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夜に咲く肢体─くびなし─

作者: 遊月奈喩多
掲載日:2026/01/25

 皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申すものでございます!


 首なし、という単語を目にすることが増えましたね。

 作者が最初に知った「首なし」はやっぱり某スリルショックサスペンスな名探偵の漫画でしたが、皆様の首なしはどこから?


 本編スタートです!!


※ スリルショックサスペンスな名探偵の主題歌だと、作者は「TRUTH~A Great Derective of Love~」が好きです。

 俺には日課ならぬ週課がある。

 それは、毎週土曜日の未明にゴミ出しをして、そのついでに自宅隣のコンビニでエナジードリンクを1缶買うことだ。

 決められたゴミ出しの時間は朝の7時からだが、俺の夜更かし癖ではとても朝7時なんて起きられないし、かといってもう若くもないから7時まで起きているということもできない。そんなわけで、俺はいつしか大体夜中の4時過ぎを目安に家を出て、すぐ裏手にあるゴミ捨て場へと向かうようになっていた。


「首なしねぇ……」

 夜中の空気に白い息を吐きながら、俺は独り言を漏らす。

 俺だって腐っても現代人だ、SNSのひとつやふたつは(たしな)んでいる。そこでついさっき見かけたのが、『首なし』という単語だった。確かに日本には首なし馬の言い伝えもあったりするし、そもそも四肢欠損の類いもよくイラストで描かれたりしている。もちろん現実にも起こりうる出来事だし、そうなった当事者には困りものなのは百も承知だが、この国では欠損というのも立派な性癖だ。

 いや、外国に目を向けたって《ミロのヴィーナス》やら《サモトラケのニケ》のように、パーツが欠けた状態で見つかった美術品が世界的な人気を博している。いわばこの世界は、欠損を愛していると言っても過言ではない。不吉の象徴やら死期を報せるものとして伝えられる首なし騎士(デュラハン)にしたって、伝承の始まりはその手の性癖だったかも知れない。


「ったく、夢があるじゃねぇかよ」

 これだから人間ってのはやめられねぇ。

 声に出すと妙に気持ちが昂るもので、俺はいつの間にか少年時代に観ていた(グレート)(ティーチャー)の登場するアニメの主題歌を口遊み始めていた。

 ひとっこひとりいない深夜の道に、まさにそんな状況がしっくりくるような題の歌が小さく響く。まぁ、俺地下鉄とかは乗らねぇけどさ。


 ゴミ袋にネットを被せて、俺は次の目的地であるコンビニへと足を向ける。どうせ近所だからサンダルでもいいかと思っていたが、さすがに氷点下回ろうかという深夜なのを考慮しておいて正解だった。靴じゃなかったら凍傷にでもなっていたかも知れない──そんなことを考えていた俺は、コンビニの真裏に到着したところで足を止める。


「……あ?」


 俺のいるところからすぐ左に曲がれば、コンビニの入り口はすぐ傍だ。脇目も振らず曲がってしまえばいい。だが俺の視線はコンビニのある左ではなく真っ直ぐ──夜の闇に点々と灯された街灯の、無機質な白に染まった道に釘付けになっていた。そこに立っている女は、確かに首がない。


 何せ頭部がないから判別もつきにくいが、年の頃は大体二十歳前後だろうか。出るところはグラビアアイドルでも勧めたくなるくらい出ていながらも、それでいて肥えた印象を受けたりはしない程度に引き締まってもいる、見ていて惚れ惚れするような身体をしている。

 若い肉付きを感じる脚を肩幅くらいに広げ、軽い前傾姿勢に上体を倒している。腕をだらりと下げたその姿勢も相まってそれなりの豊かさを誇る胸も強調されて見えるが、やっぱり頭部がないってのがなかなかに強烈だ。思わず唾を飲んでしまう。


 しかし。

 まぁ、なんだ。

 やっぱり、その、さ。

 気になるんだよな。

 だから、思わず口に出してしまった。


「おい、そこの君さ。おーい、聞こえる? あのさー、君さ」

 これ普通の相手だと事案だよな、首なくてよかったわ……真冬だってのに冷や汗をかきながら、俺はどうしても言いたかったことを伝える。


「君さ、こんな冬に全裸でいられると普通に見てて寒いから。あと変なのにヤられるかも知れないから。エロ路線でいくんじゃないなら、どっか行って古着でも漁ってきなさい。地図みれるかわからんけど、近くのスーパーに古着回収ポストあるからそこからこっそり──」


 多少離れているので、なるべく声を張って。

 いや、これマジで親切心だぜ?

 下手すりゃ襲ってたとこ、必死に紳士ぶって親切言ったんだぜ?

