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time4.マリアのルート

この日を境に望美とマリアの不思議な共同生活が始まった。


親が見つかるまで、望美がマリアの面倒を見なくてはならない。お腹いっぱいにして帰ってきた望美は、安心させるようにマリアに言った。


「しばらくの間は、私がマリアの面倒を見るから何も心配しないで。必要な物があったら言って頂戴。とりあえずこの部屋の物は勝手に使っても構わないから」

 

そう言って、当時の面影を残す愛美の部屋を開けた。マリアが後ろからひょっこりと顔を覗かす。


「うん、わかった。でもこの部屋に居た人はどうしたの?」

 

不意にマリアに聞かれて、望美は顔を顰る。


「……この部屋の人はもういないのよ。だから気にせず好きにして」


「やった!」

 

無邪気に喜ぶマリアに、望美は正直怒りを抱いた。知らないのは罪だ、と言ってやりたい。

しかし相手は子供。望美は怒りを左右に振って誤魔化した。


「ゲームが沢山あるから、それで遊んでもいいわよ。しばらくしたらお風呂に入りましょう」

 

ゲームをやりだすマリアを部屋に残して、望美はお風呂場を掃除し、湯をはり始めた。身体の芯まで温まれば、もうマリアは大丈夫だろう。しかし、問題はこれからだ。マリアの親と、マリアが何処から来たのかを見つけなくてはならない。


……とりあえず今日はお風呂に入ってもう寝よう。いろいろあって疲れた。 肩首を回しながら、湯が充分にはるのを待つ。

望美がマリアに「お風呂一緒に入ろうよ」と誘った時には、既にマリアは一ステージをクリアしていた。






翌日、望美はマリアのルート探しをしてみる事にした。

いつまでも自分がマリアを預かっているわけにもいかないだろう。マリアの親が、虐待を働かせているかどうかは別にして、心配しているには違いないのだから。


望美は出掛ける身支度をすると、マリアの部屋を覗いた。まだ気持よさそうに眠っている。本当に愛美そっくりだ。もしかしたらマリアは、神様がくれたクリスマスプレゼントなのかもしれない、と望美が思い込んでしまう程だった。


「マリア、体調の方はもう大丈夫?」

 

寝ているマリアにそっと話しかける。その声に反応してマリアが目を開けた。眠そうに目をこする。


「どこか痛いところとか、ある?」


「……ないよ、大丈夫」


「一応病院に行こうか?」


「病院は嫌っ!」

 

そう言って布団を被ってしまった。望美はマリアの態度に驚いた。そんなに病院が嫌いなのだろうか。


「……わかった。これから少し出かけてくるけど、一人でお留守番出来るかしら?」

 

頭だけ布団から出して頷いてみせる。望美は一応、マリアに聞いてみた。


「何か、思い出したりした?」

 

ううん、と首を横に振る。本人から情報を聞き出すのは、まだ難しそうだった。




望美はマリアに留守を言い聞かせると、近くの病院へと足を運ばせた。病院を嫌がる態度からして、ひょっとして病闘生活から逃げ出してきたのかもしれないと思ったからだ。

マリアの体調は一見万全のようだったが、やはり素人では判断しかねる。このマンションから歩いていける範囲で、大きな病院は一つしかない。望美は病院内にある総合受付で聞いてみることにした。


「あの、すみません」


「はい、何でしょうか」

 

カーデガンを羽織った年配の女性が笑顔で答える。望美はどう切り出そうか考えたが、素直に聞くしか方法は思いつかなかった。


「この病院から、女の子が逃げ出した……なんて事、ないですよね?」


「はい?」年配の女性が露骨に顔を顰める。「それはどう言った意味でしょうか?」


「いえ……その、突然居なくなった患者さんとか……いませんよね?」

 

あははと望美は笑って誤魔化す。駄目だ、これでは完全に怪しい人ではないか。望美はきびすを返すようにして、病院を後にした。


それから望美は警察署に出向いたりもした。もしかしたらマリアの親が、マリアを捜索願に出しているかもしれないと思ったからだ。しかし、最近この辺でそんな物騒な事件は起こっていないと言う。


おかしい。マリアの親は、自分の子が居なくなったというのに、探しもしないのか。望美は名前も顔も知らない相手に苛立ちを覚えながら、マリアは何処から来たのだろうと考え始めた。




発見当時、確かマリアの身体には汚い布だけで、殆ど雪は付着していなかった。おそらく雪が止んでから路地裏で倒れたのだろう。自分が昨日、あの夢で朝方起きた時には雪は降っていた。しかし、コンビニへ行く時には止んでいた。この短時間のどこかで、マリアは倒れた事になる。


マリアが遠くから連れてこられた可能性もないとはいえない。しかし地元の人しか知らないような道に、あのマンションの路地裏に、わざわざ遠くから捨てに来るだろうか。雪も降り積もっている。車も入れないし、そもそもあんな所に捨てる理由がわからない。死んでいるのならともかく、マリアは痣だらけではあったが、生きていた。……こうなったら、近所を一軒一軒尋ねて回るしかないのか。


一息着こうと、望美は近くの喫茶店に入る。店員にコーヒーを頼んでそれをすすりながら、銀行に後どれくらい残っていただろうかと考え始めた。愛美が亡くなってから望美は、あの事故の損害賠償で生活してきていた。自分がどれくらい使ったのかなんて把握していない。そんな必要が無いと思っていたが、これからはお金が必要になるかもしれない。マリアは本来、小学校に通っている年頃なのだ。


急に現実が望美の頭上をかすめた。そうだ、小学校だ。この近辺の小学校に行けば、マリアが何処の家の子かわかるかもしれない。あたってみる価値はありそうだ。

望美は携帯でマンション近くの小学校を探し始めた。この範囲で通いそうな所が四箇所見つかった。

望美はとりあえず、マンションから一番近い小学校をあたってみることにした。


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