7.村で過ごす日
あれからしばらく。
騒がれていた村も落ち着き、村人達はいつも通りの生活を取り戻した。
オフィーリア達も慣れない生活に最初は戸惑っていたが、時折アルティーノが手伝いに行ったりする事で事無きを得ていた。
「おう、坊主、助かる」
「アル、ありがとね」
「いえ」
以前はクルレディアとロアーナが二人で畑作業をしていたのだが、今は亡きロアーナの代わりにオフィーリアがその役割を務めている。
本来であれば十歳を過ぎるくらいまでは畑作業に参加する事は無いのだが、まあ特別措置という事だ。
また、前まではロアーナが仕事終わりに料理を作ったりと家事をしていたのだが、それは今はアルティーノが行っている。
まだオフィーリアは体力が無いので、仕事終わりはくたくたなのだ。
机の上にある料理を見て、アルティーノに礼を言った後すぐに座るクルレディアとオフィーリア。
畑作業でお昼を抜いているので、お腹が減っているのだろう。仕方無い事だ。
「はむっ、ん、美味しい!」
「いつもすまねぇな、坊主」
「いえいえ」
すぐさま手を付けて喜ぶオフィーリア、礼を言ってから食べるクルレディア。
この辺りはまだまだ、歳の違いが出る様だ。
「じゃあ僕はそろそろ」
夕食の時間なので、アルティーノは家に帰らねばならない。
ここ最近は朝晩以外はずっとオフィーリアの家に居るが、流石に夜は帰っている。悪魔憑きとはいえ、両親が心配するだろうからだ。
「そうか?泊まってったっていいんだぞ?」
「……流石に、両親が心配するので」
「そうか……」
「はんはひほはひのほほなんへひひのほ!」
「……リア、飲み込んでから喋ろうな」
モグモグしながら何かを伝えようとするオフィーリアの頭を、クルレディアがポンと叩いた。
もしかしたら、実はアルティーノの方が大人なのかもしれない。
「ごくんっ……あんなアルの事碌に考えてない人達の事なんて、気にしなくていいのよ!」
「碌に考えてないって事は無いと思うけどなぁ……ちゃんとご飯はくれるし」
「でも……!」
ガタン、と机を叩くオフィーリア。
「親なら、ちゃんと子供の面倒を見るべきだわ……!」
オフィーリアは、まるで自分の事の様に涙を流した。
隣に座るクルレディアは、瞳を涙で滲ませるオフィーリアの頭をゆっくりと撫でた。
「まあまあ、リア。泣くな。坊主が良いって言ってるんだ。……だがな坊主、本当に辛くなったら、遠慮無く頼るんだぞ?」
「は、はい」
クルレディアの言葉に、アルティーノは素直に頷いた。
どうやらクルレディアは、アルティーノをもう一人の子供とまで思っている様だ。
アルティーノはクルレディアに頭を下げた後、立ち上がって玄関に向かう。
「しっかし、坊主はリアよりよっぽど大人だなぁ……」
「ちょっ、父さん、なんて事言うのよ!私の方がお姉さんなんだからね!」
そんな会話が聞こえてきた気がしたが、アルティーノは気のせいだと思う事にした。
触れない方が良い事も、世の中にはある。
アルティーノは、何も昼間の間ずっと家事をしている訳では無い。
子供とはいえ、慣れれば家事にそう大した時間は掛からないのだ。
では、何をしているのか?
「ッ!」
――パァン!
銃の練習である。
魔物騒動の時に、アルティーノは自分の実力の無さを実感した。
異能には大分慣れてきたが、戦闘面はからっきしである。
猪の魔物に対しては、無我夢中で引き金を連射する事でどうにか勝つ事ができた。
しかし、もしこれから先村を出たとして、次も同じ様に行くか?
そんな訳が無い。次は負けるだろう。
なので、アルティーノは戦闘の練習をする事にした。
そこで、何が必要か?拳銃の練習だろう。
アルティーノの異能は、直接敵を傷付ける事ができる様なものでは無い。今のところアルティーノにできるのは、物の召喚・送還のみだ。それらでは敵を攻撃する事はできない。
だが、召喚した物で攻撃する事はできる。
しかし、まだ子供のアルティーノでは、剣の様な武器は扱えない。
なので、練習さえすれば扱えるようになる、銃が好ましいのだ。
そういう訳で、昼間は的を用意して銃の練習をする日々が続いている。
村民達には、見られていない……筈だ。
「一回動く的相手に試してみたいけど、そんな都合良く居ないしなあ……」
動く的なんて物は作れないし、人相手に試す訳にもいかない。
魔物相手は……まだ少し怖い。
まあ、追々考えていけばいいだろう。
なるべく早く村を出たいと思っているが、火急の事態でも無い。
少しずつ少しずつ、だ。
アルティーノは拳銃を送還すると、オフィーリアの家に戻った。
(目標は、一人で旅ができるくらい……いや、リアを守りながら旅ができるくらい、かな)




