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炎の魔術師と神の使徒  作者: 揚羽常時
竜の呪(ドラゴンズカース)編
126/148

命短し恋せよ乙女05


 朝。


「…………」


 照ノが起きたら、隣にエリスの顔があった。


 彼女のはにかむような……からかうような……あるいは照れているような……そんな御尊顔がとっても貴かった。


「おはよ」


「まだ死んでやせんね」


「だぁねぇ」


 サラリと返される。


「朝食できてるって。行こ?」


「でやんすな」


 くあ、と欠伸。


 喪服姿になって、大食堂に顔を出す。


 健康的なメニューが並んでいた。


 卵は取れたてで、牛乳は新鮮……海苔は薫り高く、米はつやつや……総じて真駒家の朝ご飯は美味しかった。


「今日は何するー?」


 アリスはすっかり観光気分。


 気分も何も観光で相違は無いのだが……それにしてもテンションの高めは彼女らしくもあろう。


「また海でしょうか?」


 ツンデレコマンダーは、首を傾げていた。


「わらわはパスじゃ」


 玉藻御前は、ヒラリと手を振った。


「エリスさんはー?」


「泳ぐなら付き合いますよ」


 泳げはしないのだが。


 ここでも少しだけ……照ノには夜の幕間での時間が想起され、顔を苦虫な……と呼べる様に変質せしめた。


「スイカジュースが美味しかったなー」


「また準備させましょう」


「アルト公は?」


「僕も、楽しいなら何でも」


「ジル嬢は?」


「サンサンの太陽の下で、海水浴なんかしたら死ぬし」


 輸血パックをチューと飲んでいた。


 ヴァンパイアに焼けるような太陽は……本気でシャレになっていない。


 こちらはこちらで業の深いらしいにて。


「さいでやすか」


 照ノは謝りはしなかった。


 求められていないのは、わかりきっているので。


「お兄ちゃんはー?」


「クリス嬢の水着姿は見たいでやんすが」


「――――――――」


 ジャキッと仮想聖釘。


 朝食を終えて、茶の時間。


「此処で不用意に攻撃なすな」


 照ノの正論は、正論らしく正しいものの、クリスには時折、通じない。


「腰が細いのでいいのでは」


 くびれはある。


 パイオツがないだけで。


「殺す」


「ダメだよクリスさんー」


 アリスも止める。


「そも照ノには利かんじゃろ」


 玉藻御前は笑った。


「痛いは痛いんでやすがねぇ……」


 死なないなら、どんな扱いを受けても良い。


 そんな境地には至らない。


 それは地獄の再現だ。


「小生は、まぁ何とかやりやすよ」


「別行動で?」


「へぇ」


 グイと茶を飲んだ後、


「ふむ」


 キセルをくわえ、タバコに火を点ける。


 紫煙を吸って吐いた。


 喫煙特有の穏やかな気持ちと相成る。


「ちなみに何するのー?」


「観光でやすな」


 サラリと答える。


 殊に、明示する必要も無い。


 それもまた事実。


「照ノ。お主……」


「何でやしょ?」


「分かっているのか?」


「さて」


 多分、掴んでいる情報は、総量だけで言えば玉藻御前の方が多い。


「玉藻も似た意見で?」


「じゃの」


 くっくと御前が笑った。


 ススキのように九尾が揺れる。


「そこの大災害二人は何を考えています?」


 クリスの瞳が鋭くなる。


「異国人には関係ないの」


 御前はいっそ清々しかった。


「照ノも同意見で?」


「大局的に申さば」


 政治的に、高度に配慮した返答だった。


「ツンデレにおかれましては御心安んじられやす様」


「ツンデレじゃ在りません!」


 仮想聖釘。


 ヒョイ。


 何時もの光景。


「水着万歳」と書かれた扇子を広げて扇ぐ。


 フーッと、吸った煙を体外に吐き出した。


「神様なんか信じてないんだからね! か、勘違いしないでよ! ……でやんしょ?」


「信じています!」


 仮想聖釘。


 ヒョイ。


「で、まぁ」


「話を流そうとするな!」


「海で遊んでやっせ」


 照ノは、キセルをくわえてタバコを味わった。


「マッチに困らないねー」


「まこと人の世は良く出来ていやして」


 アリスの感想に、胡散臭い言葉で返す火の一現を持ちし魔術師の妙だ。


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