家出少女
「え……なに?」
「探して欲しいのです。」
「何を?」
俺がそう聞くと、グリードは気まずそうに目を逸らしてから、
「……妹です。」
と言った。
「妹?」
「はい、妹です。」
「家出でもしたのか?」
「家出……といわれれば家出かもしれません。」
「ふぅん。……で?特徴とかは?」
「え?」
「だから特徴だよ。」
「特徴?」
「そう、特徴。特徴分かんなきゃ探しようないだろ。」
グリードは一瞬言っている意味がわからない、というような顔をした。しかし、意味が分かると面を食らったような表情で、
「え?探してくれるのですか?!」
と、驚きの声を上げた。
「自分で言っといて、何言ってんだよ。」
「いや……、探してくれるとは思わなくて……。」
「なんで?」
「いや、なんと、なく……です。」
まあ、本当なら断りたいとこだが、
「なんかお前あずさに似てるからなぁ……。」
「え?!」
「あ、口に出てた?」
「思いっきり。」
「まあいいんだけど。なんかほんとにお前あずさに似てるんだよ。」
と、言いながら俺はグリードの頭を撫でた。
グリードは嫌そうに俺の手を払いながら、
「どこら辺が似てるんですか?」
と、聞いてきた。
「どこらへん……っていわれてもなぁ。あぁ、泣くときに膝抱えるとことか、似てる。そういえばあいつも洋菓子店やりたいって言ってたなぁ……。」
「あずささんも?」
「うん。あずさはさ、花言葉が好きだったんだよ。だからお客さんに出す紅茶にはそのお客さんにあった花言葉をプレゼントするってはしゃいでたよ、昔。」
そう言ってあずさの話をしているうちに、また俺は泣きそうになった。
一度泣くと吹っ切れるもんなんだな。
俺の目が少し涙目になっているのに気づいたのか、グリードが慌てて話を変えた。
「そそそそういえば!私ここで働いてるのにもちゃんと理由があるのですよ!」
「へぇ。なに?」
「契約をしたのです。」
と、自信満々にグリードは言った。
おいおいおい。契約って危ない契約じゃないよな。なんて俺は思ったけど、よくよく考えたらこいつの性格でそういうのはなさそうだ。
「契約って?どういう契約をしたんだ?」
「ここで働く代わりに、情報を提供してもらうのですよ。」
「妹のか?」
「そうです。」
「ってか、妹はいつからいないんだ?」
「……4年前です。」
「4年前!?」
4年も家出というのは、いかがなものか。というか、4年も家出するってあるいみすごいな。感心感心。
「感心しないでくださいね?」
「だから、お前エスパーか。」
こつんと俺はグリードの頭を叩いた。
「あ、そういえば。」
「なんですか?」
「だから、妹の特徴。まだ聞いてねえよ。」
「忘れてました!」
おい。
「えっとですね……身長は私よりも10センチくらい低いから……150センチ?くらいです。それで、人間もどきなので髪は白髪で赤目。いつも……なんて言うんでしたっけ?ゴスロリ?みたいな服着てました。あと、黒いうさ耳のついたフードを被ってました……。」
と、そこで俺はおかしいことに気がつく。その間もグリードは「それから……。」と、続けようとしているが、俺はそれを遮りね
「それって……お前の特徴じゃね?」
一瞬間が空いてから、
「ああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!。」
カラスの鳴き声しか聞こえなかった深い森の中にグリードの声が響き渡った。
「それってわざとでやってんの?」
「えっ……。」
「妹の特徴忘れたとか?」
「ま、まさかぁ……。そんな訳ないのですよ。」
「じゃあ妹の特徴は?」
「……。」
「姉貴、失格だな。」
「ちっ、違いますよ!言えないのではなくて、言いたくないだけです!」
「なんで言いたくないんだよ。」
「いやっ、その……ちょっと、事情、というものがありまして。」
「じゃあ探すの手伝わねーわ。」
「なんでですか?!」
「いや、なんでって言われても……。探しようがないし。」
「今は言えませんが、もう少し時間が経てば言えます!」
「あっそ。」
「……探して、いただけますか?」
不安そうにグリードが上目遣い見てきた。
くっそ、あざとい……!
