス嬢の苦労人はまことに愛らしいでやんすなぁ」


 苦笑いにも近い嘲笑は、年齢を感じさせた。


 神代の世代のインテリジェンス。


 ラッセルタイム仮説の産物ではあれど。


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