 なのにだよ。

 なのに首なし女、走ってきやがった。

 人間の味を覚えたクマみたいな勢いで、こっちに突っ込んできやがったんだ!


「うおぉ! 危険が危ない!!」


 曲がり角で止まっといてよかった!

 急いで逃げ出し、間一髪のところでコンビニに逃げ込む。……ふぅ、何かホラーのお約束みたいだが、やっぱり入ってこられないらしいな、ざまあみろ! ヤモリみたいにへばり付きやがってよぉ、あんま大人をビビらせんなよな!

「ったく、何だよなぁ人が親切で言ってんのに。しゃあねえ、罰としてそのまま見抜、」


 バン!!!

「ひえっ、」


 ズボンを下ろそうとしたところで、そうはさせないと言いたげに窓ガラスを叩かれる。チッ、合法的に見せられる相手かと思ったのによぉ。

 渋々ズボンを穿()き直していると、お、新顔か。初めて見る顔の店員が、窓ガラスをチラチラ気にしながらこちらへ歩いてくる。まぁこんだけうるさくしてりゃ気になるよな。


「お客さん、外にいるのってお連れ様ですか?」

「いやぁ違うんですけど、なんか着いてきちゃったみたいで……」

「どうしよう……夜勤初めて入ったんですけど、こういうときって警察呼んだ方がいいんですかね」


 俺に訊かれてもな。

 おどおどし始めた店員をなんとか(なだ)める。確かに通報してもらって、警察やら何やらでごった返している隙に家に帰るのもアリかも知れないな……、思案に暮れていると、なんと首なし女はどこかへ歩き去っていくではないか。

 猫背のせいか、それとも実際にそうなのか、少しとぼとぼと落ち込んだようにも見える歩き方をされると若干の名残惜しさはあったが、まぁいくら身体がよくても、しかもあの突進を見ちまうとな。

 とはいえ、服くらいはくれてやるべきだったか──うっかり逃した露出のチャンスを惜しみながらも、俺は店員に軽く会釈してから店を出る。店先から玄関が見える程度には俺の自宅は近いので、まぁここからはウイニングランみたいなモンさ。


「ん?」

 おいおい、マジかよ。


 店を出てすぐに気付いた。

 やっぱりあの女、ただ首がないだけじゃなかったらしい。

 何らかの怪異だったってことか……!?


 玄関照明に照らされる暗がりに佇む、生唾ものの恵体。いわゆる薄い本なら垂涎ものだろうが、いざ家ノ前にいられるとよぉ……!


「…………っし、」

 軽くストレッチをして、足をほぐす。ついでにちょっと跳ねとくか。

 まったく、しょうがないやつだ!


「おーい、君! そんなとこで待ち構えて、お泊まり希望かな!?」

 そんなわけあるか!と言いたげに、壁に拳を叩きつける首なし。おいおい、壁材欠けてたら弁償させるぞ? そして案の定軽く上体を倒して、走る構えをとり始めた。


 ははっ、まるで闘牛みたいだな。

 ……一部、牛みたいだし。


 首がないと心も読めるのか、怒り心頭と言わんばかりの様子で突進してきた謎の女との追いかけっこは、第2ラウンドに突入した……!

 前書きに引き続き、遊月です。本作もお付き合いいただき、ありがとうございます! お楽しみいただけましたら幸いです♪


 深夜徘徊、皆様は楽しんでおられますか?

 作者はごくごくたまにする機会があるのですが、やはり見慣れた家並みでも人気(ひとけ)のない暗がりだと怖いものがありますよね。もちろん、夜に同じ道を通ることもしょっちゅうなのですが、そういうただの夜と未明くらいの夜って、なんとなく雰囲気が違いますよね。それこそ何かが出てきてもおかしくないと言いますか。私がいつぞや徘徊していた場所で遭遇したのは『オニサン、アソビマショ』と本当にコテコテの片言で話しかけてくるお姉さん方だったのですが、近所を歩いているときもたまに人とすれ違うことがあるので、勝手ながらビクッとしております(ごめんね!)。


 ということで、閑話休題。

 このお話は、作者が実際にゴミ出しをしている最中に思い付いたお話でした。ちなみに作者はエナジードリンクを買うことができたとか。

 それにしても、夜中の道って怖いですよね。そんなときに見かけるのがふしんしゃおじさんだったりへんたいふしんしゃさんだったりするよりは、全裸の首なしお化けだったらいいなと思ってしまうのは男の子の(さが)というやつでしょうか。いいえ、誰でも。


 首なしを求めれば、首が、落ちる。

 ●ぇ~~~しぃ~~~♪(でぃーしー)


 ということで、また違うお話でお会いしましょう!

 ではではっ!!


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