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『用済み』だと親から言われた私ですが、帰る場所ができました。

作者: 有梨束
掲載日:2026/03/22

「お前はもう用済みだよ」

家族にそう言われたのが、愛想が尽きた瞬間だった。



「レア、お前はお姉さんなんだからアズーラに譲ってあげなさい」

「レア、お姉さんなんだから、アズーラの世話はあんたがするのよ」

「レア、家族のために動こうとは思わないのかい?」


「…はい、そのようにします」


物心ついた時から、それが当たり前だった。


お姉さんなんだから、家族なんだから、そう言われるたびに、私がお姉ちゃんだから、長女だから頑張るんだと思ってきた。


心の片隅で、家族なのにどうして私のためには誰も何もしてくれないんだろうと思いながらも。


私が成果を出せば、私のこともアズーラみたいに愛してもらえるかもしれない。


ドレスの手配、手紙の代筆、お茶会の準備、使用人への指示出し、家の管理、領地経営の帳簿付け、領地へ行って領民の話を聞く、それを次の年に活かす…、挙げたらきりがないほどたくさん頑張ってきた。


だけど、私が成人しても、デビュタントには出してもらえなかった。


はじめてドレスが着られるかもしれないという淡い期待は叶わなかった。



「…どうして、私はデビュタントに出られないのですか?」

「何を言っている。まだ家族のために何もなし得ていないじゃないか」

「でもっ、デビュタントは貴族の子どもなら全員出られるって聞いて…!」

「レアのくせに贅沢言うんじゃないよ!お前は家族のために働いていればいいんだ!」


もうどうしていいかわからなかった。



相変わらず私だけ愛してもらえないし、私のことを隠したい様子の両親への期待みたいなものは綻び始めていた頃だった。


我が家でアズーラの誕生日会をした時、いつものように完璧な準備だけ任され、会の最中は部屋から出ないように言われていた。


だけれど、お客様同士のトラブルが起き、使用人に呼ばれて会場である庭に出た。


その日は年頃の子息令嬢ばかりで、アズーラの婚約者探しも兼ねていたから自分とも年の近い子ばかりで、全員が煌めいて見えて、泣きたくなった。


私だけお仕着せで、惨めだと思った。


トラブル自体も、アズーラへのアプローチをかけていた男子同士の小競り合いで、収めるのは私じゃなくてもよかった。


礼をしてその場から離れたけれど、家に入る前にしゃがみ込んで泣いてしまった。


「あなた、大丈夫?」

後ろから声をかけられて振り返ると、美しい女の子が立っていた。


両親はアズーラを美人だ可愛いだ言うけれど、もっと綺麗な子もこの世にいるんだと思った。


「も、申し訳ありません、大丈夫です…!」

「でも、具合が悪いんではなくて?」

「いえ、その、ドレスが綺麗で素敵だなと…」

「あら、感動で泣いていたの?感情豊かねえっ」

「…私も着てみたかったなと思ったら、泣いてしまいまして」

「ふふ、メイドさんでもドレスには憧れるのね」


メイドさん…、私は使用人しか見られないんだ。


「それにしても、あなたすごいのね!私たちと年も変わらないのに、先ほどの小競り合いもあっという間に片付けちゃうんだもの!」

