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見届ける者

作者: 風矢

 私は一体いつからここにいたんだっただろうか。


 ほんの数秒前だったか。


 それとも、もう何年も前なのか。


 ただわかることと言えば、


 ここには日の光さえ届かない。




 絶え間なく誰かがここを通り過ぎる。


 彼らは皆、同じような格好をしているような気がする。


 私もまた、彼らと同じような格好をし、


 そして同じようなことをしていたのだろうか。


 彼らの表情は様々だ。


 仲間達と共に何ともいえない笑顔をさせた者。


 恐怖に満ちた、しかし決意にも満ちた顔をさせた者。


 あるいは悲しみに暮れた顔をした者。


 だが、どの表情にも共通するものがあった。


 これから何かに挑むという緊張感。


 それが何なのかは私にはわからない。


 彼らが私の傍を通る時、


 必ず私の方を振り返り、何事かを呟く。


 私は彼らから見ると余程異端なのだろうか。


 私はいつからか、彼らを見るのが楽しみにすらなっていた。


 ここに来る者は緊張感が漂っているが、


 ここから帰っていく者は一様に安堵感や達成感を纏わせている。


 そんな者達を見ると、思わず顔が緩む感覚を覚えるのだ。


 しかし、帰っていく者は、


 ここに来る者の数よりもずっと少なかった。


 この奥には一体何があるというのだろう。


 私はそれを、かつて知っていた・・・?


 奥に進んでみれば、


 それを見れば思い出せるだろうか。


 それが出来れば苦労はない。


 私の身体は、もう動くことはないのだ。


 諦めにも似た感覚の中、


 私はただここに来る者、ここから帰っていく者達を見続ける。


 私にもこの者達のような身体が残っていればよかったのに。


 ある時、ここから帰っていく者達の中で奇妙な顔をした者がいた。


 他の仲間達が安堵感や達成感に満ちた顔をしている中、


 その者だけは、緊張感が増していた。


 その者達が私がいる付近に来た頃、異変は起こった。


 最後尾にいたと思われる者が一人、


 静かに地に伏せたのだ。


 前を歩く者達はそれに気づくこともなく歩き続ける。


 二人目が倒れた時にようやく異変に気づき、


 三人目が倒れた頃にやっと行動を起こした。


 四人目が倒れた後、


 立っていたのは一人だけだった。


 それは、先ほど緊張感が増していた者だった。


 その者は先ほどまで仲間だった者の荷物を漁り始める。


 他の四人はもう動くことはなかった。


 私と同じように。


 同じ・・・?


 いや、同じではない。


 私は動くことが出来る。


 これまで全く動かすことが出来なかった腕が、脚が、


 考えられないほど軽く感じた。


 五人目が倒れた時、


 私が立っていた。


 何が起こったのかよくわからない。


 私の手には短刀が握られており、


 それを握る私の手は信じがたいほどに細く、そして白かった。


 短刀からは血が滴っていたが、


 そんなものは気にならない。


 私は、やっと彼らの身体を手に入れたのだ。


 だが、やっと手に入れたはずの五つの身体は動こうとしない。


 どういうことだ?


 先ほどまで全く苦も見せずに自由に動いていたではないか。


 まあいい。


 次の彼らに期待するとしよう。


 私は元いた場所にうずくまるようにして、彼らを待った。


 そして、緊張感を含んだ声が向こうから届いてくる。


 その声を、


 その自由に動く身体を、


 お前達の命を寄越せ───!


END

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