北の大地
新しい年を迎えてから十七日が過ぎようとしていた。
人口密度の高い都市部から、人々は過疎地へと疎開を余儀なくされ、かつて賑わいを見せていた大都市の中心部は、まるでゴーストタウンのように閑散としていた。経済活動は壊滅的な打撃を受け、人々の生活は困窮と混乱の連続だった。
都市が生み出す様々な物資やサービスは完全に機能停止に陥り、物流網も麻痺状態に陥っていた。
半島の入り口に建つそのホテルは、かつては観光シーズンになると予約が取りにくいほどの人気を誇る、典型的な観光地型のホテルだった。
しかし今は、オフシーズンというだけでなく、アークによる人間の「間引き」の影響で客足が極端に減り、ホテルを運営するために必要な最低限の数の従業員しか残っていない。物資の調達も困難になり、ホテルにとって生命線であるリネンサービスの業者も間もなく休業するという状況で、ホテルも休業せざるを得ない状況が目前に迫っていた。
アークによる人間の「間引き」は、社会全体を蝕み、人々の生活を根底から破壊していた。
ホテルの客室には、青島孝と関森由紀の二人がいた。
「いよいよ、最後の石を手に入れる時が来た。これからは一人で行く。お前はここで待っていてくれ」
青島孝の表情は、いつになく険しかった。
「一人で行くなんて、だめよ。私も一緒に行かないと、目標にたどり着けないかもしれないわ」
関森由紀は、不安そうな表情で訴えた。
「この極寒の地を、お前が歩いて行けるはずがない。それに、最後の石があるおおよその場所は、もう特定できている」
青島孝の声は、普段よりも冷たく、厳しいものだった。
「それは、あくまで現段階での目標地点でしょ? 場所が変わる可能性だってあるわ」
関森由紀は、食い下がった。
「確かに、その可能性も否定できない。だが、お前を連れて行くわけにはいかない。この寒さは、お前の体力を容赦なく奪い、俺の足手まといになるだけだ。はっきり言うと、お前は俺にとって、重荷になる」
青島孝の言葉は、あまりにも率直で、関森由紀は深く傷つき、悲しげに俯いた。足手まとい。返す言葉が見つからなかった。
「それに、テレパシーによる交信で、石が発する特殊なエネルギーを、なんとなく特定できるようになってきた。まだ未熟な段階だが、一人でもなんとか辿り着けるはずだ」
青島孝は、少し語気を和らげ、関森由紀に説明した。