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time8.マリアの秘密

歩いて五分のファミレスに望美は案内した。クリスマスイブにマリアと来た所だ。残念ながらツリーはもう無い。


「我々は食事をとらせてもらっても構わないだろうか。何も食べていないので」

 

メニューを見ながらケイが言った。望美はどうぞと言って自分はコーヒーを頼む。


「あたしこのヘルシーな奴にしよっと!」

 

アイがケンの隣でメニューを指さしている。望美は二人と向かい合うように座らされていた。

四時半という中途半端な時間では、自分達の他に客がぽつぽつといるだけだった。

 

店員に注文をし終えると、二人は改まって望美と向かい合った。


「自己紹介が遅れました。俺はケイ、でこちらが部下のアイだ」


「どうも」

 

ショートカットのずれたアイが素っ気なく返事をする。望美は二人を見比べてどういう上下関係なのかと疑った。


「貴方の名前は?」


「……小中望美よ」


「小中さん、率直に言いましょう。我々は未来から来ました」


「は?」

 

お水を飲もうと伸ばした手が止まる。


「今から、約150年先の未来からこちらに来たのです。目的は1036の捕獲」

 

1036?未来から来た?何を真剣に言っているの?


「つまり黒髪の少女……貴方がマリアと呼んでいる子を捕獲しに来たのです」

 

捕獲?マリアを?


「……どうしてよ」


「あの子は、我々の世界で言う、スパイ兵器なのです」


スパイ兵器?マリアが?

望美はケイの話がちゃんちゃら可笑しくなって笑った。


「笑うなんて失礼ね!」

 

アイが怒りを露にして机を叩く。ケイが仕方ないだろうとアイを制した。


「まあ信じないのも無理はない。突然怪しい二人組が来て、未来から来たと言う。貴方からしたら、頭のおかしな連中だ」


「そうね。まるでSF映画だわ」


「今はそう思ってくれて構わない。これは作り話だと思って聞いてくれ」ケイが目の前の水を手にした。「今、我々の世界。貴方の所で言う未来の日本は、東日本と西日本に別れて国内戦争をしている。第三次世界大戦の最中だ」


「第三次世界大戦?」


「そう、我々は西日本側の人間。そしてあの子、マリアは東日本リーダーの娘のコピーでもある」


「コピーって……」望美が釈然としない表情で呟いた。「マリアは生きているのよ?」


「ああ、生きている。しかし中身はプログラムだ。あの子は東日本の娘の、クローンを元に作られた」


「クローン……」


「そして東日本の本拠地で、自爆するのがあの子の任務だ」


「自爆ですって?」望美が驚いてケイの顔を見つめた。「マリアになんて酷い事させようとしているのよ!」

 

一息つこうとケイが水を飲む。ケイが話している間、アイは黙って窓の外を見ていた。


「あの子はその為に作られた。歩く時限爆弾とでも言おうか。とにかくあの子が死ねば、この京都なんて一瞬にして消える。核までとはいかないが、それ相応の破壊力はある」


「その話を……私に信じろと?」


「信じてもらうしか無い。現に貴方もマリアがどこから来たのか掴めなかった。当たり前だ、あの子は未来から来た兵器だしな」


「…………」

 

望美は複雑な面持ちで俯く。ケイが言うには、マリアは150年先の未来から来たロボット……いや、サイボーグと言った方が近いのだろうか?とにかくマリアの知り合いが見つからないのはそういう事らしい。


「お待たせ致しました、ステーキセットと、ヘルシーグラタンセットのお客様」

 

タイミングを見計らったかのように店員が食事を持ってきた。ケイとアイが一言詫びてから食べ始める。望美はコーヒーのお代わりを頼んだ。


「……食べる時くらい、コート脱いだらどうなの」


暖房が効いているにも関わらず、二人はコートを脱いではいなかった。何かを隠しているようだ。

ケイが目立つのが嫌だが、確かに食べづらいなと苦笑しながらコートを脱いだ。コートの下は二人とも、ぴっちりとしたモビルスーツを着用している。


「これで信じてもらえるだろうか?」


ケイが冗談を含んだ笑いで望美に聞く。望美は少し笑った。


「何だか特注のコスプレみたいね。……それが未来人の格好なの?」


「まあ軍隊に属している人はみな、この格好だ」ステーキを口に頬張る。「筋肉の動きまでしなやかにサポートしてくれる」

 

ふーんと言って望美は二人の格好を探った。軍隊という割には銃とか、そんな危なっかしい物をぶら下げている様子もない。まあ懐から折り畳み銃、なんてものを出されたらお終いだが。


「そういえば、貴方達はどうやってきたのよ」


「我々は次元移動装置を備え付けた車に乗ってこちらに来た。本来はあの子が来た数時間後くらいを予定していたのだが、数日の誤差が出てしまったようだ」

 

