表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/63

8.旅立ちの時

 魔物騒動の日から数か月が経った。

 冬がやってきて雪が積もり、そして冬が終わって春がやってきた。



 この頃、アルティーノは大分銃も得意になってきた。

 冬の間に一度だけ、森から魔物が出てきた事があったのだが、その時も上手く対処する事ができた。

 なんなら、そのまま死体を隠蔽して騒ぎにならない様にできたぐらいだ。


 冬も終わったし、アルティーノはそろそろ村を出てもいいのではないか、と思い始めている……。


「アル、どうしたの?」


 今日は畑作業が無い日らしく、クルレディアもオフィーリアも家に残っていた。

 とはいえ、クルレディアは自室で眠っているが。


 オフィーリアはアルティーノが考え込んでいるのに気が付いたのか、横からこちらの顔を覗き込んできた。


「い、いや、どうも無いけど……?」


「ふーーん……?」


 本当かな、と言いたげに更に顔を近付けてくる。

 アルティーノは必死に目を逸らした。


「嘘ね、絶対何か悩んでる」


 バレた。


(リアはもしかして心が読めるのか……!?)


 そんな訳は無い。

 オフィーリアには異能の証は出ていないのだから。


「え、えーと、そろそろ村を出てもいいのではないのかなぁ、と考えてて……」


「……そういえば、前も言ってたわね。……まだ、返事もしてなかったわね」


「あ、そういえばそうだね」


 前に一度同じ様な話をした時、アルティーノはオフィーリアも一緒にどうか、と誘ったのだ。

 その時は、色々考えたいから返事を待っていてくれ、と言われてしまった。

 それからすぐに魔物騒動が起こり、ロアーナが亡くなって大変になってしまったので、考える時間が無かったのだろう。なんなら、忘れていた様だ。


「……ごめん、今ここで返事していい?」


「え?いいけど?」


 ん゛ん゛、と咳払いをして、居住まいを正すオフィーリア。


「ごめん。私は、一緒には行けないわ」


「そ、う……」


「ごめんね。本当は一緒に行きたいんだけど……まだ父さんは一人じゃやっていけないし、私まで居なくなる訳にはいかない」


「……そうだよね……」


 どんどん落ち込んでいくアルティーノ。

 やはりそう答えるだろう、とは思っていながらも、落ち込まずにはいられなかった。


「だからね、その代わり……」


 顔を赤らめて、再び咳払いをするオフィーリア。


 え、何?とアルティーノは驚いた。それはもう驚いた。


「ん゛ん゛……。時間が経って、私が大人になる頃には、父さんも畑作業はしなくなってると思うの……。だから、そしたら……私を迎えに来て欲しい。それで、その……その時は、私と結婚して欲しいの!」


「――え」


 時が止まった様な感覚だった。


 旅の道連れにならないか、と誘ったと思ったら、何故かプロポーズされたのだ。


 え、どういう事?リアって僕の事好きだったの?


 そう言いたげな顔をしていた。


(び、びっくりした……結婚……確かに、リアならいいかも……?)


 不安げな表情で、上目遣いをしてアルティーノの方を見るオフィーリア。

 アルティーノが断らないか、不安で不安で仕方が無いのだろう。目が少し潤んでいるのが、アルティーノにも分かった。


「アル……?その、嫌、だった……?」


 涙声でそう言うオフィーリアを見ると、アルティーノの胸はきゅっと締め付けられた。


「い、嫌な訳無いよ!むしろ、嬉しくて驚いてるっていうか――」


「う、嬉しいの……?」


「え、えーと……」


(しまった、つい口が滑った!)


 アルティーノとて、オフィーリアが嫌いな訳では無い。むしろ好きだ。

 でも、まだ幼いアルティーノには、それが親愛の情なのか、恋愛の情なのか、まだハッキリとしていなかった。

 姉弟として見ても、幼馴染として見ても、オフィーリアの事は好きである。

 ただ、それがいきなり夫婦となると……まだアルティーノには、想像も付かなかった。


 しかし……他の誰かと一緒に暮らして子供を作る、なんていう光景も、想像は付かなかった。

 やはり、相手にするならば、オフィーリア以外居ないのだ。そう思えた。


 よし、と拳を握り締めるアルティーノ。


「嬉しいよ!だから、僕が大人になったら、迎えに来るね……?」


「ッ……うんっ!」


 満面の笑みで頷くオフィーリア。


 ああ、受け入れて良かったな、とアルティーノは思った。

 その笑顔に、確かに今、アルティーノはときめいていた。


「……うぅ、おはよう」


 その現場に入ってきたクルレディアは、顔を赤らめた二人を見て、(あれ、これ起きない方が良かったのでは……?)と思った。







「よし、問題無いね」


 数日後、朝目が覚めると、アルティーノは自室で、拳銃や食料、水や野営道具が正しく召喚・送還できるかどうかを確認した。


 それが終わると、寝間着から服を着替える。


 部屋を出る前に、アルティーノは自室を見回した。


(……今までありがとう。さようなら)


