北の大地四.
ドアがノックされた。
「…!」
関森由紀は、心臓が跳ね上がるほど驚き、思わず身構えた。以前の彼女であれば、ドアの向こうに立っている人物の思考を読み取り、相手が誰なのか、何をしようとしているのかを瞬時に把握できたはずだった。しかし今は、それができない。
(一体、誰なの…? まさか、ずっと私たちを追ってきた、あの人たち…? それとも、アークの連中…? ここには、もうどこにも逃げ場がない…!)
彼女の脳裏に、最悪のシナリオが次々と浮かび上がる。その時だった。
(…心配するな)
突然、彼女の頭の中に、直接語りかけてくる声が響いた。
「…!?」
関森由紀は驚き、慌てて周囲を見回したが、部屋の中に人影はない。
(ドアの向こうにいる者だ。直接、脳にコンタクトしている)
声は、再び彼女の頭の中で響いた。
(…テレパシー…? 私も以前は使えていたのに、今はもう…)
関森由紀が心の中で呟くと、声はすぐに答えた。
(なるほど、テレパシーが使えないのか。悪いが、君の心の中を読ませてもらった。私は警察のものだ。ドアを開けてもらいたい。君一人でここにいるのは危険すぎる。私のことは、君も知っている)
関森由紀は、激しく心を揺さぶられた。一人で青島孝を待つことへの不安と心細さ。しかし、青島孝からは、何があっても部屋に誰も入れてはいけないと、固く言い渡されていた。
「…」
再び、ドアがノックされた音に、彼女はハッとした。次の瞬間、またしても声が直接脳内に響き渡る。
(誰も入れてはいけないという約束を守ろうとするのはよく分かる。しかし、状況が状況だ。君を保護するため、強制的にドアを開けるしかない)
そして、信じられないことが起こった。関森由紀の意志とは無関係に、彼女の右手が勝手に動き出し、ドアのロックを解除しようとしたのだ。
「…!?」
(私が君の右手を動かしている。落ち着くんだ。パニックを起こさないようにしてくれ)
声は、冷静に告げた。