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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

老人に聞きし古代の記憶、その覚書

作者: ホワン

処女作です

中国大陸の南方の地、桂林。古より越族達の生きる土地であった。

その付近の深い山々は猿の群れの住処となっていた。

唐の玄宗の時代、その地に白猿が生まれた。体は雪の様に白く、他の猿とは明らかにその姿を異としていた。この世のものとは思えぬほどに美しく生まれたこの猿を母猿はたいそう可愛がった。しかし群れの長はこの猿を凶事の予兆として崖から捨て去ろうとした。母猿の懇願により命のみは助けられたが、白猿は群れより追放さるる事となった。母猿は痛嘆し後に崖から身を投げ、死んだ。ただ一匹となった白猿は山に巣食う野獣に追われた。越山する事三十夜、白猿はその身の孤を嘆き猛り狂猿となった。その目は朱色を映し、また先鋭なる爪と歯を得た。

そして狂猿は獣を襲いその血肉を喰らった。白い毛は赤黒く染まった。その酷薄なる容貌にはもはやかつての荘厳さはなかった。

狂猿は己の来た道を辿り、元の山に戻ってきた。狂猿は群れの猿を見るやいなや、その喉元を切り裂き次々と殺していった。群れの猿は全て死んだ。唯1匹の小猿を残して。何の変哲もない小猿だった。狂猿は殺せなかった。喉元へ向かうその爪ははたと止まりこちらを見つめるその瞳を眺めるのみとなったのだ。

狂猿はその山を去った。夜半に別の群れの猿を捕え肉を貪っているとき、小猿に対する心痛の念が沸き上がった。狂猿は木の実をとり翌朝、小猿の巣に戻った。小猿は嬉々としてそれを受け取り食べ始めた。置いていくのも気掛かりとなり、狂猿は小猿を連れ別の山へと向かった。


狂猿は適当な山を見つけると巣を作り、小猿の寝床にした。狂猿は木の実を取りに奔走するうち、獣を捕えることを忘れていった。やがて、自らも木の実を食すようになり赤黒く染まった毛は元の流麗なる白に戻っていった。

小猿は白猿によく懐いた。親を殺したのはその猿だというのに。白猿は時に、猛烈なる自責の念に駆られた。贖罪だった。せめて餌に不自由することはないように、と白猿は自らの培った餌のとり方を教え、親の代わりとなるよう努めた。

 新しい山に生き始め、数ヶ月が経った。小猿は冒険心から、周辺の山々まで行くようになった。自らの生まれ育った山にまで。猿達の骸を見た。子猿は思い出し始めていた。あの日のことを。狂猿が暴れまわったあの悪夢のことを。ある日のこと、白猿が木の実を持ち巣に戻ると突然、小猿がとびかかってきた。手加減しているものではなかった。かつての狂猿のように、喉に向かって爪を向けてきた。白猿はそれを運命とし殺されようとした。しかし、白猿は咄嗟に小猿の喉を自らの爪で切り裂いた。そして自らも意識せぬうち、その肉を喰らっていた。白猿は再び、狂猿となった。小猿の上に、白猿の摘んだ木の実が落ちた。


しかし白猿は意識を取り戻す。後に残っていたものは、小猿の惨たらしい遺骸のみであった。

その日より白猿は越山を何度も重ねた。きずいた時には遥か遠く、三峡にまで至っていた。力尽きた白猿は叫んだ。今までの悲運を。喉の潰れるほどに。その慟哭は広く悲しげに響きわたった。

そしてそれは時の天才詩人の耳に入ることとなった。李白。悲運の晩年を過ごしていたこの男にこの慟哭は染み渡った。男は後に筆を執る。

狂猿は図らずも歴史にその足跡を残すことになった。偉大なる詩人と、偉大なる詩によって。

これはその一節である。



両岸猿声啼不住


『早発白帝城』  後世に伝えられる名詩である。


少し書き直しました


こ、こじつけっていうなーーー!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文体や舞台背景は、中国文学や中島敦さん作品の雰囲気がありますね。 けれど、物語は日本文学らしさも感じました。罪のない哀、というか。 [一言] 偉そうに書きましたが、中国文学も中島敦さん作…
2012/08/14 23:57 退会済み
管理
[良い点] 中島敦に影響された文体とのことですが、 最後までこの文体で破綻を来さずに物語を成立させている点に敬服しました。 「人虎伝」と「オイディプス王」の融合といった印象を受けるストーリーですが、…
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