 アルティーノは、生まれ育った部屋を後にした。

 きっと、もうこの部屋を訪れる事は無いだろうから、別れはきちんとした。


「――あ」


 部屋を出ると、珍しく両親が居た。

 今日は少し早くアルティーノの目が覚めたからだろう。


 目が合うと、なんとも言えない空気が流れた。


 何か言わねば、と思い、アルティーノは口を開いた。


「あ、あの――今日、村出るから」


 出てきた言葉は、それだけだった。


「……そう、分かったわ」


 母親は、それだけ言って頷いた。


 アルティーノにとって、数か月ぶりに聞く母の声だった。


 一緒に朝食を食べる気にはなれず、アルティーノは家を出た。


 昨晩クルレディアには村を旅立つ事を告げてあるが、オフィーリアには告げていない。

 なので、これからオフィーリアの家に行き、昼頃に村を出るつもりだ。



 オフィーリアの家が見えてきた辺りで、丁度クルレディアと遭遇した。


「坊主、俺は畑仕事があるから見送りはできねえが……元気でな」


 ポン、とアルティーノの頭を叩いた。

 アルティーノは、なんとか頷いた。涙が出ないように。


 クルレディアは、それだけ言うと畑の方に向かった。


 アルティーノは鼻を啜ると、オフィーリアの家に入った。


「ああ、アル。なんか父さんがさ、今日は畑仕事はしなくていいって言ったんだけど、なんでだと思う?」


 家に入るなり、オフィーリアがそう言ってきた。

 きっと、クルレディアが気を利かせてくれたのだろう。


 上手い言葉を見つけようとしたアルティーノだったが、こういう時に限って頭は回らない。

 仕方無く、アルティーノは簡潔に言う事にした。


「リア。僕、村を出るよ」


「――そう。……分かったわ」


 オフィーリアはそれだけ言うと、自分の部屋に入っていった。


 なんだろう、とアルティーノは思ったが、しばらく経っても出てこなかったので、アルティーノはオフィーリアの家を出た。







 アルティーノは、前までオフィーリアとの待ち合わせ場所にしていた村の外れに一度顔を出した後、村の出入り口にやってきた。


 門衛役の村人が居たのだが、アルティーノが来るなり舌打ちをしてどこかに行ってしまったので、今ここにはアルティーノしか居ない。


 数分すると、オフィーリアがやってきた。


「……アル。はい、これ」


 オフィーリアは自分が手に持っていた木製のブレスレットを、アルティーノに手渡した。


「これは……?」


「父さんに作り方を教わって作ったの。父さんが母さんに結婚を申し込んだ時も、これと同じのを渡したんだって。……本当はね、プロポーズする時に渡そうと思ってたんだけど、あんな感じになると思ってなかったから……だから、受け取って!」


「う、うん……」


 アルティーノは、しばらくブレスレットを見詰めた。

 オフィーリアからの初めてのプレゼントだ。嬉しくてたまらなかった。


 何分経っただろうか。

 しばしブレスレットを見詰めた後、アルティーノはブレスレットをオフィーリアに差し出した。


「――え?」


 プレゼントを返された、と思って、悲しげな表情になるオフィーリア。

 もちろん、アルティーノにそんなつもりは無い。


「リアが着けて欲しいんだ」


「あ、ああ……分かったわ」


 右腕を突き出し、オフィーリアにブレスレットを着けてもらう。


 ゆっくりと着けてもらい、ブレスレットを嵌めた右腕を見る。

 自然と笑みが漏れた。


(嬉しい……)


 しかし、ずっとこうしても居られない。

 首をブンブン横に振ると、アルティーノはオフィーリアから一歩離れた。


「それじゃ――」


「――アル!」


 オフィーリアに別れを告げようとすると、オフィーリアの背後から走ってくる人影が見えた。

 よく見てみると、それは他でもない、アルティーノの母親だった。


 母親は走ってアルティーノに近付くと、革製の巾着を無言で渡して、背中を向けて去って行った。


(……?)


 首を傾げて巾着を開けてみると、そこにはお金が少し入っていた。


 お金。


 アルティーノは、お金を見るのは初めてだった。

 そもそも、村の中ではお金を使う事はほとんど無い。強いて言うなら、村の外からやってきた商人にしか使わない。村民同士では、物々交換が一般的だ。


 銀貨が二枚。

 それの価値がどれ程か分からなかったが、アルティーノは嬉しかった。

 もう自分に関心を失ってしまったと思っていた母親が、アルティーノに贈り物をくれたのだから。


 アルティーノは巾着を懐に仕舞うと、再びオフィーリアに顔を向ける。


「それじゃ、リア。……またね」


「……うん。またね」


 「またね」だ。「さようなら」では無い。

 アルティーノは大人になったら帰って来て、オフィーリアと結婚するのだから。


 アルティーノは涙が溢れてくる前に、オフィーリアに背を向けた。


 そして、歩き出す。


 アルティーノも、オフィーリアも、頬には涙が伝わっていた。

 この日、アルティーノは、生まれてから育ってきた村を後にしたのだった。

 少しでも面白いな、と思って頂けたら、感想・評価・ブックマーク等して下さると非常に嬉しいです!今後の活動のモチベーションになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓こちらの作品もどうぞ!↓
対極の二人が交わるまで
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