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time6.過去への到着

先程こちらの京都に着いたケイとアイは、少し焦げた臭いのする車内で揺れていた。

車は都心に向かって走っている。外では雪がまだあちこちで白を見せおり、アイが試しに息を吐くと白く濁った。


「こっちは今、冬なんだ。もっと厚着してこればよかったかなぁ」

 

アイがぴっちりとした黒のモビルスーツを抱えて言う。車内は二人乗りと窮屈だったが、アイにとっては嬉しかった。何せ憧れの上司との任務なのだ。


「はあ、とにかく人が多い事。見て、まだ京都タワーなんて物がある。すごーい!」

 

はしゃいで手を叩く。そんなアイの様子を、ケイは運転しながら横目で一瞥した。

若そうに見えても、アイが今年で28を迎えたばかりなのを知っている。


「遊びに来ているわけじゃない。そうはしゃぐな」

 

サングラスをかけ、栗色の髪をオールバックで携えるケイが静かに言った。


「いいじゃない、別に。どのみち次の転移には一週間もかかるんだから、もっと過去を楽しみましょうよ、ケイ。それにもうそのダサいサングラスは必要ないでしょ」

 

そう言ってケイのサングラスを勝手に取り上げる。ケイは一瞬顔を顰めたが、またすぐに正面を向いた。


「……確かにそうだな。こちらの金は幾らか持ってきている。場所はわかるんだ、そう焦る必要もないだろう」

 

懐からお金の束を一つ掴むと、それを助手席の前に投げ置く。アイがあまりの金額にびっくりして、慌ててその束を掴んだ。


「ケイの馬鹿!幾ら持ってきたのよ!これ、あたしたちの給料から引かれちゃうのよ!」


「ふん、せっかくの機会だ、過去で遊び尽くすのも悪くないだろう」

 

そう言い放つケイの横顔は勇ましい、とアイは思った。やっぱりサングラスは無い方がいい。


「とりあえずしまってよ、これ」アイが札束をケイに押し付ける。「で、墜落現場の座標軸まで後どれくらいなの?」


ケイが車に設置された特殊なグラフを見る。グラフには赤と緑の点が点滅しており、それがすぐ重なる位置にまで来ていた。


「もうすぐだ。おそらく、あのマンションの裏側辺りだろう」

 

ケイが指を差す。公園が目の前にあるマンションだった。横手に回ってみるが、車がとても入れそうなスペースではない。


「おい、ここで降りるぞ……駐車禁止ではないよな?」

 

アイと共に確認する。大丈夫そうだ。二人がシートベルトを外して外に出ると、アイが寒そうに身体を震わせた。


「もう、何でよりによってあたしの嫌いな冬なのさ!」


「お前は夏も嫌いだったろうが。文句を言うな、行くぞ」

 

ケイが先にマンション裏の細い路地に入って行く。アイも遅れずにその後に続いた。


「見て、布切れが落ちてるわ!」アイが駆け足で茂みの中にあった布切れを拾い上げた。「駄目、中身がない!」


「墜落から四日経過しているんだ、無理もない」

 

ケイは茂みに近寄った。地面を見ると、最近何かを引きずったような跡がある。


「もしかして、自分で起動しちゃったのかしら?」


「いや、それはないだろう」ケイは地面を指さす。「ここに何かを引きずったような跡が残っている。誰かが1036を運び出した」

 

ケイは後ろ手にそびえているマンションを見上げた。


「とにかく一度車に戻るぞ。こんな所を誰かに見られるとまずい」

 

二人は足早に狭い車内に戻った。ケイがエンジンをかけ、二人で再びグラフを確認する。


「墜落現場は今の所で間違いない。しかし、これを見ても1036はあそこから数メートル動いた地点にいる。……X軸は同じ、おそらくあのマンションの何処かにいるのだろう」

 

アイが何か見えないだろうかと、双眼鏡を取り出して確認する。昼間から電気の付いている部屋は四階だけのようだ。


「で、どうするの?一軒一軒訪ねて回るの?」


「……それしか無いだろう。とりあえずホテルを探すぞ。あと上着か何か欲しい。この格好では目立つ」


「了解。寒くてしょうがないよ」

 

アイが身体を震わせた。車が静かに発進する。


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