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64.手合わせ

 翌日。

 『烈火』は昼過ぎから用事があるそうなので、昼食の前に手合わせをする事になった。


「師匠、これ、怪我はどうするんですか?一応リシアンさんが居ますけど、リシアンさんも参加ですよね?」


 僕は手合わせの前になって、治癒魔術を使える人がリシアンさんしか居ない事に気付いた。

 リシアンさんも手合わせに参加するので、これだとリシアンさんが怪我をしてしまうと、治す人が居なくなってしまう。


 だが、僕の懸念は払拭された。


「それは問題無いぞ。これがあるからな」


 師匠が取り出したのは――針の無い注射の様な道具だった。

 それを見て、僕達は揃って首を傾げる。

 なんだろう、あれ?


 僕達の困惑を読み取った師匠は、道具についての説明をしてくれた。


「これは少し前にサーカットで開発された、錬金道具でな。知り合いが開発者なので、譲ってもらったのじゃ。これを使えば、大抵の傷は治せる」


「へぇ、なるほど……」


 何かの本で、光魔術を錬金術に用いるのはかなり難しく、まともに実用化されている物は閃光玉くらい、と読んだ覚えがあるけど……師匠の知り合いは、優秀な錬金術師らしい。


 まあともかくそういう事らしいので、怪我に関しては心配しなくていい。


 審判は師匠が務めてくれるそうなので、僕と『烈火』の面々は、練習場の中央で向かい合った。

 ちなみに、リアも『烈火』の側で参加している。『烈火』と共に戦う最後の機会らしいので、一緒に参加したかったそうだ。人数差が凄い事になるけど、その気持ちは大事だと思うので、僕は尊重する事にした。


「さて、それでは始めようかの……」


 師匠のその呟きで、僕達はいつでも武器を構えられる状態に移行する。


「双方、構え!」


 声が聞こえるなり、僕は異空間収納から短機関銃を取り出し、『烈火』達はそれぞれの得物を抜いた。

 リィさんが片手剣、レーンさんが片手剣と盾、リシアンさんとリアが杖。

 定石通りに行くならば、まずはヒーラーであるリシアンさんを倒すべきだが……僕は一人なので、前衛陣を片付けない事にはどうしようもない。


 さて、どうするか……。


「試合、始めぃ!!」


 僕の思考は、師匠の宣言によって打ち消された。


 開始宣言と共に、リィさんとレーンさんが左右に別れ、僕の方へと向かってくる。

 リシアンさんはいつでも神聖魔術が使えるように待機、リアも二人のカバーが出来るように待機している様だ。


 リィさんとレーンさんの速度は、『ハンサムズ』のディッシュさんや『闇の力』のファイスさんと比べれば、かなり遅い。それは恐らく、二人が強化魔術を会得していないからだろう。

