対決三.
林田未結の両親は、マシンクラスにとって非常に優秀な科学者だった。マシンクラスの構成員は、メンテナンスも必要とするが、その性能を最大限に引き出すためには、彼らの能力を向上させる研究開発を行う科学者が不可欠だった。しかし、マシンクラスの構成員自身には、高度な研究開発を行うための能力が欠けている。彼らには、新しいものを創造するための想像力が決定的に不足していたのだ。そのため、マシンクラスの上層部は、優秀な科学者をできるだけ手元に置き、彼らを自由自在に利用しようとする。つまり、林田未結は、両親を人質に取られているのだった。
「青島孝から、四石を奪ってこい。そうすれば、お前の罪を軽減してやる」
三宅副支部長は、いつものように、感情の起伏を感じさせない、抑揚のない口調でそう言った。
林田未結は、悔しさを押し殺し、軽く頷くと、青島孝がいる方向へ歩き始めた。
(やはり、マシンクラスには勝てない…。青島孝は、妙な技を使うことができる。一体、どうすれば…)
様々な考えが頭の中を駆け巡る中、彼女は突然、全身の筋肉を爆発させ、全速力で駆け出した。青島孝が、あの奇妙な技を使う前に、一気に倒してしまおうと考えたからだ。
彼女の動きは、常人であれば、反応する間もなく打ち倒されていたであろうスピードとパワーを兼ね備えている。しかし、今の青島孝には、その攻撃は通用しなかった。力石のパワーを得た彼は、スピード、パワー、そして反射神経のすべてにおいて、林田未結を圧倒していたのだ。彼女の繰り出す攻撃をすべて紙一重でかわし、逆に、研ぎ澄まされた刃のような蹴りを彼女の後頭部に叩き込んだ。
「ぐはっ…!」
林田未結は、悲鳴を上げる間もなく、地面に叩きつけられた。全身に激痛が走り、意識が遠のいていく。
ダウンした彼女を、青島孝が無言で見下ろしていると、三宅副支部長がゆっくりと近づいてきた。その表情には、驚きと、僅かながら賞賛の色が浮かんでいた。
「…強化人間を一撃で倒すとは…。やはり、四石の能力を完全に身につけた、ということか…」
それは、青島孝に語りかけるような言葉だったが、同時に、独り言のようにも聞こえた。