「ああ、あれはアズーラは喧嘩しない殿方が好ましいと言っただけで…」

「あら、そうだったの?」

「はい、本当かどうかはわかりませんが…」

「あらあらまあまあ!あなた面白いのね!ねえ、お名前を聞いてもいいかしら?」

「レアと申します」


家名を名乗っていいのかわからなくて、名前だけ伝えた。


「レアね!もしここでお仕事がなくなったら、ぜひ私のところへ来て欲しいわ!」

「…お嬢様のところへ?」

「ええ!仕事は出来そうだし、年の近い話し相手は嬉しいし!レアはドレスの管理や髪結いなどはできるかしら?」

「はい、ひと通りなら」

「あら素敵ね、ますます私の侍女に欲しいわ」

「侍女…」

「私が結婚する時についてきてくれる侍女を探しているところなのよ。あなた、お家はどこかしら?」

「えっと」

「あら、もう戻らなくてはね。私はアディソン家のヴェラと言うの。何かあったら、私を尋ねに来てちょうだいね!」

ヴェラ様はそれだけ言い残すと、庭の方へ戻られた。


アディソン家は、我が家より家格が上の方だ。

手紙の代筆でご当主ともやりとりしたことあるが、誠実な方だという印象だ。

お嬢様はたしか14歳だったはずだけど、ヴェラ様のことだったのかな。


私に、家族以外の選択肢が突然降ってきた瞬間だった。


それはなんだか、暗闇に光を照らすようだった。


今までの私なら、両親の許可も得ずに行動するなんて有り得なかったけれど、このことはなぜかすんなり行動できた。


いきなりの訪問はまずいと思って、私なりに考えてヴェラ様宛にお手紙を出した。


すると、すぐに返事が来て、訪問の許可を頂いた。


足りなかった食料の買い出しに行くと嘘をついて、家を出たのははじめてだった。


「まあ、レア!本当に私を訪ねに来てくれてありがとう!」

「私の方こそ、不躾に申し訳ありません」

「いいのよ、とっても嬉しかったから!」

ヴェラ様はにっこり笑いかけてくれた。


両親はこんなふうに笑いかけたりしない。

妹のアズーラは、私に甘える時しか笑わない。


ありがとうって、言われた…。


「それでね、私の方こそあなたに謝らないといけないことがあるのよ、レア」

ヴェラ様は私に紅茶を勧めると、しょんぼりした。


あ、やっぱり侍女のお話はなかったことに…。

そうよね、デビュタントにも出せない私じゃ。


「いえ、声をかけていただいただけで十分身に余ることでしたので」

「えっ!ちがうの!私、あなたがいいと思ってお父様に相談したのよ!」

「では、謝ることとは…」

「お父様がどこの誰かわからなければ雇えないと言って、あなたの素性を調べさせてもらったのよ」

「それは当たり前のことでございます、アディソン様が謝ることじゃ…」

「ううん、私あの家のメイドさんだと勘違いしていたのよ、ごめんなさい。レアは男爵家のお嬢さんだったのね」

「はい…」

「それにしてもレアはどうして社交界や貴族学校に来ていないの?いくら養子だからって、妹さんと扱いが違ってひどいわ」

「養子…?」

「ええ、戸籍にしっかり前男爵様のお子さんだと書かれていたわ。それなのに。レア、あなた不当な扱いを受けているのではなくて?」

ヴェラ様の言葉を飲み込むのに、時間がかかった。


どういうこと、私には家族だって言っていたけど、私は本当は家族じゃなかったの…?