 ならば、近接武器の無い僕にも、勝ち目は充分にある。


 僕は一度銃を異空間収納に仕舞い、直後、両手を二人の方へと向ける。

 その動作で、二人は魔術が放たれると思ったのが、走りながら防御態勢に移った。


 盾を構えながら走るレーンさん、剣を縦にしたリィさんをそれぞれ一瞥し、僕は走っている二人の目の前に結界を展開した。


「「うぉっ!?」」


 突然目の前に現れた透明な壁にぶつかり、二人は尻もちをついた。


 ――今だ。


 僕はすぐに結界を解除し、足に魔力を籠める。

 ディッシュさんやサールデさんにコツを訊き回り、三か月程掛けてついに会得した、強化魔術の使い時だ。


 強化魔術が問題無く発動した事を確認すると、僕は後衛の二人に向けて疾駆した。

 魔力によって強化された足は、通常では有り得ない程の速度で、杖を構える二人に近付く。


 恐ろしい速度で駆けてくる僕を見て、リアが火魔術を使い始めたのが分かった。

 僕はリアの目の前に火の玉が生成されたのを見た瞬間、大きく踏み込んでジャンプした。同時に、強化魔術を解除する。


 三メートル程飛び上がった僕の元に、リアから火の矢が三本放たれた。僕の落下軌道をしっかりと読んだ攻撃。

 しかし、たったの三本では、アグマ・ネタルの攻撃すら凌いだ僕の結界は破れない。


 瞬時に自身の目の前に結界を張り、火の矢を弾き落とす。

 咄嗟に張る結界は、集中して展開した結界よりも硬さが落ちる傾向にあるが、これぐらいの攻撃ならどうという事は無い。


 結界を解除しながら、リアとリシアンさんの背後に着地した。

 リアの火魔術も厄介だが、先にやるべきはヒーラー。


 振り向いた二人の背後でリィさん達がこちらに向かってきているのを確認しつつ、僕は短機関銃を取り出す。

 すぐに狙いをリシアンさんに定め、引き金を引く。


「きゃあっ!」


 神聖魔術で防御を行おうとした様に見えたが、弾丸の速さには適わなかった様だ。

 リシアンさんの右腕と胴体に弾丸が命中し、悲鳴を上げながら倒れる。

 戦線離脱の合図である笛の音が、師匠の方から鳴った。これでリシアンさんは脱落、彼らにヒーラーは居なくなった。


 血を流しながら倒れたリシアンさんが師匠の水魔術で運ばれるのを横目で見た後、目の前まで向かってきていたリィさんとレーンさんに注意を向ける。

 この距離では、引き金を引くよりも早く斬られる。結界の展開も間に合わない。強化魔術も間に合わない。


 僕は一瞬の思考でその事を確認すると、僕の右側に居るレーンさんへと飛び込んだ。

 剣を振りかぶっていたレーンさんは、僕が突然飛び込んでくるとは思っておらず、姿勢を崩して倒れた。

 僕はそのままレーンさんの上に馬乗りになる形になったが、このままでは背後からリィさんに斬られる。


 とはいえ、リィさんも突然の出来事に混乱している筈だ。

 僕はレーンさんの右腕を抑えつけながら、視線を動かしてリアの方を見る。


 視線転移でリアの背後に転移を行う。

 リアは僕の魔術をある程度把握しているので、僕の姿が消えた瞬間、すぐに振り向いた。

 銃を取り出して構えるのと、火魔術を使うのでは、後者の方が早い筈だ。


 ならば――。


 僕は前方に向かって駆け出しながら、強化魔術を使用する。今度は足集中では無く、全身に。


 約一秒後、僕の強化魔術が発動すると同時に、リアの目の前に火の玉が二つ生成される。

 リアはそれを矢に加工しようとしていた様だが、僕が向かってきた為に時間が足りず、火の玉のまま発射してくる。


 多少痛いが、防御手段はこれ以外に無い。


 上下に別れて飛んでくる火の玉を一瞥した僕は、リアに向かってスライディングをする。

 上の玉は回避出来たが、下の玉には直撃した。息を止めて火炎の中を耐え忍ぶ。


「ぐぅっ……!」


 スライディングにスピードが乗っていたのですぐに通り過ぎた事と、強化魔術によって皮膚が強化されていた事で、少しの火傷で済んだ。


 火の玉を通り過ぎた僕は、リアの足を払う。


「きゃっ!」


 リアは倒れると同時に、杖を取り落とした。

 カランカラン、と音を立てて落下した杖に、僕は飛びついた。

 杖術は習った事が無いが、強化魔術である程度強化されている今なら、大丈夫な筈だ。


 僕は姿勢を崩しているリアの脇腹に、杖を刺す。


「かはっ……!!」


 脇腹を強い力で刺されたリアは、肺の空気を吐き出した。

 痛そうな声に思わず申し訳無くなってしまうが、これは手合わせ。仕方が無い。


 笛の音が鳴ったのを確認し、リアから視線を外す。

 残るは、前衛陣の二人。


 ……アレを試してみるか。


 僕は強化魔術を解除すると、二人に向けて杖を向ける。

 二人は最初と同様、走りながらの防御態勢をとった。

 しかし今回は、結界は展開しない。


 二人が充分に近付いてくるまで、待つ。


 二人は、僕が間合いに入った瞬間、剣を大きく振りかぶる。


 ――異空間収納。


 僕は顔面の前に、二人の側を向くようにして、異空間収納を展開した。

 そして、そのまま異空間収納の取り出し口を、二人の背後に設定する。

 収納した相手の魔術を発射するヤツの、剣バージョンである。


 二人は目の前に突然現れた空間の歪みに気付く事無く、異空間収納に剣を突っ込んだ。そして、背後から現れる剣。


 剣先が消えた事に驚く余裕も無く、二人は背後に現れた剣に刺された。


「そこまでっ!!」


 師匠の声が響くと、僕は一度深呼吸をして、倒れた二人に触れながら師匠の前に転移した。


 二人が錬金道具で治療された後、僕も顔の火傷を治療してもらう。


「アル、さっきのは良かったぞ」


 治療を受けながら、師匠に褒められた。

 とても嬉しくなるが、慢心してはいけない。

 何故なら……。


 数分後、師匠対『烈火』の試合は、十五秒程で決着が付いた。

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