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炎の魔術師と神の使徒  作者: 揚羽常時
竜の呪(ドラゴンズカース)編
130/148

命短し恋せよ乙女09


 風呂上がり。


 照ノは、夜の冷えた縁側の廊下を歩いていた。


 寝間着姿。


 首にはタオルを引っかけて。


 海が近い故か……比熱も高く避暑にはピッタリの涼やかな夜風を浴びて、短歌の一つも謳ってみたり。


「政府も何を考えているのか……」


「何も考えていないからこうなったのじゃろう」


 通りすがりの一部屋から、そんな会話が聞こえてきた。


 前者は真駒氏。


 後者は玉藻御前だ。


「……………………」


 チーンと鈴の鳴る音……は比喩表現としても、オノマトペとしては限りなく正解に相似するものだった。


「なんの話でやすか」


 スラリと襖を開けて、照ノは乗り込んだ。


「おや」


 意外そうな玉藻。


「ぐ」


 苦手そうな真駒氏。


 殊更に強い立場でも無いのだが、少し無理を利かせて事情を聞かせようとアイトゥアイで駆け引き。


「政府……と聞こえやしたが?」


「エリスの友達には聞かせられない話ですよ」


 掣肘する真駒氏。


「政治的な問題ぞな」


 むしろ玉藻は肯定した。


「御前!」


「此奴なら大丈夫じゃよ」


 何の根拠もなく、御前は言ってのける。


 いや、根拠はある……それもむしろ果てしなく。


 元が天津神故か、悪神であり魔術の世界に於ける定義上モンスターには分類されるも、それは玉藻御前も同じはず。


「しかし……!」


「政府が何か?」


 この場合は日本の、だろう。


「わらわ以上に顔が利く。巻き込んだ方が得じゃな」


 玉藻御前がそう述べた。


「何者ですか?」


「単なる一魔術師ですよ」


 大嘘ぶっこくにも程がある。


 玉藻はカラカラと笑った。


「いやいや、ご謙遜」


 面白くて仕方ないらしい。


「結局何者で?」


「単なる一魔術師じゃの」


 玉藻も繰り返す。


「信用して宜しいので?」


「元より」


 頷く玉藻。


 唖然とする真駒氏。


「最初からそのつもりで?」


 照ノは半眼だった。


 彼にしては珍しい。


 普通なら彼の方が半眼を向けられる立場だ。


 大凡、無理、無茶、無謀、の三姉妹を引き連れる方で、色んなところから……それこそ色んなところからツッコミの嵐を受けるのが常道だ。


 ツッコミ側に回るのは珍しい。


 むしろそれだけの異常事態と云う事だろう。


「それで何か?」


「政治家の意見調整に時間がかかっているという話です」


 真駒氏は、簡潔に述べた。


「ああ、御流様」


「然りですな」


 頷かれる。


「何か問題でも?」


「政府としては魔導災害の認定可否を問われています」


「どんな理由で?」


「人身御供」


 それは、


「エリスでやんすか」


 そう相成る。


「はい。我が娘を、御流様の生け贄に」


「政府が座視しないと?」


「肯定派と否定派がせめぎ合っております」


「そういうことじゃ」


「それで玉藻が」


「然りじゃな」


 カラリと笑われる。


「近日、贄にするのでやしょ?」


「そうすると否定派に口実を与えてしまいます」


 御流様……ミズチ……その否定派は、倫理に則り、犠牲となった人命を尊重して、肯定派を封殺する。


 そういう力学だった。


 肯定派は、ミズチの繁栄によるメリットを好む。


 否定派は、ミズチの供物によるデメリットを好む。


 この状況で、エリスを人身御供にするのは、


「否定派に攻撃の口実を与える事になる……と」


 そんなわけだ。


「それでエリスを使いづらいと?」


「そう相成ります」


「政治面を考えればの」


 真駒氏は深刻に、玉藻は歓楽に、それぞれ述べる。


「にゃるほど」


 照ノも頷きこそしたが、「事の厄介さ」には頭痛を覚えた。


「さて……そうなると」


「相手方は、こちらの動きを待っていますね」


 真駒氏が真摯に述べる。


「ソワカソワカ」


 他に述べようもない。


「で、結局否定派は何をしたいので?」


「税金の問題です」


「税金?」


「都市開発……ですね」


 ――それで神に喧嘩を売るのもどうかと。


 真摯にそう思う照ノであった。


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