ロンドン一.
ロンドン郊外。のどかな田園風景が広がっている。木々に囲まれるようにして建つ、一軒の屋敷。
夜9時を過ぎた頃、二人の男が屋敷の裏手を静かに歩いていた。そのうちの一人がふと上を見上げると、突然跳躍した。彼の身体は信じられないほどの跳躍力で二階の窓枠に到達し、彼は開いていた窓から屋敷の中へと侵入した。
時はすでに夏。
(時間がかかりすぎたが、ようやくここまで辿り着けた。産業革命の初期が原因だと思っていたが、まさか後半だったとは…)
青島孝は、屋敷の中を慎重に進みながら、耳を澄ませた。常人には聞こえないほどの微かな物音を捉え、屋敷の中に潜む気配を探る。
侵入した部屋は寝室だった。青島孝は静かにドアを開け、物音が聞こえる階下へと向かう。
階段を降りたすぐ先に玄関があった。周囲に人影はない。青島孝は慎重に玄関へと移動し、音を立てないように閂を外して静かにドアを開けた。その時、彼の目の前に、もう一人の男が現れた。共に潜入した、神山淳だ。
青島孝は神山淳を招き入れると、屋敷の奥へと進んだ。
玄関からまっすぐ伸びる廊下を進み、突き当りを右に折れる。その先に目的の部屋がある。
目の前にあるのは、閉ざされたドア。その向こうから、人の気配が伝わってくる。明らかに、誰かがいる。後ろからついてきた神山淳が、青島孝と入れ替わるようにしてドアの前に立った。彼が手にしていたのは、この時代には存在しないはずの拳銃。それも、現代においても滅多にお目にかかれない、特殊な銃だ。
アメリカでの生活が長い神山淳は、銃社会であるアメリカで、様々なルートを通じて銃を入手していた。
彼が手にしているのは、小型ながらも高性能なセミオートマチック拳銃。銃口を上に向け、左手でドアノブを握りしめると、彼は躊躇なくドアを勢いよく開け放った。すでに、部屋の中にいるのは一人だけだと感覚で捉えていた彼は、迷うことなく、その人物へと銃口を向けた。