ケイが一気に水を飲み干した。


「じゃあマリアは?マリアはマンションの裏道で倒れていたのよ」


「あの子は……施設にあった次元移動装置で、何者かに強制転移させられたのだ。あの子は西日本の切札。誰もが狙っていた。しかし転移先が過去だとは思わなかったな」


「…………」


「記憶が無いのは、こちらも予想外だった。おそらく生身で転移させられた為、データーが破損してしまったのだろう」


「データーって」望美は鼻で笑った。「マリアがアラレちゃんとでも言いたいわけ?」


「……アラレちゃん?」

 

二人が目を丸くする。


「ドラえもんの方が分かるかしら?とにかく貴方達はマリアを道具扱いしてきた。全身にある痣は何?今までよっぽど酷い事してきたんじゃないの!」

 

二人が顔を見合わせる。そこには動揺がはっきりと見てとれた。


「大体今の話自体信じられないわ。未来からきたですって?マリアはロボット?馬鹿馬鹿しい!結局貴方達の仕打ちが酷いから、マリアが逃げてきただけじゃないの?」


「…………」

 

二人は押し黙ってしまった。チャンスだ。望美はこれ見よがしに伝票をもぎ取る。


「もう来ないで下さい、さようなら」


「待て、勝手な事をするな!」

 

ケイが席を立って望美の肩を掴んだ。数人の客が何事かと振り返る。


「離してよっ!」


「とにかくもう一度座るんだ、こんな所で逃げてもらっては困る」

 

周囲を見渡すと、自分達と関わりたくないので、みな目を伏せて見て見ぬふりをしていた。自分だってこんな訳のわからない連中と関わりたくはない。


望美は掴む肩の強さに屈して、もう一度座りなおした。勢いで出て行く作戦は失敗のようだ。


「正直に言うと、あの子に対して酷い事はしてきている。実験も多々あった。しかし、我々の目的は東日本の壊滅。その為にあの子には犠牲になってもらうしか無い」


「酷い……酷いわ」望美は小さく呟いた。「マリアを殺すなんて」


「あの子は人間ではない。そう動くようプログラムされている、人の形をした兵器だ」

 

兵器、と言われても望美には全く実感が無かった。マリアはしゃべりもするし、ゲームだってしている。今でも家でしている事だろう。どう考えても普通の十歳くらいの女の子にしか見えない。


「マリアが兵器なんて……信じられない……」


「無理もない。人間らしく振る舞い、東日本リーダーの娘になりすますのが目的で作られている」ケイは望美の様子を伺いながら、遠慮がちに言った。「……あの子に会わせてくれないだろうか」


「…………」

 

望美はしばらくケイと見つめ合った。どちらとも、何と言おうか迷っている。


「貴方の会わせたくない気持ちも分かる。しかし、我々はあの子を連れ帰りに来たのだ。本来居るべき所に戻らなくてはならない」

 

望美は考えるように顔を顰めた。どうマリアに会わせるかではなく、どうしたらこの場から逃げ出せるかだった。勢いでそのまま飛び出すだけでは、先程と同じようにすぐ捕まってしまうだろう。その証拠にアイがあれから自分の足元を見ているのにも気が付いていた。


「……今すぐ、ですか?」


「いや、次の転移が出来るまで一週間はかかる。その間、申し訳ないが俺とアイが交代で貴方を見張らせてもらう」


「えっ」


「えっーー!」

 

望美よりもアイの方が驚いてみせた。どうやらそんな話は聞かされていなかったらしい。


「嫌よ、何でこんなオバサンまで見張らなくちゃいけないのさ」


「お……」望美は目を丸くした。「おばさんですって?」

 

アイと言う女が幾つかは知らないが、34の自分がおばさん呼ばわりされるとは思ってもみなかった。


「せっかく過去に来たんだから、遊ぼうって言ったのは誰よ!」


「だから交代すると言っているだろう」

 

ケイがいらいらした様子で腕を組んだ。この二人が自分の家に交代で見張りに来る?冗談じゃない!


「ちょっと待ちなさいよ、勝手に話を進めないで。何で私まで見張られなきゃいけないのよ!」


「先程のように逃げ出されては面倒だからだ。悪いけどここは譲らない。俺も貴方も、どうやら信用していないみたいだしな」

 

再び望美とケイは見つめ合った。ケイの心意を探ろうとしたが、その目は黒く淀んで何を考えているのかわからない。望美は大きくため息をついた。


「とりあえず今日は俺が見張る。アイはホテルでのんびりしているといい」

 

そう言ってケンがホテルの鍵をアイに渡した。アイが呆然とその鍵を見つめる。


「え、ちょっと待ってよ。じゃあケイはこの女と一緒に一晩過ごすって言うの?信じられない、何考えてるのよ!」


「お前こそ何を考えているんだ。これは見張りだ、任務だ。明日はお前が見張るんだから早く帰って寝ろ」

 

行くぞ、と腕を無理矢理掴まれて望美は立たされた。引きずるられるように店を後にする。


「ちょっと、あの子置いてきちゃって大丈夫なの?」


「ふん、子供でもあるまいし一人で何とかするだろう。それより離れずについて来てくるんだ。靴を変えたのは逃げ出す為か?」

 

気付かれていた。その辺りは抜かりないらしい。

望美は心の中で舌打ちしながらも、自分がまだお店の伝票を握りしめていた事に気が付いた。


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