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39/52

time39.それぞれの企み

永市に昼食を買いに行かせた後、二人はまた視線を地図に落とした。


「転移の場所と、正確の日時、未来に帰るまでの所要時間はどれくらいですか?」

 

アイがハンドバッグから小さなメモを取り出す。


「えっと、日時は一月二日の正午。転移場所はこの比叡山ふもと周辺。未来ではあの山周辺と、琵琶湖と呼ばれていたこの付近にあたし達の基地があるの。所要時間と言えば、車で移動する時間くらいね」

 

地図上では南の永市の家から、北の比叡山までかなりの距離がある。


「あたし達もそうだったんだけど、転移先と日付が多少前後してしまうと思うわ。あたし達も未来で自分達の基地から転移して来たんだけど、実際に着いた場所は京都駅の少し南のこの辺り」アイが地図を指す。「日付も四日ほどズレが生じたわ。本当はマリアちゃんが転移された直後に着く予定だったの」

「結構不確かな所が多いのですね」

「ええ。時空時差が生じるから、明日の正午っていう時間も結構あいまいかも。実際転移する場所で測定しなおさなきゃ、何とも言えないわ」

「では早めに転移場所に行く必要がありますね……取引場所は、どうしますか?」

「なるべく手荒なマネはしたくないけど、万一の場合もあるし、人目につかない所がいいわね」

 

二人は地図を食い入るように見つめた。山中に入ってしまえば、人目につかないだろうが、そこまで車が通行出来るのかが危うい。北の方はここより寒く、山となれば雪がつもっているはずだった。


「アイさん、見てください。ここにガーデンパークなんてのがありますよ」

 

それは山のちょうど中腹辺りに小さく表示されていた。


「ここで待ち合わせしようって言うの?しゃれているけど、来客もいそうじゃない」

「今は年末年始です。休業している所が多いですよ」マリアは立ち上がって、勝手に永市のパソコンをいじり始めた。「その公園、今は冬期休園中です。四月まで開かないみたいですよ」

「へぇ、なら都合いいわね。そこに行くまでどれくらいかかるの?」

「道路状況が分かりませんが、二時間もあれば余裕で着けると思います」

 

マリアは念のためにりれきをさく除する。そして地図を細部まで暗記し始めた。


「遠いけど、どの道未来でもここまで戻って来なくちゃならないから、しょうがないわね」アイがつけっ放しにされたテレビのカニを見つめる。「あー、お腹空いたわ」

 

マリアは思わずげん関の方を見た。永市さんは本当に昼食を買ってくるのだろうか。今ごろどこか遠くににげだしているのではないか。


「永市さん、どうしますか?事情を説明しても納得しませんよ」

 

アイもうーんと首をひねりながら、どうしようかと部屋をうろうろし始めた。やがて空腹の合図で動くのをやめると、ソファにどかっともたれかかった。


「そんなの考えるまでもないわ。寝ている所をしばりあげて、あたしの運転で運んでいけばいい話じゃない」

「ずいぶんと乱暴なやり方ですね」マリアは永市がしばられている姿を想像し、顔を引きつらせた。「私が永市さんを見張る役割もかねて、ここからにげ出そうと話を持ちかけますよ。そこをアイさんがつかまえれば、一応こうそくする理由も出来ます」

「マリアちゃんも、ずいぶん悪い女になったわね」

「そうですね、自分でも意外です」

 

二人の悪女は密かに笑いあった。






付近のスーパーは元旦休みの為、永市はこうして街中まで車を走らせていた。参拝帰りなのか破魔矢をぶら下げている連中が目立つ。新年ムードのお気楽さに永市はため息をこぼした。


「はぁ、やってらんねぇよ」

 

無残にも前のバンパーがへこみ、ボンネットがうっすらへこまされた愛車を運転席から労るように見つめる。くそっ、あの女から修理代もせしめてやらねば。ハンドバッグに入っていた大金を思い出し、隙あらば盗んでやると永市はほくそ笑んだ。

 

このまま遠くまで逃げてやろうかとも思ったが、それをすればは自宅がただで済まされない。あの女に家中めちゃくちゃにされるだろう。家には何百万とつぎ込んだ商売道具があるんだ、スタンド以外に壊されてはたまらない。

適当に寿司とお節の具材を取り揃えると、永市は急いで自宅へと車を走らせる。さて、あの女をどうやって追いだそうか。マリアと言うガキも邪魔だ。未来の兵器だか何だか知らないが、昨日の様子からして自分の味方になりそうもない。


昨日二人が深夜にひそひそと話し合っていたのも永市は知っていた。あのガキ、俺を蹴りつけやがって。ガキは何とかねじ伏せられるにせよ、問題はアイの方だった。またあの蹴りをくらっては一溜まりも無い。アイを取り押さえるチャンスがあるとすれば、全てが丸腰になる風呂場だ。流石に風呂場ではあの変てこな服を脱ぐだろう。永市は家にロープがあるかどうか頭の中で検証し始めた。


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