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13/52

time13.交代

翌日、八時ちょうどにアイが尋ねてきた。ケイはとっくの昔に起きていたらしく、小説に読み耽っている。望美は今起きたばかりの頭を揺すり起こして、アイを招き入れた。


「おはようございます!」

 

昨日とは打って変わっての元気の良さに、望美は驚いた。まるで別人だ。何かあったのだろう。


「おはよう……アイちゃんは偉い元気ね」


「まあね、おばさん寝癖が酷いわよ」

 

またしてもおばさん呼ばわりされ、望美はど突いたろうかと睨みつけた。そんな目線もお構いなしにアイがリビングに入る。


「ケイ、交代に来たわよ。……何読んでるの?」

 

小説、と一瞬だけ顔を上げてケイはまた文字に目線を落とした。アイがホテルの鍵を投げつけてやると、ケイはそれを見ずに鍵を受け取る。


「ケイ、あたし行きたい所が出来たんだけど、三人で行ったら見張りも大丈夫よね?」


「三人で?」


「そう。あたしと、望美さんと、マリアちゃんの三人で。ね、いいでしょ?」


「……何処に行くんだ」


「ショッピングよ。この時代の服も欲しいと思って。こんな格好じゃ、目立って恥ずかしいわ」

 

アイが一回転する。満更でも無いように見えるが、ケイは昨日言っていたモデルとも関係しているのだろうと踏んだ。が、それを口に出す事はしなかった。


「と言う事で望美さん、お洋服選び手伝って下さい。ね、いいでしょ?」

 

ケイの前では名前で呼ぶのか。随分いい態度じゃないの。望美は目覚めのコーヒーを入れ始めた。


「じゃ、交代だ。小中さん、悪いがアイの事を頼む」


ケイはそれだけを告げてさっさと出ていってしまった。

アイがケイを見送った後、きびすを返すように望美に問いただす。


「昨日は何も無かったのよね?……まぁ、何かあっても困るけど」

 

アイちゃんはケイの事が好きなのか。望美はわかり易いアイに、笑い出しそうになった。


「何も無いわよ。ただ一緒に夕食を食べただけ。それだけよ」


「ふーん。あ、この辺りで可愛い洋服の店、あります?」


「そうねぇ……アイちゃんくらいの若者だったら、河原町とか、その辺りに行ったら何かあるんじゃない?」


「じゃあそこに連れてって。お願い、望美さん」


「まだお店自体が開いてないわよ。どうしたのよ、突然。何かあったの?」

 

待ってましたと言わんばかりにアイが胸を張る。自分の身体を魅せつけているのかと望美が気付いたのは、数秒経ってからだった。


「あたし、昨日スカウトされちゃった!」


「スカウト?」


「そう、モデルの!」アイが胸ポケットから堂々と名刺を取り出した。「見て、名刺まで貰って、昨日一緒に食事もしたのよ!」

 

興奮気味にアイが名刺を見せびらかす。望美はその名刺を見た瞬間、アイから奪っていきなり破り捨てた。


「ちょっと何するのよ、酷い!」


「あんた騙されてるのよ。その男、ろくなカメラマンじゃないわ」

 

永市京介。まさかこんな所で名前を見るとは思いもしなかった。まだこの近くにいたのか。望美は倒れそうになる身体を堪えるため、両足で踏ん張る。


「え、永市さんと知り合いだったの?」


「……昔ちょっとね」

 

望美は顔を曇らせて、永市の姿を思い出した。自分の元旦那。仕事を理由に愛美や自分をほったらかして、モデルの子と浮気した最低な男。今思い返しただけでも腹が立ってくるのだった。


望美は怒りを鎮めようとコーヒーを啜った。まずい。


「そんなぁ」アイが脱力したようにその場に項垂れる。「一回モデルもやってみたかったのになぁ」


「やめときなさいよ。あんな撮られるだけの仕事なんて」


「でもでもっ、服買うのはいいでしょ?この格好じゃ街歩くの恥ずかしいわ」

 

アイが必死で訴えた。確かに今の時代には不釣合いの格好をしている。


「私の服じゃ駄目なの?」


「嫌よ、趣味が合わないわ!」

 

アイの趣味がどんなのか知らないが、構わず否定してくるアイに怒りが沸く。望美はもう一度コーヒーを啜った。


「……じゃあ買物には行きましょう。それでいい?」


「はい、望美さんが分かってくれる人で良かった!」

 

けろっとした表情でアイが立ち上がる。全く、いい性格しているわ。望美は諦めたように出掛ける準備をし始めた。


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