ロンドンニ.
ドアを開くと、そこは想像していたよりもはるかに広い部屋だった。しかし、部屋の奥には巨大な蒸気機関が設置されており、その存在が部屋の奥行きを遮っていた。
ジョージは、突然現れた侵入者に驚きの表情を浮かべた。明らかに白人ではない。肌の色が違う。これが、噂に聞く東洋人というものだろうか。
部屋に足を踏み入れたのは、二人の男。そのうちの一人の右手には、奇妙な黒い物体が握られている。どうやら、武器のようだ。拳銃に似ているが、形状が少し違う。
武器を持った男が、訛りの強い英語で話しかけてきた。
「両手を挙げろ」
ジョージが戸惑って立ち尽くしていると、男はさらに言葉を重ねた。
「これは、お前たちの時代には存在しないものかもしれないが、拳銃だ」
そう言うと、男は武器の狙いを、ジョージの背後にある蒸気機関に向けた。
ジョージは慌てて両手を挙げた。弾丸が蒸気機関に当たっても、大きな損傷はないだろう。しかし、完成間近の蒸気機関に、傷一つつけたくはなかった。
「この時代だとか言ったが、あんた達は一体何者なんだ?」
ジョージは、恐る恐る尋ねた。
「俺たちは、未来から来た」
神山淳が、銃口を蒸気機関に向けたまま答えた。
「未来だと? まさか、頭がおかしいのか?」
ジョージは、彼の言葉を信じようとしなかった。
「信じられないなら、もう一つ、お前たちの時代にはないものを見せてやる」
そう言うと、神山淳は自分の腕時計を素早く外した。そして、近くにあったテーブルの上に置いた。
「こっちへゆっくり近づいて、今、俺が外した物を見てみろ」
言われた通り、ジョージはゆっくりとテーブルに近づき、その上に置かれた物体を見た。
「これは…」
彼は、驚きのあまり、言葉を失った。
「時を刻んでいる…! なんて精巧な作りなんだ…!」
「これは、お前たちの時代にはない、腕時計だ」
神山淳は、淡々と説明した。
産業革命の時代は、次々と新しい発明が生まれた時代だった。しかし、当時の発明家たちは、必ずしも世間に歓迎されたわけではない。不遇な日々を送り、生涯を終える者も少なくなかった。それでも、発明に情熱を燃やすジョージは、自分を科学者の端くれだと自負していた。
「一体、私に何の用があるのか、聞かせてくれ」
ジョージは、腕時計から目を離さずに尋ねた。
「君の研究を、止めてほしい」
「どうして止めないといけないのか?」
「研究が、未来に不幸をもたらすからだ」
神山淳の言葉に、ジョージはまるで頭を殴られたかのような衝撃を受けた。自分の研究が、未来に不幸をもたらすというのか?ジョージは打ちのめされたように呟いた。
「そんなこと… 信じられるものか…」
「では私たちと来てもらいましょう」
「嫌だと言っても、無駄なようだな…」