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time45.道連れ

翌朝、マリアと永市は後ろ手をしばられた状態でアイの前に座らされていた。


「もう信じられない!あんたはともかく、マリアちゃんまで逃げ出そうとするなんて」

 

イライラしたようにその辺りに積み上げられた雑誌を足でなぎ倒す。その様子に永市は悔しそうにくちびるをかんでこらえていた。

昨日の自分の仕出かした行動にマリアは疑問をいだく。なぜ、あの時アイを突き飛ばしてしまったのだろうか。アイの味方でいられたなら、少なくともこの様にしばられる事はなかったはずだ。


「おい……しばるのは俺だけでいいだろ。マリアちゃんは解いてやれ、元々俺がそそのかしただけだ」

 

なだめつける様に永市は言ってくれたが、アイは知らんぷりしてジャケットを羽織ると、ハンドバッグを片手に外に飛び出してしまった。もうだめだ、アイさんから信用を得ることは難しいだろう。マリアはどうしたものかとしばられた身体を見下ろす。これは基本の後手しばり。二人で解けない事も無いが、解いた所でまた捕まるのがオチだった。


「またこのしばり方かよ」

 

永市が鏡で自分の後ろ姿を確認する。その仕草にマリアは複雑な顔をした。


「どうして……助けに戻ったのですか?」

 

昨日から一番気になっていた事だった。本来なら逃げ切れてもいい時間を提供したはず。なのに、自分を助けに戻ったあまりこうして二人とも捕まってしまった。一人で逃げ出すとふんでいたが、とんだ計算違いがおきてしまったのだ。


「ふん……最初は俺一人で逃げるつもりだったさ。でもな、お前は見捨てられなかったんだ。もう二度と会えない気がして……俺もバカだな」

 

自分自身をあざ笑うと、荷物の入ったかばんを後ろ手のまま器用に開け始めた。何とか手が入る所まで口を開け、中からカメラを取り出して鏡の前で確認し始める。こんな状況でもカメラが大事なのか。


「そんなにそのカメラが大事なのですか?」

「まあな、俺の商売道具だ」軽くチェックし終えるとカメラを机の上に置く。「実は二回目なんだよ、アイちゃんにしばられるの」

 

永市は自分の状況に左右される事なく、部屋をうろうろし始めた。自分の備品を確認して回っているのだと、マリアは気がつく。


「どうして、もう二度と会えないと思ったのですか?もしかして、私が永市さんの娘に似ていたからですか?」

 

永市の表情が一気にしぶくなる。はっとしてマリアはうつむいた。聞いてはいけない事を聞いてしまった。マリアがだまっていると、しばらくして永市が隣に座り直した。


「余計な事を言うな、ガキ。見捨てるのは一度だけで充分なんだよ」

 

お姉ちゃんが傷ついていたように、この男もまた何らかの形で傷ついていたのだろう。マリアはせっかくこの男がくれたチャンスを台無しにしてしまった事を後悔した。自然と涙があふれ、ほほを伝う。


「おい、泣くなよ。お前は何も悪くないだろ」

 

涙を止めようにも、両手がしばられているのでふくことも出来ない。マリアは上を向いて涙が流れるのを最小限におさえようと試みる。


「ほら、肩貸してやるからここでふけ」

 

永市が後ろを向いて左肩に来いと指示をする。マリアはその後ろ姿に素直に従うことにした。今なら、どうしてお姉ちゃんがこの男とけっこんしたのか分かる気がする。顔をほころばせると、マリアは永市にすがり付いた。

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