time15.お買い物
ケイはすぐさまホテルに戻り、シャワーを浴びてから地下の駐車場に向かった。
青い球を押し付けて車の鍵を開ける。車を開けられるのは自分しかいないが、ケイは一応車中をチェックする。大丈夫そうだ。
懐の現金を確認し、車を発進させる。まずはあの男の実家に行ってみよう。ケイは座標軸を設定しようと手帳を開いた。本当はこんな原始的な物を使いたくはないが、移転する際は強力な磁場が発生するため機械類は一切持ち込み出来ない。ケイが好んで使用するレーザー銃も持ち込み不可だ。あれは綺麗に人体が切れるので楽なのだが。
時刻を確認する。九時三七分。そろそろ店も開くだろう。ケイは洋服を揃えに駅前のモールへと車を誘導させた。
モールの中はやたら騒がしかった。赤字に貼られたセールの文字がけばけばしい。ケイはどんな服を買おうか悩んで、ふとポスターの前に立ち止まった。これは確かスーツと呼ばれる、この時代の働く男が来ている格好だ。このモールへ来る時も、このような格好をした男を多数見てきた。ポスターの男もかっこ良く着こなしている。これにしよう。ケイはその場でスーツを着て行くことにした。今着ているロングコートにも、よく似合うだろう。
女性の店員にある程度つくろって貰い、ネクタイだけ結んでもらうと、お礼だと言って手を取りそこに口付けした。女性が頬を赤くする。これで女に優しくした事になるだろう。昨日女性の扱いが下手だと望美に指摘されたのを、実は密かに気にしていた。ケイは一人満足すると、先程まで着ていたモビルスーツを抱えてモールを後にした。
河原町は相変わらず沢山の人で賑わっていた。年末セールの真っ最中らしく、あちこちから客引きの声が上がる。アイが面白がって一々それに反応するので、望美達は何度も足止めを食らった。
「カメラなんか関係無いでしょうが」
「えー、でもこの時代の物見るだけでも面白いからさぁ」
アイが忙しなくあちこちに目を配らせている。それ程までに過去が、この時代が珍しい物なのだろうか。アイが今朝、未来に京都は無いと言っていた事を思い出した。
「ねぇ、未来の京都はどんな感じなの?」
「どんな感じって言われても……」アイが今度は言葉を選ぶように目を配らせる。「何も無いんだよ、とにかく。瓦礫の山ばかりね」
望美は所狭しと店が連なる商店街を見渡した。一五〇年後にはここも瓦礫の山なのか。あまりにも想像しがたい世界に、望美は不思議な気持ちになった。自分も過去に行ったら、アイの気持ちも理解出来るのだろうか。
一五〇年前と言ったら、年号で言うと一八六〇年。あの有名なペリーが来て日本は幕末だった頃の時代になる。それを考えると今の自分を取り巻く環境が、文明がいかに不可解だと納得出来る節がある。
ふと気がつくとマリアがいない。望美が慌てて振り向くと、中古のゲーム屋でマリアが物欲しそうに棚を眺めていた。
服よりゲームの方がよっぽど欲しいらしい。愛美もそうだった。おしゃれに目覚めるのにはまだ早い年頃だろう。マリアに近づくと、欲しい物があったら買ってあげるわよと囁いた。