「手伝うよ。元々断るつもりもなかったしな。」
たちまち不安そうだったグリードの表情が笑顔へと変わり、
「本当ですか?本当ですね?手伝ってくれるんですね?」
「だから、手伝うって。うるさいなぁ。」
未だにグリードはニヤニヤと笑っていた。
軽く不気味だぞ、お前。
「でも、俺あまり力になれないかもだぞ?」
「別にいいのですよ!時雨がそばにいてくれたら。」
ん?こいつ今とんでもないこと言ってないか?
それとも俺の聞き間違い?
「お前……いま、なんて言った?」
「え?別にいいのですよーって言いましたけど?」
「いや!その後だよ!」
「えーっと……時雨が、そばにいてくれたらって。」
「!!!おっおま!なに真顔でそんなこと言ってんだよ!」
「え?」
一瞬きょとんとしたグリードの顔が、みるみる怪しいものに変わっていき、
「もしかして……時雨、照れてます?」
「て!照れてねえよ!」
「えぇー、絶対照れてますよ。でも、残念でしたね時雨!」
「……何がだよ。」
「さっきの言葉は、同じ人間もどきどうしいろいろ話がしたい、って意味なのですよ。」
「え?」
「だから、時雨が人間もどきじゃなかったらあんなことは言いません。」
「……っ!!っもうほんとなんなんだよぉ……。あー、心臓1時間は縮んだわ。」
俺はその場にヘタリ込み、頭を乱暴に掻いた。
さっきと同じ怪しい表情でグリードは、
「勘違いするなんて恥ずかしい人ですね……。」
と言いながら笑っている。
それから何かを思い出したように「あっ!」といい、俺に向かって
「時雨!この店で働く気はありませんか?」
「働くぅ?!」
「はい!この店に来るのは死人だけですし……。従業員はほかにも雇っているんですが、人間もどきではないのでホールの方には出せないんです。」
「働くのは……、まあいいけど。でもなんで人間もどきじゃないとホールに出せないんだ?……、あぁ。普通の人間に死人の接客なんてできないか。
「んー、それもあるんですが……。」
「ほかにも何かあるのか?」
「えぇ、まあ……、あ!」
突然グリードが慌てたようにカップを持ち、俺を店の奥の方へと追いやった。
「大変です!お客様が近づいてきてます!」
「え?なに、わかるの?」
「あぁ、もういいですから!奥に入っててください。」
「わかったけど……。」
「そうだ!じゃあ、ちょうどいい機会です。接客してみましょう。」
「いきなり?!」
「そうです。私が呼んだらさっきの場所に来てください。」
「えぇ……うん。」
「それと、とにかくお客様を怖がらせてください!」
「なんで?!」
「そういう決まりなのです!いいですか?ここではお客様には、殺され方を選んでもらうんです。」
「だからなんで?!」
「いいから言うことに従ってください。ミジンコ以下の脳を持ったあなたにもわかるように説明してあげる暇はないのです。」
「……はい。」
「ここではですね、お客様に恐怖を与えるために私たちが殺すようになっているんです。あっ、でも本当に殺すわけじゃないですよ?未遂です。未遂。とりあえず、お客様が希望した殺し方に使う道具を私のところへ持ってきてください。それと、お客様が逃げないように扉に鍵をかけてくださいね。」
「例えば、絞殺だったらロープ……とか?」
「そうです、そうです、よくわかりましたねー、時雨のくせに。」
すごく今馬鹿にされたような気がするぞ。
「とりあえず、時雨のやることは三つです。わかりましたか?」
「……とにかく客を怖がらせること、それから、希望した殺し方に使う道具をお前に渡すこと……あとは、扉に鍵をかけること。」
「はい!完璧です!それではいいですね?できますね。」
「わかった。」
「あ、あと殺すのは時雨がやってください!」
「え?!なんで俺が!」
「何事も経験です!……あぁ、お客様来てしまいました!」
さっきまで俺たちがいた方からカランッという扉の開く音と、何かが動くような気配がした。
「ではわたしはもう行きますから!頼みましたよ?」
「はいよー。」
俺はそう返事をし、グリードがホールに出ていくの見送った。