表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/52

time38.疑惑

こうなる事をある程度予測はしていたが、悲しい結末が頭をちらつかせてならない。それでも進まずにいられないのが人間なのだろうか。

マリアはイヤホンを外すと、静かに永市の家に戻った。アイがソファで頭をかかえたまま座っている。


「アイさん、しっかりして下さい。ケイさん自身が決めた事です。それを受け入れるのも部下の役目ですよ」

 

アイがこちらに顔を向けたが、目がすわっている。このままではアイは使い物にならなくなってしまう。明日まで永市を脅し続けなければならないのに。マリアはバスルームの方を見た。永市がシャワーを浴びて、そろそろ出てくるころだった。


「永市さんにその顔を見せたらだめです。もっと強気でいて下さい。未来に帰れなくなりますよ」マリアはアイの冷たい手を握った。「素直に事実を受け入れる勇気も必要です。私も自分が兵器だという事実を受け入れました。子供のふりをしていたのはそのためだと理解しました。アイさんも、未来に帰って事実を報告しなければならない……違いますか?」

 

そうね、とアイがさみしくつぶやく。


「ケイさんの行動に自分が左右される事はないのです。アイさんは、アイさんらしく生きて下さい」

 

アイの焦点がマリアに定まった。


「そんな事言われても、気持ちがついていかないわ。ケイは軍を、あたし達を裏切ったのよ……信じられない」

「下調べに私の転送といい、ケイさんは前から計画していたのだと思います……おそらく、私のことも助けたかったに違いありません。あのまま未来にいたら、私はこの世にいなかったのですから。ケイさんは、私に過去で生きるチャンスをくれたのです」

 

アイがまさかと自分の顔をまじまじと見た。


「ケイがマリアちゃんを……?」

「だから見張りを付けてまで、お姉ちゃんのそばにいさせてくれたのです。そうとしか思えません」

 

マリアは初めて会った時のケイの顔を思い出した。アイもだまってうなずく。


「そう言えばケイは未来でも、マリアちゃんを気にかけていたわ。管理者だからと思っていたけど、あれはガラスごしでマリアちゃんを助けようとたくらんでいたのかも」

「私が宮本さんの娘のコピーだったのが許せないのでしょう。宮本さんはケイさんにとって親せきであり、親友でもあり、またライバルでもあった。西軍が東軍の懐に私をまぎれさせ、かいめつさせる計画自体が不意打ち。きっと正々堂々と勝負したかったケイさんは、上のきたないやり方を止めたかったのでしょう」

「そっか……ケイは元々、争い自体あまり好んではいなかった。ましてや関係のない、一般市民までまきこむあの計画に賛成するわけがない……上にとっても、ケイの存在はじゃまだったはず。だから永市を殺させに過去に向かわせた……?まって、そんな事って」

「ないとも言えないですね。ケイさんが私をにがす代わりに、過去での暗殺をしょうだくしたのかもしれないです」マリアが表情をくもらせた。「だってケイさんの先祖も永市さんなら、彼を殺したらケイさんも存在しなくなってしまいます」

 

アイがあっと、声を上げた。そうなのだ、今の永市がいなければ、ケイも宮本も未来で存在しなくなる。ケイの独断もあるかもしれないが、上からの命令が下されていないとも言えない。上は自分をにがしたケイの存在を快く思っていないだろうから。


「ねぇ、どっちを信じればいいの?ケイか、軍か」

 

アイが助けを求めるようにマリアの両肩をつかんだ。現状ではどちらとでもとれる。ましてやケイが未来に帰らない明確な理由がないので、後者の可能性の方が高かった。


「もう未来に帰って、確かめるしかないです。アイさんが未来に帰る事を考えて、ケイさんは真実を話さないだけなのかもしれませんし、本当に先程の電話で話した通りなのかもしれません」マリアは不安気な表情のアイに強く言った。「どちらにせよ、私は未来に帰ります。自分の目で真実を知りたいです」

 

アイも少し考えてから、いつもの強気の表情で答えた。


「あたしも確認したいわ。とにかく未来に帰りましょう」立ち上がってマリアを見下ろす。「あれ?でもケイがせっかくマリアちゃんをにがしてくれたのかもしれないのに、未来に帰っても大丈夫なの?」

「その時はまた、にげればいいだけの話ですよ。早く明日の場所を決めましょう」

 

マリアは急々と乱雑に積み重ねられた本から、地図を探し当てた。ゆかに広げてアイとながめている所に、さっぱりした表情の永市がバスルームから出てきた。


「おい、二人とも何しているんだ?」

 

永市が長くのびた髪をふきながら、あやしげに地図と二人を見比べる。


「ひまだったので、アイさんに未来の京都について教えてもらっていました。ここが永市さんの家なのですね」

 

マリアが京都の南の方を指す。永市はふん、と鼻で笑ってテレビを付けた。


「ひまならテレビでも見てればいいだろうが。それとも俺はどこかに連れて行かれるのか?」

 

するどい。マリアは思わずアイと顔を見合わせた。永市がいては明日の話もろくに出来ない。


「何言っているのよ、それよりお腹空いたわ。何か買って来てよ」

 

アイが永市をじゃけんにあつかう。アイも同じ事を思ったらしい。永市はあからさまに嫌な顔をした。


「俺が買いに行くのかよ」

「あたしこの辺わかんないもの」わざとらしく肩をすくめる。「お正月だしおせちとか、寿司がいいわね」

 

アイがハンドバッグから札たばを取り出し、そこから一万円札を二枚ぬく。永市がおどろいた様子でアイの札たばを見ていた。


「そんな大金、どうしたんだよ」

「ケイからぬすんできたのよ。好きに使って大丈夫だから、早く買って来てよ。マリアちゃんも、お腹空いたでしょ?」

 

うん、とお腹をさすりながら答えた。その様子に仕方なくお金を受け取ると、髪をかわかしにバスルームに戻っていった。テレビの雑音がやけに耳にこびりつく。


「明日まで、永市さんをどうにか留まらせる事も考えなくてはいけませんね。今にげられたらやっかいです」

 

アイもわかっていると笑みを浮かべながら、ハンドバッグの中の銃を確認した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