タイムリーパー
小屋の中は、外の厳冬とは対照的に、暖炉の火が優しく揺らめき、穏やかな空気が流れていた。よく見ると、小屋はまだ真新しく、木材の香りが漂う。ログハウス風のしっかりとした造りで、暖炉の他にも、簡素なテーブルと椅子、そして最低限の生活用品が置かれている。
関森リコは、近くにあった二脚の椅子を指し示し、青島孝に腰掛けるように勧めた。
青島孝が片方の椅子に腰を下ろすと、彼女も向かいの椅子に腰を下ろし、ゆらめく炎を見つめながら、静かに語り始めた。
「ここは、まだ誰も住んでいないの。明日、私の父と母が引っ越してくる予定なの」
「お父さんとお母さん…?」
青島孝は、彼女の言葉の意味を測りかね、思わず聞き返した。
「ええ。私が生まれる、約一年前のことよ」
関森リコは、どこか懐かしむような表情で微笑んだ。
「なるほど…」
青島孝は、ようやく状況を理解し始めた。
「それで、話の本題は?」
彼は、核心に触れようと、彼女の目を見つめた。
「あなたがいるこの時代は、アークがいよいよその力を全世界に及ぼし始めた時代。そして、あなたが四石を集めている時代でもあるわね」
関森リコの言葉に、青島孝の表情がわずかに険しくなった。
「…じゃあ、四石を守っているのは、君なのか」
「そう。私は、そのうちの一つ、『力石』を守っているの」
彼女は、静かに頷いた。
「力石か… で、その話をするということは、その石を渡してくれるということか?」
青島孝の声には、かすかな期待が込められていた。
「すぐに、というわけにはいかないし、残念ながら、今ここに持っているわけでもないの」
関森リコは、申し訳なさそうに首を振った。
「そうか…」
青島孝の表情に、失望の色が広がった。
「じゃあ、何か渡すための条件があるんだね」
彼は、覚悟を決めたように、彼女を見つめた。
「ええ、もちろん」
関森リコは、真剣な表情で頷いた。
「それは、どんな条件?」
「まず、あなたがなぜ四石を集めているのか、聞かせてほしいの」
彼女の言葉に、青島孝はしばらくの間、俯いて黙り込んだ。様々な感情が彼の胸を去来しているようだった。そして、彼はゆっくりと顔を上げ、暖炉の炎をじっと見つめてから、関森リコの方に向き直り、静かに語り始めた。
「始めは、ただの好奇心からだった。石に秘められた力に、純粋に興味があったんだ。だけど、今は違う」
「今は、どうして集めているの?」
関森リコが優しく問いかけると、青島孝は少し間を置いてから、重い口を開いた。
「…なんとかして、アークに対抗できないかと考えている」
「対抗できそう? 勝算はあるの?」
関森リコの言葉に、青島孝は苦笑いを浮かべた。
「…正直、難しいだろうと思っている。敵は、一人じゃないから」
「そう。でも、難しいだろうというだけで、不可能だと言っているわけではないのね?」
関森リコは、彼の言葉の真意を確かめるように、静かに問いかけた。
「…ああ。そうだ」
青島孝は、力強く頷いた。
「最後に、一つだけ訊きたいことがある」
彼は、意を決したように、彼女を見つめた。
「何?」
「君は、タイムリープして、未来を見ていないのか?」
関森リコの瞳が、一瞬揺らいだ。
「未来は、一つじゃないの。今、この瞬間にも、次の瞬間にも未来が生まれている。私がタイムリープして見た未来も、その一つに過ぎない」
「…つまり、未来は確定していない、と?」
青島孝は、彼女の言葉を噛みしめるように繰り返した。
「じゃあ、過去を変えて、アークを出現させなければいい」
「過去が変わると、未来が変わる。だから、元いた所には帰れない。関森由紀さんと、あなたは知らない人同士になってしまうかも」
関森リコの言葉に、青島孝は再び黙り込んだ。様々な情報が彼の頭の中で渦巻き、彼は深く考え込んだ