61.お別れ
そして、イェヘラにやって来てから、五か月が経った。
今は一月。年も明け、寒くなってきたところである。ちなみに、帝国の冬はほとんど雪が降らないらしい。北の方にある、パライス神国という国では、それなりに雪が降るそうだ。
ちなみに年が明けて、今年は光闇暦1693年というそうだ。光闇暦というのは、偉人である『光闇の聖女』が死んだ年を基準として数えたものらしい。西暦みたいに生まれた年でないのは何故なのか……。
それはともかく。
昨日は、エルナトと共に迷宮に潜る最後の日だった。
せっかく最後という事だったので、僕達は第九階層のボスに挑戦し、無事勝利を果たした。エルナトの闇魔術も最近上達してきているし、僕の銃も心なしか威力が上がっている様な気がする。魔術的なものなのか、本当に気のせいなのか……帰ったら、師匠に訊いてみよう。
昨日のボスの解体素材や所持品は売却済みなので、今日はパーティーの解散手続きを行うだけだ。
「なんだか、最後って思うと、感慨深いわねぇ……」
「そうだね」
エルナトと共に、ギルド食堂の机でショートケーキを食べる。
エルナトはすっかりショートケーキを気に入ってしまったみたいで、週一の頻度でこうして食べる様にしていた。まあ、それも今日で食べ納めなのだが……。
だが、僕は恐らく最後になるギルドよりも、気になる事がある。
それは――。
「ねえ……やっぱりルプス、でっかくなってない……?」
「そう?気のせいじゃない?」
エルナトの横の長椅子に座りながら、干し肉を貪っているルプス。
最初に出会った時より、一回りか二回り大きくなっている気がする。
子供から大人への成長では無い筈だ。ルプスは既に成獣だと、エルナトも言っていた。
う~ん……魔物だからなのかな。魔物の生態とか、詳しくないしな。
魔術学校でその辺りも学べるのかな?頭に留めておこう。
僕がそんな事を考えている間に、エルナトはショートケーキを食べ終えた様だ。
「それじゃ、名残惜しいけど……行きましょうか」
「うん」
丁度ルプスも干し肉を食べ終わり、全員で立ち上がってカウンターに向かう。
「ご用件をお伺いします」
「パーティーの解散申請を、お願いします」
笑顔の受付嬢に、エルナトはそう言った。迷いの無い声音だ。
エルナトと僕は、同時に冒険者カードを差し出す。
「えーと……Cランクパーティーの『空狼』ですね。はい、手続きはこちらで済ませておきますね。……それと、四か月前はありがとうございました」
「ああ、いえいえ。報酬も貰いましたし」
「あ、マスターに会って行きますか?マスターも話ぐらいしたいと思いますし」
「それじゃあお願い出来ますか?」
「はい。少々お待ち下さい」
サールデさんにも挨拶か。
予定外だったけど、確かに挨拶しておいた方が良かったかもしれない。
数分程して、サールデさんがやって来た。
執務室に連れて行かれなかったのは、仕事がひと段落ついたから、だそうだ。
「仕事にキリがついたってのに、書類に囲まれたまま休憩とか嫌だろ?」
「「あはは……」」
エルナトと揃って苦笑いをしながら、ギルド食堂の一角に座り、サールデさんの目の前にショートケーキとコーヒーを召喚する。
「お、悪いな。これ、リエント子爵が定期的にアルティーノから買ってるっつーあれか」
サールデさんが感謝しながらフォークを手に取る横で、隣に座る紫髪の少女からの視線が強い。
視線の意味を理解した僕は、隣の席にも同様の品を用意する。
「はぁぁ……!」
僕は苦笑しながら、喜々としてフォークを取るエルナトを見た。
「お前ら、相変わらず仲良いのな……」
「はい!?」「まあ、それは否定しませんけど……」
驚きでフォークを落としかけるエルナトと、苦笑いしながら頷く僕を見て、サールデさんは笑った。
「なんかお前ら、年齢が逆に見えてくるな」
「それは流石に……五歳差ですよ?五歳差!」
慌てて否定に入るエルナトを見てもう一度笑ってから、サールデさんは手に握っていたフォークを置いた。
「まあ、揶揄いはその辺にしておいて……。お前らまでイェヘラを出るとはなぁ」
「結局、あれから『ハンサムズ』以外は出て行っちゃいましたしね」
「確か、『闇の力』がサーカットに行って、『清き乙女』がサヘラに行ったんでしたっけ?じゃあ、もしかしたらファイスさん達とは会うかもしれないのかぁ」
エルナトは、ショートケーキを一欠片口に放り込みながらそう言う。
「新しいCランクも居るっちゃ居るが、やっぱりあのメンバーに比べると見劣りするんだよなぁ。……次のマスターはディッシュになりそうだな」
ディッシュさんとは、『ハンサムズ』のリーダーの剣士である。
まあこの町唯一のBランクパーティーのリーダーだし、確かに彼が一番適任ではあるだろう。サールデさん自身も、Bランクで引退してマスターになったらしいし。
「交代が早くないですか?まだそんな歳でも無いでしょう?」
「おお、エルナトお前結構言うなぁ……。まあ、子供も育ち盛りだしな。考える頃合いではあるよ」
それなりに失礼な事を言ったエルナトに、サールデさんは苦笑いしながらそう言った。
既婚者で、子持ちだったのか……。
「まあ、なんだかんだ言って、お前らが居なくなると寂しくなりそうだ」
「へへ、サーカットで有名になったら、また顔出しますよ」
「おお、お前意外と自己顕示欲ある奴だったのか……アルティーノはどうなんだ?確か、帝都で学校に入るんだったか?」
「そうですね。イェヘラに顔を出す機会は……あんまり無いかもしれないです。あ、でも、サーカットに行く事があれば、その時に寄るかもです」
「そうかそうか。そういえば、俺の子供もお前に近い歳だからな……勉強させなきゃいけんかもな」
「冒険者にはしないんですか?」
「馬鹿言え、愛しい息子をこんな危険塗れの職業に就かせるかってんだ」
意外にも話が弾んだ僕達は、仕事に追われたサールデさんが執務室に戻るまで、談笑を続けた。
「はぁ~。楽しかったけど、そろそろお別れね」
「そうだね……」
五か月一緒にパーティーを組んだエルナトとも、これでお別れだ。
僕がサーカットに行くか、エルナトが帝都に来るか……どちらも、それなりに大変な事をしなければ、会う事は出来ない。
「まあ、わざわざアルティーノに字を教えてもらったし、あっちに着いたら手紙でも書くわ」
「うん、楽しみにしてる」
「……それじゃ、またいつかね」
かなりあっさりと、エルナトはそう言って、手をひらひらと振った。
「……うん、また」
僕も大袈裟な返しはせず、エルナトと同じ様な返しをして、手を振った。
そして僕は、狼を連れて歩く紫髪の少女に背を向けた。
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