北の大地五.
厳冬の北海道。青島孝は、第四の石を求めて歩き始めてから数時間が経過し、時刻は昼過ぎになろうとしていた。気温は相変わらず氷点下20℃近くまで下がり、彼の吐く息は白い霧となって消えていく。青島孝は、石の気配がこの近くにあることを確信し、行動範囲を徐々に狭めていった。それは、ホテルを出る前に、関森由紀とテレパシー交信して感じ取った場所と一致していた。
一方、林田未結は、青島孝が行動範囲を狭めていることを察知し、いよいよその時が来ると、固唾を呑んで遠くから見守っていた。
青島孝が小高い丘の向こう側へと姿を消したため、彼女も慎重に移動し、その先に続く狭い雪原が見える場所まで来た。さらに奥には森が広がっており、青島孝はまだ森の中には入っていないはずである。しかし、彼は忽然と姿を消していた。
(…どこへ消えた…?)
林田未結は、目を凝らして周囲を見回したが、そこにあるのは一面の雪景色だけだった。雪は朝から降り続いており、視界は決して良好とは言えない。それでも、森の方まで見渡せる。しかし、まるで何かにかき消されたように、青島孝の姿は消えてしまったのだ。
(一体、何が…?)
林田未結が困惑していた、その少し前。青島孝は、突然現れた女性に腕を掴まれたかと思うと、次の瞬間、周囲の景色が変わり、空が信じられないほど晴れ渡っていることに気づき、驚愕していた。
「驚かせてしまって、ごめんなさい。私の名は関森リコ。あなたは、青島孝さんですね。この世界の方が、安全に話ができると思い、あなたをお連れしました」
関森リコと名乗る女性は、落ち着いた口調で話しかけた。
「この世界…?」
青島孝は、状況を理解できず、戸惑いながら周囲を見回した。
「はい。ここは、あなたが先ほどまでいた世界から、30年前に遡った世界です。すぐに信じるのは難しいと思いますが、街に出れば、車や電化製品など、あらゆるものが違うことに気づくはずです」
関森リコの言葉に、青島孝はさらに混乱した。タイムリープしたのか?
「それが本当なら、あなたには時間を超える能力が… つまり、タイムリーパーだと…?」
「はい。その森の中に、小さな小屋があります。外は寒すぎますので、まずはそこへ移動して、話をさせてください」
関森リコはそう言うと、青島孝の返事を待たずに、森の方へと歩き出した。