「ねえ、レア。あなたは正式な跡継ぎだから、私の侍女にはなれないけれど、何か困っていることがあれば力になるから言ってね?」


ヴェラ様は、優しく私の手を取って、心配そうに眉を下げた。


私の心配してくれる人が目の前にいる。

そのことに、また泣きそうになった。

この前とは違う、これは嬉しくて泣きそうなんだ…。


熱を出した時だって、家族に心配されたことないのに。


「アディソン様さえよければ、お願いがあるのですが…」

私は震える手で、ヴェラ様の手を握り返した。




これは、私の最後の両親への一縷の望みだった。


私のことが必要だと言って欲しかった。


だから、お願いしに行った。


「今からでもいいので、デビュタントに出させてほしいんです」

「まだそんなこと言っとるのか。今度、アズーラのデビュタントがあるのに、迷惑かけるんじゃない!」

「でも、私はこの家の長子ですよね?私は跡継ぎとして、社交界に出ないと困るのはお父様方なのでは?」

そう言ってみせたが、お父様はハンッと鼻で笑うだけだった。


「レア、お前のような出来損ないに家が継げるわけがなかろう」


ああ、やっぱり私のことは隠し通して、アズーラに家も全部あげたいんだ…。


ヴェラ様の話だと、私は1歳の時に叔父夫妻に引き取られたと戸籍にあったそうだ。

アズーラとは、年子の姉妹だと思っていたけれど、違ったんだ。


「それに朗報もあるぞ!アズーラの婚約が決まったんだ!婿に来て、この家を引き継いでくれるお前なんかよりもずっと優秀な男だ。やっぱり継ぐなら男じゃないとな!」


お父様は愉快そうに、支離滅裂なことを言った。


今までの私なら、そうなのかな、お父様たちが言うならしょうがないと思ってきたけど、今浮かぶのはヴェラ様の顔だった。


「そうですか…、おめでとうございます」

「だから、お前はもう用済みだ、レア」


ニヤリと顔を歪めるこの人は、私の親なんかじゃなかったんだ。


「アズーラに婚約者ができたのだから、お前は跡継ぎでもなんでもない。用済みだが寛大だから家には置いてやるぞ。これからも妹夫婦と私たち家族のために励むんだぞ」

「はい、そのようにします」

「ぎゃははっ、わかればいい!」

私は一礼して、部屋を出た。


最後まで養子の話が出なかったし、もう用済みだと許可も得た。


私には、家族はいなかった。


だから、新しくお仕えする人は自分で決める。


もう用意していた鞄を手に、誰にも気づかれぬうちに家を出た。



「いらっしゃい、レア!…やっぱり、駄目だったのね」

アディソン家を訪ねると、ヴェラ様が私のことを待っていてくれた。

出迎えるなり、私のことを抱き締めてくれた。



「はい、不躾なお願いをしまして、申し訳ありませんでした」

「いいのよ!私がレアがよかったの!お父様が明日除籍の手続きをしてくれるそうだから、それまでもう少し待ってね」

「何から何までありがとうございます」

「明日から私の侍女としてよろしくね、レア」

「こちらこそよろしくお願いします、ヴェラ様」

私が頭を下げると、ヴェラ様は私の手を引いた。


「さあさあ、堅苦しい挨拶はおしまいよ。レア、あなたは今日までは男爵令嬢なんだから、おめかししなくちゃっ!」

「えっ?」

「私のお古で申し訳ないんだけど、今すぐドレスに着替えましょう!」

「…!」

「レアのこと、うんと着飾るの私楽しみにしてたんだから!」


私は泣きそうになるのを堪えて、ヴェラ様と同じように笑ってみせた。



明日になったら、あの人たちとも縁が切れる。

今までの頑張りを、お支えしたい人だけに注げる。

それだけでも十分嬉しいのに。


「今日はお祝いよ、レア!私のところにレアが来てくれたお祝いに、ご馳走を作らせているから!お菓子もあるのよ!」

「ありがとうございます…!」

「レアがいなくなって、困ればいいんだわ!」

「そんなのどうでもいいんです。私には帰る場所ができたので」


私がそう言うと、ヴェラ様はやっぱり笑ってくれた。


「そうね、おかえりレア!」



後日、アディソン家の当主様であり、私の新しい雇い主は鷹揚に笑ってこう言った。


「我が家はどうも素晴らしい娘付きの侍女を雇えたらしい。レア、君はあの家で何をしていたんだい?」

「何と言われますと、…ドレスの手配、手紙の代筆、お茶会の準備、領地経営の帳簿付け、あとは」

「レア、それ1人で担う量じゃないわ…」

「と言った具合だから、君の生家は今やてんてこまいらしいぞ」

「はあ…、そうなのですね」

「あの家に帰りたくなっていないかい?」

「私とはもう関係ありませんので」

「それならよかった。我が家としても、もうレアにいなくなられたら困るからな」

「そうよ!ずーっと一緒にいてね、レア」

「はい、お嬢様!」





お読みくださりありがとうございます!  毎日投稿81日目。


今月中に短編以外も投稿できたらな〜と思っています。その時はよろしくお願いします!

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