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time36.計算上の答え

「明日……朝一にケイと連絡してみるわ。マリアちゃんには悪いけど、ケイの真意を知るまでここにいてもらうから」

 

マリアはゲームも漫画も無いうす暗い部屋を見わたした。隣の部屋からは相変わらずいびきが絶えない。

早くお姉ちゃんの家に帰りたかった。未来に帰るのは明後日、いや、日付をまたいだので、正確に言うなら明日。もう時間はあまりない。あの男と、まだいっしょにいなければならないのか。


「アイさん、ケイさんと取引してみたらどうでしょう?」

「取引?」

「ケイさんの車と、永市さんを取引するのです」マリアはたんたんと続けた。「ケイさんは永市さんを殺したがっているのでしょ?」

 

自分でも恐ろしい事を述べているのはわかっている。しかし、それが今出来そうな最良の方法だった。アイはとんでもない、とそくざに反対した。


「それは駄目よ、未来が変わってしまうわ。永市を守りつつ、車を手に入れないと」

「先に私達が未来に帰ってしまえば、問題ないと思いますよ」

 

マリアの言動に、アイはおどろいた表情をよこした。


「どうしてそう言えるのよ」

「ケイさんはおそらく、未来に帰るつもりはありません。最初から私とアイさんだけを、未来に帰すつもりだったと思われます」マリアはケイの表情と言動、行動を全て思い起こした。「ケイさんは二つの任務を成功させるつもりです。私を未来に帰すのと、永市さんの暗殺。だから私達はにがしてくれるはずです。車の運転は、アイさんも出来ますよね?」

 

アイが興奮気味でうなずく。


「出来るわ。ケイから教えてもらっていたもの」

「そうですか、なら話は早いです。私達が未来に帰るまで、永市さんを殺さないようたのめばいいのです」

 

マリアはいたって真面目に答えたのだが、アイはがっくりとうなだれた。


「そんな簡単に、ケイが言う事を聞くと思う?それに未来に帰っても、ケイが永市を殺したら結局未来が変わって、意味ないじゃない」

 

マリアはその問いに対して答えを導き出した。


「私達が先に未来に帰れば、私達のいる未来は変えられないはずです」瞳を閉じ、マリアは計算する。「時間軸を変えられるのは、私達のいない未来。つまり現在進行形の未来。しかし私達が未来に帰れば、過去に私達はいなくなる。変えられてしまうのは、私達のいない過去での未来。違う世界の時間軸を変えられるだけだと、頭の中で答えが出ました」

「待って、もう少し分かりやすく言ってくれなきゃわかんないわ」

 

アイが混乱したかのように顔をゆがめる。マリアはもう一度頭の中を整理してから言った。


「つまり、今の未来を変えられてしまうだけで、未来にいる私達に影響はないと思われます」

「先に未来に帰れば、永市が死のうがあたし達には関係ないって事?」

 

マリアが強くうなずく。ただしこれは計算上の答えでしかないとは告げなかった。本当は未来を上書きされてしまうのかもしれないし、最悪私達が消されてしまう恐れもある。実際はどうなるのか予測がつけられない。

しかし、今のアイに恐怖をあおるのは良くないとマリアは判断した。なるべく希望と自信を持たせてあげるべきだ。アイは自分と違って人間なのだから。


「理由はよくわからないけど、とにかく先に未来に帰れればいいのね。でも、どうやってケイに殺しを待ってもらうのよ。そこが問題だわ」

 

アイがまた頭を抱える。マリアもしばらく考えたふりをしながら、最良のシミュレーションを導きだそうとした。しかし、まだまだ情報が足りない。


「やはり、一度ケイさんと連絡を取って話を聞くしかないですね。それから取引を考えましょう」アイの手を優しくにぎる。「私も協力しますから、アイさんも安心して寝てください。夜ふかしはお肌に良くないです」

 

ありがとう、と笑いながらアイは答えた。


「まさか子供にはげまされるとは思わなかったわ」

 

マリアも笑いながら答えた。


「子供じゃありません。兵器ですよ」


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